エピローグ(真)
ことなちゃんが埋葬された墓地にいるのは、今ははやて君だけの様だ。
だからだろうか。
はやて君はすぐに帰らず、恋人に囁くように墓石に向かって話しかける。
「君は復讐を終え、成仏した頃かな? あの七夕の日、君に会ったときは内心驚いたよ。あの三人が失敗したのかなって? でも、後になってそうではないと理解した。君は幽霊としてあの場にいたんだね。よほど恨んでたんだろうね。だから君は僕が教えた噂話を利用して、彼らに復讐したんだ。」
ポケットから例の短冊を取り出して見つめる。
「そういえば、短冊ありがとう。あの短冊を渡しに来た医者も、多分君のように闇の存在、闇の彦星だったんだろうね。彼は未だに成仏出来ていないようだ、君と違ってね」
闇の彦星に会ったとき、また妙なものと関わってしまったとはやて君は思ったが、あれ以降彼には会っていない。
きっと、ことなちゃんは成仏する前に、彼に短冊を託したのだろう。
役目を終えてしまえば、はやて君に会う理由もない。
この不思議な出来事を知る人間は、もうはやて君しかいない。
悲惨な事件、事故として記録に残るだろうが、そのうち記憶としては薄れていくだろう。
「君には感謝しているよ、あの三人は邪魔だったからね。ところで、なぜあの三人は君を殺したのだろう? 君のことを憎んでいたかい? どちらかといえば仲良くしていたはずだ。裏ではなに考えてるか分かんないけど、殺すほど憎んではいなかった」
はやて君は恋人を愛おしく見つめるように、墓石に顔を近づけると告白を始めた。
「実はね、憎んでいたのは僕なんだ。君を殺したいほどにね。だからあの三人に殺らせた。僕は彼らの闇を知っていたから、命令するのは簡単だった。つよし君がかい君を嫌って他の中学に逃げようとしてるのは知ってたから、それをかい君にリークするぞと脅した。かい君が影でやってきたいじめの中には、明らかに犯罪な行為も含まれていたから、それらの証拠データを警察に流すと脅した。もし僕の言うことを聞いてくれたら、恋人になってあげると、のどかちゃんに約束した」
こうして、はやて君は裏で彼らを支配していた。
彼らにとって闇の番長たる存在だったのだ。
「僕の為なら、彼らは殺しすらやった。……いや、のどかちゃんはそうかも知れないけど、後の二人は保身の為かな。酷いと思うかい? でもみんな君が悪いんだ」
それはある日知ってしまったことなちゃんの秘密が原因だった。
はやて君はそれを知り、ショックを受け、それが次第に憎しみへと変わったのだ。
「ことなちゃんは僕がサッカー部でレギュラー入りすることを望んでたよね? 僕もそれは嬉しかった。応援してくれていると思ったら、辛い練習も頑張れたんだ」
しかしその反面、自分の実力も分かっていた。
すぐにはレギュラー入り出来ないことも。
だから、ことなちゃんの期待に応えられないことが辛かった。
でもある日、急に状況が変わった。
コーチがはやて君を褒めるようになった。
大して上手くなった気はしないのに、はやて君のスタメン起用を想定した練習メニューが組まれた。
「嬉しかったんだ。僕の努力が認められたって。レギュラー入りが確定したら、ことなちゃんに伝えようと、わくわくした」
少し悲しみを帯びた笑顔を見せるはやて君。
しかし、すぐにその表情は怒りへと変わっていった。
「でもある日、見ちゃったんだ。ことなちゃんがコーチとキスしてるところ。僕が君のことを好きなの知ってたよね? 相思相愛だったはずだ。君は僕を喜ばせるつもりだったんだろうけど、あんなことはしてはいけない」
ことなちゃんは色仕掛けでコーチに言い寄っていたのだった。
それがことなちゃんの意思だったのか、コーチから迫られたのかは不明である。
しかし、はやて君を怒らせるには十分だった。
「キスだけかな? もしかしたらもっとエッチなこともしてたんじゃない? どっちにしても酷いよね。だから僕が君の死を望むのも仕方がない。だからあいつらに殺させた」
これが惨劇の真実。
ことなちゃんが闇の織姫として現れるという想定外な出来事があったものの、概ねはやて君の計画によって事は成された。
いつの間にか、彼の願いはサッカーの上達から大好きな人の殺害へとシフトしていたのだ。
「君は復讐を果たして、成仏したはずだ。真実を知らないまま、もう成仏しても良いと判断したはずだ。今更知っても遅いし、知ることもない。だから僕を呪うことも出来ないだろう? 僕は闇の存在を、幽霊さえも欺いたんだ! あはは、ははははははは!!」
人気のない墓地に、中学生とは思えない狂気に満ちた笑い声が風と共に流れていく。
異様に口角を引き上げたその顔は、奇妙かつ恐ろしい。
「僕はこれからも欺き続ける。友人を失うも、それでも希望を持って生きる存在を演じ続ける。誰もが僕を素晴らしい人間だと思うだろう。いじめ撲滅を掲げる僕を、誰も疑いはしないっ!!」
それは完全犯罪を成し遂げた犯人が、勝利に酔いしれるかのよう。
それでも、はやて君はある種、純粋だった。
欺くとは言いつつも、いじめを撲滅したいのは事実であり、死んでしまった友達に悲しみを抱いてもいた。
何が本心なのかと問われれば、全てまとめてはやて君の本心だった。
だからこそ彼は恐ろしい。
憎しみと喜びを言葉と共に吐き出したはやて君は、ことなちゃんが眠る墓石にそっと手を置く。
まるで恋人の頭を撫でるような優しさがそこにはあった。
「ことなちゃん、僕は君を絶対に許さないよ。僕はきっと天国へは行けないだろう。復讐をしたことなちゃんはどうだろうね? もし君が天国に行ったというのなら、僕は君を地獄に引きずり降ろしてあげよう。もし君が地獄に落ちたというのであれば、共に業火で焼かれ続けよう。それはきっと楽しいはずだ。勘違いしないでね。僕は君を殺すほど憎んでいるけど、嫌いになったわけじゃないんだ。だから、君の墓参りにも毎年来るよ。死ぬまでずっとね」
そう伝えると、はやて君は墓石にそっと口づけをした。
「大好きだよ、ことなちゃん」




