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この星の名前は  作者: いちじく
第一章 学生編
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副隊長と私

 夢を見た。誰かと話している夢だった。誰かはわからない。でも、その人と話している“私”は、とても楽しくて、幸せだった。


「……ん」

「起きたか。具合はどうだ?」

「……フィー? よかった、フィー……無事だったんだね。はじめから……なんて、お母さんの嘘だったんだね」


「なぜ私の愛称を……いや、それより大丈夫か? やはり頭を強く打ったか?」


「なぁに、フィー……やけ……に……」


 そこまで言って固まった。……なにしてるんだ、私。私は! リィーエル・サルバドール! 見た目は子ども、中身は大人! 名探偵リィーエル! ……って、言ってる場合じゃない! これは後で困るやつだ、忘れてもらわないと!


「あの、『忘れてください』」


「……すまない、少しぼうっとしていた。大丈夫か? 頭は?」


「はい! 大丈夫です!」


 能力想像。それは「そうなればいい」と強く思えば発動するチカラ。想像さえできれば、どんなことでも叶えられる。思えば思うほど、効果は強くなる。……ほんと、チートだよね。


「えっと、あの……あ! わたし、リィーエル・サルバドールと申します!」


「……ふ。失礼した。レディに先に名乗らせるとは。私は王都騎士団副隊長、フィーゼ・L・クラウスラだ」


「れ、れでぃ……」


 五歳児に“レディ”なんて……さすがイケメン。ちょっと微笑んだその表情で、胸に矢が刺さった気分。


「サルバドールといえば、騎士団でもお世話になっているサルバドール殿のご息女か?」


「はい」


 夢の中で見た人と似ていたから、夢の続きだと勘違いしてしまった。それで、あんな醜態を……。でも、ちゃんと能力が発動していたってことだよね。


「なら話は早い。さっき近くでサルバドール殿を見かけた。……イヌ」


「はいよ」


「あっ……」


「やあ、おチビちゃん。“変態さん”だよ」


「そ、その節は……まことに申し訳ございませんでした……!」


 今度は床から“にょきっ”と現れたイヌさん。顔が笑ってない! 思わず土下座して謝った。


「イヌに土下座はいらないよ。だが、サルバドール殿は丁寧な対応で有名だ。そのご息女もそうだとは。素晴らしい家庭だな」


「ニシシ。若旦那は、あのハゲにしか頭下げねぇもんな」


「その方を“ハゲ”と呼ぶな。俺の部下なら、もう少し礼儀を——」


「ハイハイ、わかってますって。我が主様。でも、それより何か用があったんじゃ? それとも……我が主様、幼女趣味が——」


「サルバドール殿に声をかけろ。任務中にご息女を保護したと。遅れるなよ?」


 ここからではフィーゼ様の表情は見えなかったけど、イヌさんの言葉を遮ったあの声……相当怖かった。

 イヌさん、何も言わずに消えちゃったし。あれ、絶対逃げた。


「……? フィーゼ様、お手が……怪我されてます」


「“様”付けはやめてくれ。私は貴族の前に、ただの騎士だ」


「……わかりました。じゃあ、フィーゼ副隊長。よければその怪我、治させてください」


「舐めてれば治るさ」


 私に話すときは“私”、イヌさんと話すときは“俺”なんだ……ズルいな。

 いやいや、なにを考えてるの私は! 初対面の人に、そんな気持ち……。


 でも、この人がどこか遠くにいるように感じて、少しだけ寂しくなった。


「ヒール……小さな怪我からでも、変な病気になることがあります。だから、小さな傷でもちゃんと治してください」


「……驚いたな。マナ持ちか」


「はい。風の月から学園に入学します」


 この世界の暦では、火の月が100日まで。今日は火の月の86日目だから、入学まであと14日しかない。


「寂しくはないのか?」


「……寂しいです。でも、強くなりたい。強くなって、騎士団に入るのが……私の未来です」


「夢、ではなく未来か……ふ。待っている」


「はい!」


 早く卒業して、あなたの隣に立ちたい。

 この気持ちは、なんだろう。どうして、あなたを見ると胸が苦しくなるんだろう。どうして、あなたが懐かしく感じるんだろう。

 笑顔で返事をしながら、私の心は少しだけ、痛んでいた。


 コンコンッ


「はい」


「……フィーゼ副隊長。我が娘がご迷惑をおかけしました」


「サルバドール殿、頭をお上げください。こちらこそ、任務中に巻き込んでしまい申し訳ありません。軽傷とはいえ、お嬢様に怪我をさせてしまったのですから」


「フィーゼ副隊長も、父様も……ごめんなさい!」


 二人が謝り合っているのを見て、私も慌てて頭を下げた。もともと、ひとりで勝手に父様のところへ行こうとしたのが原因だ。


「リィーエル、帰ったら母様にお説教だ。いいね?」


「はい、父様……」


「門までの護衛は、私がいたします」


「副隊長自らとは……恐縮ですな。だが、その方が娘も嬉しかろう」


「とっ、父様っ……!」


 さすが父様……私がフィーゼ副隊長と離れたくないの、見抜いてる。言わなくていいことをサラッと言っちゃうんだから。

 フィーゼ副隊長は少し驚いた顔をして、「承りました」と微笑んだ。

 ……くそ、イケメンめ。眩しすぎる……!


 家に戻ると、母様にこってりと説教され、1時間ほど正座の刑に処された。

 ——子どものうちは、勝手にうろちょろしちゃダメ。心に刻もう。


「学園に通うの?! すっげー!」


「こら、クテル。食事中よ」


「必要なものは準備していただけるそうです。ただ、個人的なものは自分で用意する必要があるのですが……」


 私が目覚めて、まだ2日目。大事にしているものは特にない。だから、リィーエルとしての“想い出の品”を持っていきたいんだけど……何が一番大事だったのか、思い出せない。


 それに——

 リィーエルの“意志”が、どこかあやふやだ。家族を大切に想っていたことはわかる。でも、私が来る前の記憶がぼんやりとしていて、まるで空白みたいだ。

 五歳だから? そうかもしれない。でも、なんとなく、それだけじゃない気がする。


「まだ決めかねているので、ギリギリまで考えてみます」


「そうね、それがいいわ」


 リィーエルのこと、そして“私”のこと。

 今、考えても仕方がない。

 とにかく、学園に入学するまでに、この世界のことをもっと知らなきゃ。

サルバドール家は王都から馬車で20分程の距離にある街に住んでいます。

この大陸といえばサルバドール商会!

と言われるぐらいにかなり有名で、王都には2号店と3号店があります。


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