歓迎会とハプニング
「乾杯ーっ!!」
メイドリアの一角に設けられた特級クラス専用の広間は、すでにお祭り騒ぎだった。
長机には彩り豊かな料理が並び、クラスメイトたちはそれぞれに盛りつけられた皿を片手にあっちへこっちへと忙しそうに動いている。
「リィーエル、これ! この焼き鳥めっちゃうまいから食べてみな!」
「トマス、それ全部持ってっちゃだめよ!」
「んふふ、そんなに走り回ると転びますよぉ〜?」
「はっはっは! 騒がしいのが特級らしくていいじゃないか!」
最初は圧倒されていたけれど、料理を一口運んだ瞬間、不思議と体の力が抜けた。
甘じょっぱく焼かれた串焼き、ミルク香るポテトのグラタン、ふわふわのタマゴサラダ。どれもこれも、心が温かくなる味だった。
お皿を手に、私は会場の隅へ移動する。
まだちょっとだけ、みんなのテンションに乗り切れない。でも——嫌じゃない。
「リィーエル、あっちで一緒に食べようよ」
声をかけてきたのは、バニラさんだった。
その手には、私のぶんまで取り分けられた小皿が乗っている。
「……ありがとうございます」
「ふふ、まだ緊張してる? 無理しないで、ゆっくりでいいからね」
「はい……でも、少しずつ慣れてきました」
「そっか。それなら良かった」
二人並んで座っていると、シーナさんがふらふらとやってきた。手には……なにか光ってる筒状のものが握られている。
「リィーエルさん〜、歓迎のしるしに、ひとつ実験を見せてあげますよぉ〜?」
「えっ?」
「やめろシーナ、それ絶対ロクなもんじゃない!」
ハルトさんが慌てて止めようとした瞬間、ぼんっという音とともに、筒から紫色の煙がもくもくと立ちのぼった。
「わっ……!?」
視界が一瞬で曇る。煙はどんどん広がって、咳き込む声があちこちから聞こえた。
「シーナ!! 何やってるのよ!?」
「ち、違いますよぉ!? こんなはずでは……」
(止めなきゃ……! けどどうやって……)
私は息を止め、胸の奥で強く想像した。
(この煙が……私の周りから晴れる。広がらない。……結界みたいに)
次の瞬間、私の周囲だけがすうっと澄んだ空間になった。
薄い光の幕が、まるで見えないドームのように煙を防いでいる。
「……すげえ、なにそれ」
最初に声を上げたのは、ハルトさんだった。
「結界……? 魔道具使ってないよな……?」
「リィーエル、それ……どうやったの?」
「えっと……ただ、煙が消えてほしいって……強く思っただけで……」
私の言葉に、みんながぽかんと口を開ける。
しばらくして、トマスさんが破顔してこう言った。
「やっぱすげーよ、リィーエル!」
「ようこそ、特級クラスへ! いや〜、とんでもない逸材が来たな!」
「ご、ごめんなさいぃ……私のせいで、危うく料理が台無しに……」
「次は室内用にしてね、シーナ。……でも、結果的に面白かったわ」
みんなが笑っていた。
煙の向こうで、少し泣きそうになっていた私も、いつの間にか笑っていた。