騎士の戦い
領主の騎士隊が村人に案内され、魔獣のの群れが発見された森へやってきた。
森の中で馬は身動きしにくい為、森の入り口で全員が馬を下り、密集隊形をとりながら森の中へ進んでいった。
そして、馬番をごまかす為か、若干遠回りしつつ、森へ入り込んでいく人影。もちろんアンナである。
魔獣や、シスターの怒りも怖いが、今のアンナには、憧れの騎士とその戦いが見られるということへの興味の方が勝っていた。
魔法を駆使し、森に溶けこんだ背後の小さな追跡者に気づかないまま、騎士隊は魔獣・ホーンウルフに遭遇する。
「いたぞ、ホーンウルフ!3匹だ!」
「よし!打ち合わせ通りに動け」
騎士隊は離れすぎないように間隔を開け、ホーンウルフを迎え撃つ。
(オオカミ大きい…キバすごい… え、あんなに早く動くの!?)
(でも騎士の人もすごい、防いだ!あ、オオカミから血が出てる!すごい、さっき斬ったんだ!)
(あ、挟まれる! 違う!わざと隙を見せたんだ!すごい!すごいなー!!)
アンナは興奮しっぱなしであった…。
最初に遭遇した3匹を簡単に討伐し、それからも数匹単位で出てくる魔獣を苦もなく切り伏せていく騎士隊。
累計で20匹近い魔獣を討伐し、アンナの興奮も最高潮に達しかけた時、ソレは現れた。
これまでのホーンウルフと比べ、体の大きさが2倍ほど、毛はつやを帯びた漆黒、ひたいには小さなツノが3本、青く輝き、頭や胸部は鎧のような鱗で守られている。ホーンウルフよりも上位種のアーマーウルフだ。
アーマーウルフがフッと息をはいた。 次の瞬間、一番近くにいた騎士が一人弾き飛ばされた。
えっ
アーマーウルフはそのまま黒い風のように動き、そばにいた騎士と、村の自警団一人を弾き飛ばした。
ああっ!
体当たりを食らった2人の騎士起き上がれず、うめき声を上げ、自警団の男は木に叩きつけられ、気絶したように動かない。
「全員、ウルフの方に武器を向けろ! 体当たりは直線的にくるぞ!」
騎士隊の隊長が我に返り、叫んだ。
その声で、他の騎士たちも我に返り、武器を構え直した。
アーマーウルフは、剣の切っ先を向けられて、うなりながら少しだけ距離をとった。
いける、いくぞ、と騎士隊が一歩ずつ近づいた時、アーマーウルフの背後の草むらから、もう一つの影が飛び出し、驚きで硬直した騎士隊の隊長を跳ね飛ばした。
その影は、同族のアーマーウルフの横に並び、グルルルと低いうなり声をあげた。
2匹目のアーマーウルフ。隊長も不意を突かれ、起き上がれないようだ。騎士隊員たちに動揺が広がる。
そして、一人また一人と体当たりや前足の一撃をくらい倒れていく。
もう、だめだ。
我慢できない。
アーマーウルフが倒れた騎士の背に前足をのせ、騎士の首に咬みつこうとしたとき、その顔めがけてヒュッと木片が飛んだ。
「わたしが、相手だ!」
木剣を手にしたアンナが騎士たちとアーマーウルフの前に飛び出した。