不吉な兆候
村長に魔法の本を借りてから、ひと月程でアンナは簡単な生活魔法、ライターほどの火が出せる着火や、2,3リットルほどの水を出せる、水呼びの魔法を使えるようになり、さらにひと月後には、それを用いた簡易的な攻撃魔法まで使えるようなっていた。
魔法学の入門書に加えて、前世の知識から、火や水のイメージが直感的に分かることが相まって、みるみるうちに魔法が使えるようなった。本人はまだ分かってないが、魔法の腕はすでに訓練をつんだ大人の魔術師に並ぶほどになっていた。
同時にアンナが生活魔法が使えるということが村人に広まり、暖炉への火だね代わりや、足腰の悪い老人の水くみの手伝いを頻繁にこなすようになった。そして、その効果としてお布施が倍増する事態となり、シスターは喜んだ。
魔法すごい便利!才能あるのかな?
でも、肝心のアッチがなあ…。
今日もお布施をもらい、帰路につくアンナだったが、その表情は暗い。
剣の上達が実感できないからだ。魔法よりも熱心に素振りをし、木にぶら下げた動くマトへの打ち込みもしているが、なんというか、効果が見えない。
当初より剣の振りはするどくなったと思うが、筋トレや素振り、打ち込みで筋力がついたからだと思う。
ものは試しにと、木の切り株を前に、木剣を両手に持ち頭上から振り落とし、カブト割り!と叫んでみたが、木剣が折れただけだった。
「…。」
口から魂がもれそうな表情のアンナ。
やっぱり私、剣の才能なんて、ないんじゃないのかな…。
くじけそうになりつつも、転生を即決する程に憧れた剣士への道。
何かやり方があるのか、いろいろと試しつつ、訓練だけは続けていった。
またひと月程たった頃、アンナは魔法書にあった毒消しやヒーリングの魔法からヒントを得て、身体強化の魔法までを習得していた。
一時的だが、皮膚の硬質化と筋力の増大、またスタミナの回復といった魔法で、見違えるほどに剣の腕も上がったが、結局魔法に頼っているという状況から、アンナは納得していなかった。
その頃、村の中では、ある出来事が話題になっていた。
曰く、木こりが森に近い山の中で、巨大な熊のような影を見たこと、また、別の狩人は、あれほどたくさんいた鹿やイノシシが、ここ数日の間まったく見かけなくなったこと、どれも森やその付近で何か悪いことが起きていることを思わせる話だった。
当初はただの噂の域を出なかったが、ある日、狩りに出た若者が2名、3日を過ぎても戻らず、村では臨時の捜索隊を派遣する準備が始まっていた。