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剣聖様はなぐらない?  作者: S/Q
9/14

なぞの少女

 目の前で起こったことが信じられない。

 ギルドの冒険者から、護衛で知り合った領主の元に移り、騎士位を拝命した。しかしいままで37年、あんな光景は見たことがない。



 アーマーウルフ。3m程のオオカミだが、額や背中、胸の部分を堅い鱗で覆われ、頭頂には短いツノが数本生えている。非常に好戦的で、まれに格下の魔獣を従え群れを作ることもある。通常なら騎士5名で一匹を相手する程の魔獣。



 ―――――――――――――――――――――――


 辺境の村から救援要請がきた。いわく数は不明だがホーンウルフの群れが出て、村人に被害が出ているとのことだった。

 領主様からの命を受け、20名ほどの部下を連れ村へ向かう。

 群れの規模は分からないが、この人数なら100匹までの規模なら大丈夫だろう。


 3日ほどかけて村に着いた。豊かな自然に囲まれたよい村だ。

 村長と自警団から話を聞く。どうやら大きなホーンウルフもいるらしい。見られた場所は、村の入り口からそれほど離れていない森。この距離まで魔獣が近づいているなら、さぞ怖かっただろう。


 平坦な道なりで隊員にも疲労が見えないことから、早速討伐に向こうことにする。

 村の自警団から数名、荷物持ちと案内役を依頼し、森へ向かう。

 丘を越え、村の入り口が遠くに見えるようなって来た頃、森の入り口にさしかかった。

 森の入り口で全員馬から下り、徒歩で中へ進んでいく。


 遠くの方から遠吠えのような者が聞こえるが、ただのオオカミなのか区別はつかない。

 一度休憩を挟み、騎士の中で型そうな者を2名、村の案内役と組ませて斥候とした。


 程なくして、戻った斥候から声がかかる。この先に数匹のホーンウルフがいる。戦闘開始だ。



 やはりホーンウルフ程度、普段から鍛錬をかかさない騎士たちの敵ではない。

 魔獣狩りの基本に忠実に、騎士数人で一体を相手にする。一人が盾でツノによる攻撃を防ぐ。

 すかさず手槍の兵がウルフの首を貫く。


 順調だ。8匹目のウルフを仕留めたが、騎士隊にはけが人も出ていない。

 散発的な遭遇を見ても、群れの規模はそこまで多くないように見える。これなら明日には討伐し終えるだろう。

 あまりにスムーズに進む討伐に、ふと考え事をしたとき、目の前で隊員が吹き飛んだ。



 これまでのウルフに比べると、巨大ともいえるその体で、こちらを見回すアーマーウルフ。

 声を発しようとした瞬間、漆黒の体が流れるように動き、騎士と村の案内役を弾き飛ばす。


 我に返り、武器を構えろと叫ぶ。

 皆、訓練が生きているのか、その一声で武器を構え直した。


 落ち着け。全員でかかればどうにか倒せる。

 ゆっくり相手のミスを誘うのだ。


 そのとき、目の前のアーマーウルフの背後から、もう一匹が飛び出した。


「ぐぁっ」

 そのままアーマーウルフの体当たりを受けた。

 強い衝撃、左腕に痛みが走る。地面に転がり、木の根にぶつかる。

 頭ははっきりしているが、しびれたような感覚で体が動かせない。


 2匹のアーマーウルフは狂ったように暴れながら、騎士隊を一人、また一人と倒していく。


 そのときだった。

 何かがアーマーウルフの顔に飛び、そのすぐ後、我々の背後から、少女が飛び込んできた。


 木剣を携えた、赤い髪の少女。手には木剣のようなものを持っている。


 何を考えている!相手はただの魔獣ではないぞ!

「「「さ、さがれ!」」」 みんなでハモった。


 すぐそばのアーマーウルフが少女に飛びかかる。

 しかし、少女は攻撃を舞うように避ける。そのままバランスを崩したアーマーウルフに木剣をたたき込んだ。


 バキン。

 剣が折れた。ただの木剣だったのか。


「いや、ダメだ!なんで木剣で魔獣に立ち向かっているんだ!」

 も、もうダメだ、急いで助けに行きたいが、体に力が入らない。


「くっ、動けぇ、急がないとあの娘が… あれ?避けてる?」

 当の少女は、アーマーウルフの攻撃を避けていた。

 見かねたもう一匹のアーマーウルフも少女への攻撃に参加したが、少女は避けていく。


 なんだあれは。なぜ、あの速度で避けることができるのだ。

 しかし、武器がない。このままではジリ貧だ。


「う、動ける者は、あの娘を助けろ…。」


 どうにか回復した騎士たちがアーマーウルフに攻撃を繰り出す。

 だが、頭に血が上ったのか、アーマーウルフは騎士の攻撃を避けるが、反撃せずに少女に向かう。


 くそ、まだ足に力が入らん。

 そうだ、あの娘なら使えるかもしれん。腰のサーベルを外し、少女に投げ渡す。


 しっかり受け取った少女は、なぜか目をキラキラさせて剣を凝視する。

 いや、危ない!しっかりしろ。


「ふふ、ふふふふふー。」

 へ、なんかやばいぞあの娘…。

「お前たちは!もう!終わりだー!」

 あ、悪役かお前は!


 その隙にアーマーウルフが、少女に襲いかかる。

 マズい! いや、合わせた!うまいぞ!

 振り下ろす前足に合わせ少女が剣を振る。



 バキン。

 剣が折れた。なんだただの木剣だったか。って違う!ちゃんとした剣だ!しかも結構したのに…。


 少女もまずい状況だった。囲まれて逃げ場がない。

 くそっ、足が動かん! 間に合わん!


 バアン!!!!

 その瞬間、炸裂音が響いた。何が起きたんだ。

 もうもうと上がった土煙がはれると、少女がそこにいた。

 ハッ、アーマーウルフはどうした!?


 いた。少女の足下に。頭が地面にめり込んで。あれはもう死んでるな。


 ガアァァァァアア!!

 仲間の死を感じたのか、激高したアーマーウルフが素早く少女に攻撃を仕掛ける。

 少女はそれを難なくかわして、前足に拳をあわせて弾く。


 3mを超えるウルフが、宙に舞い、少女に襲いかかる。

 少女はカウンターを一閃。 前に出る力を殺されたウルフの体が、ふわりと浮いてから地に落ちる。


 もう、折れた剣などどうでもいい。

 なんだこの少女は。なんだあの力は。 この状況はなんなんだ!


 いや、それよりも今は残りのホーンウルフの殲滅が先だ、足よ動け!


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