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この星の名前は  作者: いちじく
第一章 学生編
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プロローグ

「神礼祭の優勝者は、王都騎士団魔学所属・リィーエル・サルバドール!よって、願望者の所有権は彼女に授けられる!」


「代弁者様、ありがとうございます。


……風神・エアリィシャフト。地神・ブレイルガルム。水神・ウォーレンスーフィ。火神・フレイアチャルガ。四柱の神を生み、命の大神・アルテマリーヴェ、サルテマリーヴェ。


どうかこの祈りと声を、あなた方に届けたまえ。」


 騎士団に所属してから、何度も繰り返し覚えた神への祈り。噛まずに言えるようになったのは、いつ頃だっただろうか。


「良き勇姿であった。我が子たちよ」

「大儀であったぞ。我が子たちよ」


 石像へ祈りを捧げると、天空から大神アルテマリーヴェ様とサルテマリーヴェ様が降臨なさった。生身で拝見するのは初めてだけれど、あまりの美しさに息を呑む。


「我は、王都騎士団魔学所属・リィーエル・サルバドールと申します。願望者として、願いを祈る許しを賜りたく存じます」


「……良いでしょう。我らに願いを乞う罪、赦しましょう」


「そなたの願いを、我らに聞かせよ」


「ありがたきお言葉です。……私の願いは——」


 一度、言葉を止めて深呼吸をする。大丈夫。この人たちなら、きっと受け入れてくれる。


「……私を、“みんなと同じ人”にしてください」


 ざわめきが広がる。きっと、あなたも驚いた表情をしているだろう。これは、ずっと言えずにいた私の秘密。


 “私”が目を覚ましたのは、今から15年前のことだった。


 ♢✦♢✦♢✦♢✦♢✦


 私は、まるでスイッチが入るように目を覚ました。これほどまでにすっきりとした気分は初めてだった。側にいたメイドのメアは、突然黙り込んだ私を心配して慌てている。


 代々続く商人、サルバドール家の長女——リィーエル・サルバドール。情熱的な紅い瞳と、白銀の髪。それは家系に存在しない色だった。


 けれど、母は浮気などしていないし、私は養子でもない。れっきとした両親の実子。……ただし、“中身”だけは違う。


 私はいわゆる「転生者」なのだ。だが、前世の記憶は曖昧で、思い出そうとすると霧がかかったようになる。だけど、確信はある。この体の中に“別の私”がいることを。


 リィーエル・サルバドールなんて横文字じゃなかった気がする。年齢も、今の5歳ではなく、成人していたはずだ。それなのに、私は確信している。


 ……おそらく、「大神の子」という称号が関係しているのだろう。


「メア、私……実はマナが使えるの」


「そうなんですか?……え!? マナを、ですか!?」


 とにかく隠そう。『大神の子』なんて称号が知られたら面倒だ。だから、ただのマナ使いとして扱ってもらおう。能力の想像くらいはできる。魔法使いに憧れていたし、将来は騎士団魔学所属になりたいと思っていた。商人は兄が継げばいい。


「落ち着いて、メア。今夜、父様と母様にお話しする」


「……冗談ではないのですね?」


「ええ。私が冗談を言うときは、メアとカロルの関係をネタにするときだよ」


 転生だとか前世だとか、普通なら熱を出したり泣き叫んだりするかもしれない。でも私は冷静だった。記憶は曖昧だけど、確信はある。……それに、目の前で慌てているメアの姿を見ると、なぜか落ち着く。


 実際、前世(仮)の私の精神が強いからか、ファンタジーの世界に来られて正直テンションが上がっている。今すぐマナを使ってみたいくらい。魔法使いって響き、かっこいいよね。箒に乗ってバーンって。


 ……まあ、この世界では魔法じゃなくてマナだし、箒にも乗らないけど。


 ♢✦♢✦♢✦♢✦♢✦


「父様、母様。大事なお話があります」


「あら、どうしたの?」


「私は……マナが使えます」


 にこやかだった母様の表情が固まり、父様は目を見開き、兄様は首を傾げた。


 この世界はヒト族、カルフ族、グレム族、オーム族の四種族で構成されている。中でもカルフ族はマナの適性が高く、ヒト族はほとんど持たない。マナ持ちのヒト族は1000人に1人の希少種だ。


 そんなヒト族の娘がマナを持っているというのだから、両親が驚かないわけがない。


「冗談ではないのか?」


「はい」


「……そうか」


 父様の厳しい顔が、さらに険しくなる。商人として名の知れた父は、今では店頭に立つことは少ないが、人を見る目は衰えていない。私が嘘をついていないと気づいて、考え込んでいるのだろう。


「父様、母様。私は家族を守る騎士になりたい。だから明日、王都へ連れて行ってください」


「……マナ持ちと認定された場合、そう簡単には帰ってこれなくなるのですよ?」


「はい。それでも私は、強くてかっこいい騎士になりたいんです」


 それは、私が“目覚める”前からリィーエルとして抱いていた夢。魔法使いに憧れる前世の私の思いと、リィーエルの夢が重なっている。


「明日、俺も王都に行く予定がある。一緒に行こう」


「父様……! ありがとうございます!」


 マナを持っているかの判定は、王都の神殿で行われる。詳しい方法は分からないが、マナを“具現化”するのだと聞いた。


 突然の告白に驚きながらも、両親は最後に「さすが私たちの子ね」と言って笑ってくれた。私の見た目が人と違っていても、家族だけはいつも味方でいてくれる。そのことが、何よりも嬉しかった。

初投稿になります。


誤字脱字がございましたらご報告ください。


また楽しんでいただけたら嬉しいです。



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