闇の織姫を探して
「ねぇ、ことなちゃん、闇の織姫って知ってる?」
そう問いかけたのはサッカー少年のはやて君だ。
午前中の部活が終わり、その足で七夕飾りを見に来たところで、クラスメイトのことなちゃんを見つけたようだ。
「何それ、怖い話?」
少し怯えることなちゃん。
「ちょっと怖いかも。でもさ、願いを叶えてくれるんだって」
興奮気味に言うはやて君の言葉に、ことなちゃんも興味を示す。
「どういうこと?」
「七夕になると生徒に紛れ込んでるんだって。顔の見えない女の子が」
「お、お化けなの?」
「分からない。でもさ、その子は突然現れて、出会った人の願いを叶えてくれるって」
「へぇー」
「信じてないでしょ、ことなちゃん」
不満げな表情のはやて君。
「だって何だか気味が悪いし。でも本当に叶えてくれるんだったら良い子なのかなぁ?」
「出会ったら、短冊に書いた内容と同じことを願えばいいんだって」
「そうなんだ」
「僕も願ったら、レギュラー入りできるかなぁ」
「もうっ、はやて君は頑張ってるんだから、願わなくても大丈夫だよ」
「そ、そうかなぁ。そうだと良いなぁ」
こんなやり取りは日常的だった。
ことなちゃんとはやて君が仲良しなのは明白だった。
「はやて君はどこでその話を知ったの?」
するとはやて君は少し考えてから答えた。
「あれ、そういえば……どこで聞いたんだっけ?」
「ふふ、変なの」
「あはは。まあいいじゃん、どうでもさ。それで願うときに注意することがあるんだけど……」
はやて君が話を続けようとすると、横から割って入る者がいた。
「おう、はやて! 何か面白い話してんじゃん! 俺も仲間に入れろよ。というかその闇の織姫探そうぜ!」
「話、聞いてたんだ」
「まあな」
割り込んできたのは、同じくクラスメイトのかい君だった。
かい君は控えめに言っても問題児で、横暴なリーダー的存在だ。
彼に目を付けられてしまった以上、逃げることは敵わない。
というか怖くて逃げだすこともできないだろう。
彼はそういう人間なのだ。
「じゃあ、つよしも来いよ! 多い方が早く見つかるかもしれねぇだろ」
呼ばれたのは真面目で頭の良いつよし君だった。
つよし君はよくかい君に絡まれていて、理不尽な目によく遭っている。
「うん……わかったよ」
これで四人。
「じゃあ、探そっか。て言っても突然現れるらしいから見つけるのは難しそうだけど。校舎の中を回ってたら見つかるかもね」
はやて君は少し不安になった。
まさかこんなに興味を持たれるとは思ってなかったからだ。
しかも、かい君に。
嘘をついたつもりはないが、内容が噂レベルなだけに心が落ち着かない。
「よっしゃ、お前ら全力で探せよ。見つけたら俺が一番に願いを叶えてもらうんだからな!」
周囲の空気とは裏腹に、かい君はやる気満々だ。
かい君の号令とともに四人は古びた校舎の中へと向かって行った。
すると校舎の柱からひょこっと女子生徒が現れた。
「はやて君が行くんだったら、私も行くわ!」
そう言って出てきたのは、クラスメイトののどかちゃんだった。
たまたま鉢合わせたかのように装っているが、その慌て様から話を聞いていたのは明白だ。
のどかちゃんは可愛らしい子だ。
男子からの人気も高く、好意を向けられることも少なくはない。
しかし、のどかちゃん自身の好意は、とある人物の方向のみを向いていた。
「はやて君、一緒に行きましょ!」
「う、うん」
はやて君の腕を引っ張るのどかちゃん。
そう、のどかちゃんははやて君が好きだった。
しかし、はやて君とことなちゃんが互いに好意を持っているのは明白で、のどかちゃんは焦っていた。
自分の入る隙はあるのだろうかと。
別段二人は交際宣言をしているわけでもなく、事実友達以上恋人未満な関係なのだが。
これはもはや三角関係。
引くわけにはいかないと判断したのだろう。
結局五人で闇の織姫を探すこととなった。
「電気ついてないと薄暗いね」
ことなちゃんの言う通り、校舎の中は薄暗かった。
午後から天気が曇り始めたせいと、授業がないため照明を落としているからなのだろう。
いつもとは違った印象だ。
「さっさと歩いて探せよ」
かい君の怒声が響く。
一般公開されているとはいえ、校舎の中への侵入は許可されていない。
これは生徒も同様だが、入ってしまった以上後戻りはできない。
闇の織姫を見つけるまでは。
「闇の……闇の織姫さ~ん」
恐る恐る問いかけつつ、一階の廊下を進むことなちゃん。
一歩、また一歩と歩みを進める。
ぎしりと軋む床の音も、慣れているはずだが不安をあおる。
「本当に見つかるのかなぁ? ねえ、はやて君」
そこで初めてことなちゃんは気が付いた。
自分が先頭に立って探索していることに。
そんな自分の珍しい行動に驚きつつも振り返る。
すると不思議なことが起きた。
後ろにいるはずのはやて君がいない。
いや、はやて君だけじゃない。
かい君も、つよし君も。
そして、のどかちゃんも。
誰もいなくなっているのだった。
なぜ、どうして?
一人ぽつんといることに対する不安と、どこかへ消えてしまったみんなへの心配で頭がいっぱいになる。
「みんなどこ? ねぇ、はやて君?」
周りを見渡しても見つからない。
そんな短時間ではぐれてしまうだろうか?
もしかして何か恐ろしいことに足を踏み入れてしまったのではと、少しパニックになる。
「ねえ、どこ? どこなの! きゃっ!」
するとどこからか、黒い影の塊がことなちゃんにぶつかってきた。
いや通り過ぎたといった感覚だろうか。
それはどこか人型をしていたようにも思えた。
そしてそれがことなちゃんにぶつかると、ことなちゃんは意識が薄らいでいった。
「あなたは……一体……だ……れ」
身体の力が抜け、廊下に倒れ込む瞬間、目の前に誰かが立っていた気がしたが、ことなちゃんにそれを確認する気力はなかった。
ゆっくりと、重く、深い眠りへと沈んでいったのだった。
ことなちゃんが倒れた後、黒い影は言った。
「思い出して……あなたはもう……」




