表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

のどかちゃんの願い

 のどかちゃんもいつの間にか一人になっていた。

 どのタイミングでみんなとはぐれたのかは分からない。

 不用意な行動はしてないはずなのに変だなとのどかちゃんは思った。


「もう! みんなどこ行ったのよ?」


 せめてはやて君と一緒ならよかったのにとのどかちゃんは思った。

 しかし誰もいない。


 仕方がないので一人で探索することにした。


「でもその前に」


 ことなちゃんは一階の職員用トイレへと向かった。

 生徒の使用は原則禁止だが、生徒用よりも広く作られているのをことなちゃんは気に入っていた。


 扉を開けて個室に入り、用を足す。


「ふぅ、ぼろいのは変わらないけど、やっぱりこっちの方がいいわね」


 一人の心細さを紛らわすために独り言を言いながら洗面台に向かい手を洗う。

 そしてハンカチで手を拭きながら顔を上げた。


 その時だ。


 鏡を介した視界に何やら人影が見えたのだ。


「誰!」


 びっくりして振り向く。


 するとそこには同じ女子の制服を着た女の子が立っていた。

 しかし女の子の顔はよく見えない。

 何やら暗い影のようなもので覆われている。

 それは少し気味が悪い姿だった。


 しかしそこでのどかちゃんは、ここに来た目的を思い出し理解した。

 この目の前にいる存在こそが、闇の織姫なのだと。


「あなたが闇の織姫ね」


 問いかけるも、女の子は否定も肯定もしなかった。

 事前に話を聞いていなければ、お化けだと見間違えても不思議ではない姿。


 恐怖が無いわけではない。

 でも、のどかちゃんには叶えたい願いがあった。

 だから勇気を振り絞る。


「私の願い、叶えてくれる?」


 そんな言葉がトイレの中に響く。

 すると女の子は沈黙を破り、言葉を発し始めた。


「あなたが短冊に書いたのは、『彼氏が欲しい』」

「そうよ。私ははやて君の彼女になりたいの!」

「そう、それがあなたの願い。でもそれは光。あなたの闇を見せてもらう」

「私の闇?」


 不思議そうに思うのどかちゃんに、女の子はすぅっと近づいて言った。


「ほら、あなたの願いの闇を見せて」


 するとのどかちゃんはうつろな瞳をし、それからしばらくしてしゃべり出した。

 それは何かから解放されたようだった。

 饒舌に、そして狂気を帯びた言葉が吐き出される。


「私ははやて君が好き! でも、あいつがいつも邪魔をする。ことな……。あいつさえいなければ、きっとはやて君は私を好きになってくれていた!」

「本当に?」


 その問いかけにことなちゃんはドキリとする。

 まるで自分の心を見透かされているようだった。


「だって私は可愛いし、男子はみんな私のこと気になってるんだからっ!」

「でも、はやて君は違ったのでしょう? だからこそあなたは彼に惹かれた」

「それは……」

「あなたははやて君のタイプじゃない。はやて君はことなちゃんみたいな大人しい子が好きだって……本当は気づいているんでしょう?」


 女の子の……闇の織姫が言うことは当たっていた。

 悔しいがその通りだと、のどかちゃんは思った。

 だからのどかちゃんは、普段見せないような表情で言い放つ。


「だったらもう無理じゃない! あなたは願いを叶えてくれるんじゃなかったの? あはは! じゃあいいわ、もういい。はやて君が私のものにならないって言うんなら、はやて君なんて死んじゃえばいいんだ! あはは! そうよ! はやて君が死んで、そして私も追いかけて死ぬのよ!!」


 視点の定まっていない目、恐ろしい笑みを浮かべたのどかちゃんがそこにいた。


「そう、それがあなたの願いなのね」

「あんな弱々しい子には、はやて君のために死ぬ勇気なんてないわ! これで私達は一緒になれるのよ、あはははははははははははははははは――――」


 のどかちゃんの笑いはしばらく続いたが、その間に闇の織姫は姿を消し、そして何事もなかったかのように、のどかちゃんもいつもの様子に戻っていた。


「あれ? 私、何してたんだっけ? そうだ! 闇の織姫に会ったんだっけ? 願いを伝えたんだっけ? 何だか頭が痛いしもう帰ろう」


 何となく、闇の織姫に会った気もする。

 ただ、何かに憑りつかれたような感覚、自分が自分じゃないような感覚に襲われた気もしたのだった。


 自分が何を願ったのか。

 それをのどかちゃんがはっきりと思い出したのは、もう少し後になってからの話である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ