目覚めと訓練
とある王国の辺境領地にある小さな村で、アンナは目覚めた。
「アンナ!目が覚めたの!?」
「あ、シスター、おはよう」
「おはようって、体は大丈夫なの?」
「えっ…?」
――――――――――
アンナは、この教会のある村で生まれたが、まだ赤ん坊の頃に両親を亡くし、それから孤児院を兼ねる教会で暮らしていた。
教会には、他にも数名の子供がおり、不幸にも全員が親を亡くしていた。
豊かな自然に囲まれ、食料に困らない村ではあるが、それは獣や魔物にも共通するため、野山での狩りや採取に慣れた者であっても命を落とすことがあり、孤児を世話する教会に、子供の姿は絶えなかった。
最近、一番年上の孤児が、村の職人に弟子入りし孤児院を出たため、今年で9歳になるアンナが最年長になってしまった。
アンナは、他の年長者に習い、同じ孤児の小さな子の世話や、シスターの教会仕事の手伝いを積極的に行っていた。
この日も、教会の雨どいにたまったゴミの掃除を買って出たアンナは、3mほどのハシゴを器用に登り、雨どいを掃除していく。
「これで最後っと。」
雨どいにたまった葉っぱや小さな枝を取り上げ、腰のゴミかごに入れる。
「ん?なんだろう…。」
何か視線のようなものを感じ、太陽を見上げた途端、頭の中に<記憶>が流れ込んできた。
!!!
そうだ、私、転生したんだ。
え、あ、やばい、意識が、とぶ…
「わあああ、アンナ姉がおちたああ!!!」
「きゃああ」
そのまま意識を失ったアンナはハシゴから落下し、近くで掃除をしていたシスターや孤児たちから悲鳴が上がった。
――――――――――
ベッドの上で目が覚めたアンナは、そばにいたシスターに思わず おはよう などと声をかけてしまったが、それは高いところから落ちたくせに、どこにも痛みもなく、それどころか非常にスッキリと目が覚めた為だった。
「アンナ、ほんとに大丈夫?」
「うん、もう平気。ほらどこにもケガしてないでしょ?」
「たしかに、そうね…。」
「心配かけてごめんなさい。シスター。」
「ううん。よかったわ。何もなくて。」
シスターは、それでももう少し寝ているようにアンナに言いつけてから、孤児たちにアンナが無事であることを伝えに、部屋から出て行った。
「さて。」
一人になったアンナは、記憶を整理する。
「前世の記憶もあるし。」
「こっちで物心ついた時からの記憶もある。」
さすがに赤ん坊の頭に前世の18歳までの記憶を入れてしまうとマズいことになるのか、神様が気を遣ってくれたのだろうか。
それなら、記憶の戻し方ももう少し気を遣ってほしかったが。
「そうだ、ギフトもあるんだ!」
猫神がくれるといった剣の才能のことを思いだし、口元を緩ませるアンナ。
その後、続々と見舞いに来る弟妹たちに、心配させたことを謝りお礼を言いながら、アンナは明日からの生活、騎士になる未来とそれに向けた準備に胸を躍らせていた。