決着と見習い
2匹のアーマーウルフを退治した後、自分のおかれた状況を振り返る。
剣ではまったく歯が立たなかった。そもそも両方へし折れた。
でも、素手で倒せた。 特に2匹目。あの正拳突きはこれまでないほどスカッとした。
ん? 正拳? 拳? けん?
こ、これか、これなのかってちっがう!!
頭を抱えてしゃがみ込むアンナ。
剣ではなく、拳。 ようやく気づいた。
うん、神様をちょっとなぐろう。
ハイライトの消えた目で立ち上がるアンナに、なんとか立ち上がった騎士隊長が声をかける。
周りの騎士たちもなんとか回復し、立ち上がっていた。
「すまん。助かった。あのままでは部隊が全滅していた。」
「あ、いえいえ。みなさん大丈夫ですか。」
「ああ、みな無事だ。」
「よかった…。とも言ってられないようですね。」
格上のアーマーウルフが倒れたにも関わらず、アンナと騎士の周りを、ホーンウルフの群れが取り囲んでいた。
「総員、武器を構え直せ! 臆するな!相手はホーンウルフだ!」
「むすめ、悪いが、もう少し協力してもらうぞ。」
「は、はい!」
騎士がホーンウルフを槍で貫く。また別の騎士はウルフの上体へ盾ごとつっこみ弾き飛ばす。
隊長は飛びかかってくるウルフを両断する。
それをキラキラした目で見ながら、アンナは自分に向かってくるウルフにこぶしを放つ。
木をへし折りながら吹き飛ぶウルフ。
(す、すげぇ…)
(あれ、なんだ?)
(しらねぇよ… 妖精かなんかか?)
「よ、よし!だいぶ数が減ったぞ!もう少しだ!」
大きく素早いアーマーウルフとの戦いを経験したのとアンナの助勢で、ホーンウルフの群れは驚くほど早く殲滅できた。アーマーウルフとホーンウルフ合わせて49匹。群れの規模は不明だったが、本来2日以上かけて討伐する規模だったが、1日で済んでしまった。
しかし、帰路についた騎士たちは謎の疲労感に苛まれていた。
(あれ、子供なんだよな…)
(あーそうだな、すごかったよな…吹き飛んだオオカミがまた別のオオカミ巻き込んでさ…)
(あのかわいい女の子が…)
騎士たちの前では、馬に乗せられたアンナが、隊長の質問攻めにあっていた。
「剣士を目指して特訓中なのか。」
「はい、あそこはいつも訓練に使っていまして…。」
「あそこにいた理由は分かった。で、あの格闘術はなんだ?」
「いえ、あの、たまたまなんです…。」
「たまたま、でアーマーウルフの頭がぺちゃんこか。」
「さ、才能があったんですかね?あはは、はは…。」
「ふー、まぁ、助けられたのに違いはない。領主様に報告せねばならんが悪いようにはせんよ。」
「はい、あのよろしくお願いします。」
アンナはまだ10歳だが、そのうち孤児院を出ないといけない。他の孤児たちも村で仕事を見つけて、独り立ちする為、10歳くらいからアルバイトのようなことを始める者も少なくなかった。
そこでタイミングよく騎士と知り合えたアンナは、褒美の代わりに騎士見習いにしてもらえないか、隊長に相談したのだった。