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「魔王?」

「やめろー!! 死にたくなーい!!」


 誰か助けて、誰か。


 王の要請を、両手でバッテン作りながら決め顔で断ったオレは、抵抗むなしくその場で守護兵に取り押さえられていた。両手を後ろに押さえ込まれ身動きがとれず、その場で見苦しくジタジタと藻掻く事しか出来ない。


「勇者フィオ。本当に申し訳ない、私の頼みを聞いてくれないか。」

「とっととオレを放せ!! 間に合わなくなっても知らんぞ!!」

「どうか、その命を王国の為・・・捧げてくれはしないか?」

「やーめろめろめろやめろめろ!!」

「・・・。勇者フィオ、どうか話を聞いて欲しい。命令はしない、どうかこの国の為────」

「王様こそオレの話を聞けー!!」


 同じ話を繰り返す王へ、思わずツッコミを入れたその瞬間。ガツン、と守護兵から拳骨が落とされ無礼者となじられた。


 王様、酷ぇよ。さっきまで“断ってくれても良いですよー”的な言い方してたのに、いざ断ったらこの始末だよ。


「良い加減にしないかフィオ殿!! 貴殿は何のために秘術を継承したのだ!」

「そんなもん、親父に教えられたからちゃちゃっと覚えただけだ! 習得するの簡単だぞあの魔法、魔術の名門名乗ってるアンタならすぐ会得できるくらいにな。どうだ、今から覚えてみるか?」


 髭面をしたオッサンがオレの醜態に我慢でき無かったのか、とうとう怒鳴りつけてきた。これはチャンスかもしれん、上手く押し付けてしまえないかね。


「その技術はミクアルの管轄だろう! 何故私がわざわざ継承せねばならぬのだ!」

「そう言った態度だから! 初代の巫女様の一族は、王国から逃げてミクアルに来たんだぞ、馬鹿!」

「何をでたらめを!! そんな嘘八百を並べてまで命が惜しいか臆病者!」

「臆病で悪いか、だったらお前に秘術教えてやるから臆病でないところ見せてくれよバーカ!!」


 駄目だ、話にならん。コイツも結局自分が可愛いんじゃねーか。 


 王様の野郎、さては最初からオレが引き受ける前提で考えてやがったな。変に王様が譲歩しまくってたのも、理解のある王として振る舞う為の三味線か。


 そうだよな、オレに死ぬよう命令なんかしたら今後勇者パーティにそっぽ向かれる可能性高いしな。いかにも俺が自主的に引き受けましたよー、的なアレが欲しかったんだろう。


「・・・すまん、もう我慢の限界だ。」


 その時やっと、後ろから愛しい恋人の声がして。



 ────オレを差し押さえていた守護兵が壁まで吹っ飛び、王の首に剣が突き付けられていた。



「ゆ、勇者アルト、何を!? これは反逆・・・!」

「フィオは王の言葉に従い、秘術の使用を拒否した。これはその手伝いだ、反逆ではない。違うか、王。」



 ・・・うわーお。ブチキレてるな、アルトの奴。仮にも目上の人物の首に剣をかけるなんて、温厚なアイツらしくもない。


「だが! 彼女が引き受けてくれないと、この国の民が!」

「そうか、大変だな。」

「何を他人事の様に! アルトよ、お主もこの国の戦士であり、この国の民であるのだぞ。迫りくる魔王軍を壊滅させ、わが臣民が助かる術はもはや一つのみ! ともにフィオ殿の説得を────」

「────選べ、王よ。」


 王に剣を突き付けたアルトは、周りの貴族がざわめく中、一歩前へと歩む。剣の切っ先が、王の目前へ迫る。


「今、迫りくる魔王軍だけを相手取るか。此処に新たに、俺に魔王を名乗らせ二人の魔王を相手取るか。このままフィオへの威圧を続けるのであれば、俺は魔王となって貴様に反旗を振りかざそう。」

「アルト殿! 貴殿は、この城の兵士全員を相手取って勝てるつもりか? 貴殿を失うには惜しい、ここはどうかおとなしく────」


 王が剣を突き付けられてなお、強気にアルトを説得する。


 ・・・うわぁ、この王様はそんな認識だったのか。成る程、オレを脅せば無理やり引き受けさせられると考えてた理由は、オレ達勇者パーティをそこまで軽んじていたからか。


 昔も今も、王様ってのは変わらないんだな。


「・・・アルトがこの国を裏切るなら、ウチは追従するし。魔王アルトの幹部になるし。」

「わた、私だって! 司祭様ごめんなさい、国に雇われた修道女の立場ではありますが、やっぱり私は友達が大事です! フィオさんを渡しません!」

「フィオとか関係ないが、私はアルトの居るところにしか存在する意味が無い。元々私はこの国嫌いだしな。」

「・・・お父様、すみません。貴族として恥ずべき事ですが、今の王には私は従えません・・・っ!」


 へたり込んでいるオレの周りには、魔王になりかけている恋人(アルト)と、4人の頼りになる仲間が集まってきてくれた。まぁ当然、この4人はアルトに付くよな。この4人娘だけで戦力的にはこの城の兵全員を相手取れるくらいなのに、そこにアルトまで敵に回して勝てるつもりなのか、この王様は。


「アルト、出口は押さえたよ。退路も10通り以上は安全なものを指し示せる。」

「なっはっは。魔王アルト様よーい、何時でも逃げられるぜ。なんなら国王の首だけでも取っていくか?」


 うん、仕事の速い奴は違うぜ。状況を先読みして、ルートにバーディは入り口の守護兵を転がし退路を確保していた。・・・と言うか、あの入り口の守護兵、倒れる時に一瞬笑ってたな。アイツは一緒に飲んだことのある奴だ、ワザとやられた振りしてくれたのかもしれん。


 そんな不甲斐ない状況を見て国王はチラリ、と軍の総司令官なオッサンに何かを言おうとした。・・・が、そのオッサンは既に涙目になって首を振っている。


 さんざん戦場で一緒に戦ったからなぁ、あの人。


 最初は偉そうに”貴様らの様な素人などアテにはしておらん! 精々、我々の邪魔だけはしてくれるなよ!”と強気だったのに、共同戦線を繰り返すたびに目が死んでいって”もう全部お前らだけで良いんじゃないかな、俺達邪魔しかして無いんじゃないかな”と嘆いていた可哀そうな人だ。


 “勇者達パ―ティを敵に回すのは、無謀です”と、オッサンは必死でハンドサインで国王にアピールしている。それを苦々しく見た国王は、躊躇いながらも剣を突き付けるアルトにこう答えた。


「わ、分かった。フィオ殿の意見を認める、認めようじゃないか。だから、剣を下ろしてくれないか我が勇者よ。」

「それで良い。」


 す、とアルトが剣を下ろす。まだオレはアルト含めた5人に周囲を守ってもらっているままだし、出口を確保した2人もそこを動く気配はないけれど、これでようやく場の緊張が弛緩した。ここで王様が突っ張ったらこの国滅んでたよな、多分。怖え、ウチのパーティ怖え。



「で、ですが流星魔法(メテオ)に他に対策など・・・。」

「勇者アルトよ、そこまで言うからには貴殿が何とかするのであろうな!?」

「無論。言質を取ったぞ王よ、ならば俺にこの一件を任せて貰おうか。」

「む。・・・分かった、任せよう。」


 おお、一件落着しちゃったぞ。


 生き残り!! ゴネ得、ゴネ得!! アルトの事だから、きっと何か良い考えがあるのだろう。







「御注進!!」


 場も落ち着き少し安穏とした空気になったその瞬間、バタンと王座の間の扉が開かれる。開かれたその扉からは汗を垂らした兵が駆け込んできて、大きく声を張り上げた。


「報告でございます!」


 彼は既に息も絶え絶え、と言った様子だ。なんだか嫌な予感がする、せっかく生き残ったのにそれがふいになりそうな・・・。


「確認されていた魔王軍が全軍、戦線を捨ててミクアルの里方面へ進軍! 恐らく敵の本隊であろう部隊も確認されており、ミクアルの里と言えど数日以内に陥落するかと。」

「何だと?」


 ・・・ゲ!? 村長の居ない隙をついてウチを落としに来やがったのかアイツら。いや、流星の秘術の継承者潰しか? どっちにしろなんと間が悪い。


「ぜ、全軍で魔族共がミクアルに進軍? ・・・成る程。ふうむ、ふむ。」


 国王は唸りを上げながら、頭を抱え込む。・・・だが、彼の口元が少しばかり吊り上がったように見えた。嫌な予感がする。



「・・・ミクアルの里が陥落してしまっては、辺境の民が危なかろう。アルト殿、流星魔法の対策は良いからミクアルへ救援に向かってくれないか?」

「何だと?」


 王が、下したその命令は。現状、流星魔法を何とかできる可能性がある唯一の存在アルトを王都から遠ざけるというモノだ。何を考えているのか?


「・・・待ってください王よ、流星魔法はどうするのです?」

「勇者フィオ、彼女だけは王都に残り我が配下の魔導士に流星の秘術を伝授してもらいたい。その魔導士は志願により募集し、その家族には厚い援助を行う約束の元、その命を以て国を救ってもらう。勇者パーティの他の者は、ミクアルを救援せよ。これならばアルトよ、貴殿に異論もあるまい?」

「おお、成る程。」


 思ってたよりまともな案が出てきて安心する。


 はぁ、オレが死にたくないって言ったから随分面倒なことになったな。でもよぉ、そりゃ死んだらアルトがオレを見てくれなくなるもん。嫌なモンは嫌だ。


 ・・・でも、結局のとこは他の人に代わりに死んで貰う訳だ。うう、自分が嫌になりそうだ。


「・・・待って、駄目だアルト。」

「分かってる、ルート。王よ、その提案は断ろう、俺が流星を何とかする。そう言った話の筈だ。」

「・・・何だと?」


 だが予想に反して、ウチのリーダー格二人はキッパリと王の命令を拒否した。


「何故だ、勇者達よ。何が不満なのだ?」

「彼女を一人置いて行ったら、フィオを守る人が居なくなるだろ。それに、もう流星魔法は発動しているんだぞ? 志願者を募って、魔法の適性をあるものを探して、そして伝授するまでの時間があると思うのか。考えるに、間に合わなければフィオに秘術を強要するつもりだろう? 王よ。」


 そうか、秘術の継承が間に合わない可能性か。言われてみればオレでも3日はかかったのに、志願して集まってくれた魔導士がオレより才能あふれていてオレより少ない時間で習得できるとは考えにくいか。


 もう流星魔法が発動しているとしたら、猶予は2日とちょっと。少し厳しいだろう。


「・・・間に合わなければ、確かにフィオ殿をもう一度説得することもあるだろう。だが、現状それ以上の手は無い筈だ。かつての記録では、勇者全員で力を合わせて迎撃しても効果は無かったのだぞ? 更にミクアルの救援に人数を裂いてしまっては、上手くいく可能性など皆無だろう。もう勇者アルトに流星魔法を任せるのは現実的ではない。」

「ですが、わざわざミクアルへ全員で行く必要はないでしょう? 僕が1人で行きますよ、国王。」

「勇者ルート、貴殿が一人でだと?」


 1人? 何を言い出すんだこの鬼畜攻め男の娘は。

 

「その、勇者ルートよ。貴殿が一人で援軍に向かったとて、そこまで大きく戦況が変わるとは思えないのだが。」

「僕一人で十分。これまで幾たびも戦いに勝利して来た僕達のその戦術眼を、お疑いか?」

「王よ。これまでルートが自信満々に示した策が外れたことは無い。彼は一度ミクアルの里に行った事もあるはずだ、恐らく必勝の策があるのだろう。」

「・・・その提案を断れば、また勇者アルトが魔王になるだとか言うのだろう。好きにしろ、はぁ。」


 王様は疲れた顔になり、シッシとルートを追い払うように手を振った。


「疾く、任を遂行せよ我が勇者達よ。」

「了解。では王よ、良い旅路を。」

「・・・早く行け。」


 不快そうな王のその声に従い、オレは仲間に周りを固められたまま、ゆっくりと王座の間から外へ出た。入り口で待機していたクリハは、何とも言えないような顔でオレ達をそのまま外へ案内する。


「・・・なぁ、ルート。本当に一人で大丈夫なのか?」

「まぁ、君の故郷は僕に任せてくれフィオ。今度は僕が、彼らを救う。・・・君こそ、よくよく気を付けて。多分あの手この手で誘拐して秘術を使わせようとするはずさ、あの王は。」

「火を見るより明らかな展開だろうな。フィオは暫く、アジトに籠っていてくれ。レイ、ユリィ。悪いがアジトの結界の強化を頼む。」

「任されたよアルト。ああいう、自分の保身にしか興味のないゲスが私は心底嫌いなんだ。どんな手でフィオにちょっかい出そうとも、私の禁呪で全て返り討ちにしてやるよ、クク。」

「うわぁ、頼もしい。」


 オレは誘拐されるかもしれないから、暫くアジトに引きこもりらしい。レイが良い笑顔でやばそうな魔法陣を構築し始めているけど、恐らくオレに放たれるであろう裏の部隊は無事に帰れるのだろうか。


「にしても、アルト。君が皮肉とは意外だね、よっぽど腹に据えかねたのかな。」

「・・・まぁな。」

「良い旅路を、って奴か。成る程、あの王の事だ。今頃荷物を纏めて、流星魔法の効果圏から逃げ出す準備の真っ最中だろう。」

「あー、そういう意味だったのか。」


 そんな意味を込めて言ってたのか。アルト、本当にブチ切れてるな。性格変わってない?

 

「よし皆、ブリーフィングを行う。今回の勝利条件は、ミクアルを守り、流星を防ぎ、そしてフィオを守り抜くことだ。」

「おお。」

「ミクアルに関しては、ルートに一任する。レイとユリィは、アジトの結界を強化した後、流星魔法を迎撃する魔法陣の生成をして欲しい。リンとマーミャは流星魔法の資料を集めてくれ、マーミャは実家を頼って正攻法で、リンは多少暗い事をしても構わないから古今東西様々な記録を集めて欲しい。バーディはフィオの護衛を頼む。オレは、1日だけ修行の為に山に籠らせてくれ。」

「了解、頼んだよアルト、皆。僕はすぐにでも出発するさ。」

「そっちこそ気をつけてな。」


 かくして、オレ達の魔王軍との戦いが再び始まった。なお、オレは皆に守られるお姫様ポジションなのだが。


 この戦いが、決戦となるだろう。敵は戦線を放棄してまで、ミクアルへと押し寄せてきている。魔族としては、色々投げ出してこの流星魔法(メテオ)で決着を付けに来ているはず。つまりここさえ乗り切れば、人族側に一気に形勢が傾く筈だ。


 俺の仕事は、待機だけど。うん、みんな頑張れー。 

次回更新は10月19日です。

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