けんとけん
「わたしが、相手だ!」
木剣を構えたアンナは騎士隊とアーマーウルフの間に飛び出した。
「「「さ、さがれ!!!」」」
突然の出来事にあっけにとられていた騎士たちが声を揃えて叫んだ。
しかし、すぐに片方のアーマーウルフがアンナに前足をあげて飛びかかる。
よし!
アンナは騎士たちとアーマーウルフの戦いから、頭の中で行動をシミュレートしていた。
飛び出す前に魔法で身体強化をしており、アンナはアーマーウルフの一撃を余裕を持ってかわした。
自信の一撃をかわされ、動きが止まったアーマーウルフに、アンナは木剣の一撃をたたき込む。
バキンっ
「へ?」
木剣が根元から折れた。
想定外の出来事。今度はアンナが固まった…。
それから数分、強化魔法で上げた身体能力を頼りにアンナは2匹のアーマーウルフの猛攻をどうにかいなしていた。
「相手はこっちだ!」
「くそっ!これもかわすか!」
残った騎士たちも剣や槍でアーマーウルフへ攻撃をするもするりとかわされる。そして反撃もせずアーマーウルフはアンナに向かっていく。
まずいまずいまずい。
2匹のコンビネーションをどうにか避けるアンナだが、攻撃の手段がないため、このままではいつ捕まるか時間の問題だった。
「嬢ちゃん!これを使え!」
なんとか起き上がった騎士隊の隊長が自分のサーベルをアンナに投げ渡した。
き、きたー!剣きたー!
一気に最高潮の興奮に達したアンナ。隙を突いて差し出されたアーマーウルフの前足をよけ、サーベルを鞘から抜いた。
「ふふ、ふふふふふ。」
「お前たちは、もう終わりだー!」
MAXの興奮で悪役のようなセリフを吐きながら、アーマーウルフに斬りかかるアンナ。
アーマーウルフはサーベルに合わせて、前足を振りおろす。
バキンっ
「へ?」
サーベルも折れた。今度も根元から砕けるように。
しかし、固まるヒマなく、アーマーウルフたちの追撃が迫る。
2匹の挟み込むような攻撃に逃げ場をなくしたアンナは、思わず折れたサーベルのナックルガードで、大きな口を開けてせまるアーマーウルフを殴りつけた。
バアンッ
あたりに響く炸裂音。
土煙がはれると、そこにはきょとんとした顔のアンナと、頭を潰され横たわるアーマーウルフがいた。
「へ?」
何が起きたか理解できない騎士たち。
「なんか、体が自然にうごく…。」
剣ではなく、ナックルガードを握ったこぶしを意識すると、やけに しっくり きた。
炸裂音に驚き距離を開けていたもう一匹のアーマーウルフが、仲間の姿を確認し、激高したように襲いかかってくる。
一回、二回と爪や牙の攻撃をかわす。
そして、三回目に振るわれた前足に向けこぶしを放つ。
ボンッという音とともに、前足の一撃は弾かれた。
騎士たちは唖然として動けない。
10歳ほどの少女が、自身の数倍の大きさの魔獣を2匹相手に、攻撃をかわしにかわし、さらには一匹をこぶしで沈めたのだ。15人規模の騎士隊の自分たちを追い詰めた魔獣を。
いける!
一方のアンナは、まるで導かれるように、そのこぶしを放つ。
木の幹を使い三角飛びの要領で上からアンナに襲いかかったアーマーウルフは、吸い寄せられるようにアンナのこぶしに向かい、数秒後、鈍い音とともに地に伏せた。
数分後、我に返った騎士たちは頭がつぶれた2匹の魔獣を前に、再度黙り込んだ。
((((これ、どう報告したらいいんだ…。))))