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「流星?」

職場の配属が変わり、残業は増えたもののなんと日曜が休みになりました。

嬉しさのあまり、友達に日曜が休みだと自慢して回ったら可哀想なモノを見る目で見られました。

 此処は王国より遙か彼方、魔族領の最前線。薄汚れた陣地の中で魔王軍の重鎮たるメンバーが一堂に会し、如何に人族を滅ぼすかと話し合っていた。


「魔王様、この好機を逃すは愚策と存じます。」

「ミクアルの長の死は確実だと、何度も確認されております。」

「更に流星の巫女は失踪しているとか。今こそ、天機ではありませんか。」


 会議に参加している魔族達は口々に、無謀な強硬論を叫んでいた。彼等は一体一体がそれぞれの種族の長であり、それぞれの一族を代表し出席している。当然、彼等は皆その立場に恥じぬ実力を有している。


 そんな怪物達の不平を聞くは、齢は10を越えぬだろうかと言った、眠そうな顔の童であった。幼さの残る顔付きの、その小さな人族の少年へ猛り詰め寄る異形の魔物達。


「・・・で?」

「今こそにっくき人族を、根絶やしにしましょうぞ!」

「僕も人族なんだけど?」

「魔王様はもはや魔族でございます。」

「・・・まぁ、そこは良いけど。君達の意見に僕は反対、賭け(ギャンブル)にしても分が悪い。まぁ、大口叩いてたあのデカオークも死んじゃって、僕等は確かに劣勢だ。君達が賭けに出たくなるのは分かる。」


 魔族の一人に詰め寄られた幼い少年は嘆息し、傍らの魔物を一体意味も無く足蹴にする。


「でもさ、流星魔法(メテオ)は無いだろ。返されたらお前らが滅ぶんだぞ? 流星の巫女以外にも、流星を操る秘術の使い手が居ないと言い切れるのか? そもそも、巫女は本当に失踪しているのか? 失踪していたとして、人類滅亡の危機に対し姿を現さないと断言出来るのか?」

「ですが、それでも。一発逆転を狙う機としては、これ以上は無いかと。」

「────まぁ、どうしてもやりたいなら止めないけど。君らが滅ぼうと、人族の僕には関係無い。いざとなったらお前らに捕らえられた憐れな子供を演じるだけだし。魔族に勝ち、地上の覇者となった人族の一人として平凡に生きるだけさ。」

「・・・お戯れを。魔王様が人族の中で生きていける訳が無いでしょう。兎も角、止めないと言うことはご賛同頂けるのですね?」


 その魔族の説得に、魔王と呼ばれた少年はふわぁ、と欠伸で返事をする。


「好きにすれば?」

「ふむ、ご了承頂けたと。では、戦の準備をして参ります。流星魔法の発動に先駆け、唯一秘術を継承している者のいる可能性があるミクアルを奇襲致しまする。ミクアルを落とし憂いを除いて、万全を期し流星魔法を発動しましょうぞ。」

「あー、良いんじゃ無い? 今なら楽に堕とせるでしょ、ミクアル。ただ、襲撃と流星魔法の発動は同時が良いと思うよ。勇者共がミクアルに派遣されたら、お前らだけで勝てるの? 王都に星が降ってきて国がもたついた隙に、ロクな戦力が居ないミクアル攻め落としてチェックメイトした方が分の良い賭けになる。自分が死ぬかもしれない時に、大事な戦力をミクアルに派遣できるほど度胸ある男じゃ無いしね、今の国王。」

「・・・了解しました。では、そのように。」

「頑張ってね。」


 少年は心底どうでも良さそうに、手をヒラヒラと振って出て行く魔族を追い払った。


 部屋に残ったのは、僅かな穏健派の魔族と、その長である魔王のみ。


「はぁ、本当馬鹿ばっか。そりゃ魔族が毎回負ける訳だよ。」

「魔王様。今回は、我々が勝ちますよ。」

「まぁ流星魔法(メテオ)通れば勝てるだろうけどね。本当、バッカだなぁ。」


 短い黒髪を切り揃え、貴族の幼い嫡子と見紛うその風貌に、似合わぬ大きな肩幅のマントをだらしなく羽織ったその少年は、呆れたように呟いた。


「そんな分の悪い賭けに出るより、この僕に本気で闘うよう説得した方がずっと効率良いのに。流星魔法(メテオ)なんて分かり易い力に頼りたがる、それが魔族の愚かな所だな。」

「魔王様。ならば何故貴方は、本気で闘ってくださらないのです?」

「だって、そりゃ理由も無いしね。あーあ、こんなことなら────」


 ぐしゃり。機嫌悪そうな声をだし、少年は話し掛けてきた魔族の足を踏み潰す。悲鳴を上げる穏健な魔族を尻目に、つまらなそうに少年は嘆く。


「────魔王なんて、殺るんじゃなかったなぁ。」


 ひょんな事から魔王となる事を押し付けられた少年の、怠惰で憂鬱な日々は続く。












 結局。アルトの言う“兵士達の相手をしてくれ”は、つまりオレのトークショーを開いてくれという意味だったらしい。


 兵達の慰安目的として定期的に開かれる旅芸人の舞台。今回は芸人側の不備により急遽開催できなくなった為、オレが呼ばれたそうだ。緊急依頼と言うことで、王様からタンマリと報酬が貰えた。


 ・・・いや、勇者パーティの1人を見世物にするなよ。一応この国の最大戦力だよ? それともオレが、皆に芸人枠と認識されていたのか? オレはラントみたいな扱いだったなんて、流石に凹むぞオイ。


 とは言え、依頼されたからにはキッチリやり通すのが筋だ。何をすれば良いか正直よく分からなかったが、適当に盛り上げるため色々頑張った。


 結果、トークショーはつつがなく終わり、適当な流行の歌を歌わされ、漫談させられ、結局一日中見世物にされたけれど。厳しい戦いに身を置く兵士連中が喜んでくれたなら、オレの羞恥心の犠牲も報われるだろう。


 そんなこんなでかなり消耗していたオレは、幕舎に戻った後、精神的疲労でグデーと倒れ込むようにソファに寝転がった。


「フィオ、素晴らしいステージだった。」

「うるせー。何故、依頼の内容を正確に伝えないんだお前は。こんな大人数相手に歌わされるなんて聞いてないぞ。」

「む、すまん。」


 無責任な謝罪をしながらポリポリと頬を掻く、想い人(アルト)。こいつ、どうしてくれよう。


「もう良い、とっととご褒美くれ。」

「ご褒美?」

「・・・早くしろよ。」


 ・・・ここまで身体を張ったんだ。相応に貰うモノは貰いたい。目をつぶり、奴を待つ。


「────あぁ。分かった、分かった。」


 アルトはそのまま唇を重ねてくれた。今、この瞬間だけは、アルトはオレの恋人だ。 


 その唇の感触を確かめながら、そのまま微妙にオレのイヤラシい所へ行くアルトの右腕を、少し切ない気持ちで見送った。本音を言えば、キスだけが良かったな。別に触りたいならそれで良いが。


 ただ、ココは仮設営された壁の薄い幕舎(テント)だし、人の耳もあるから本番は出来ないぞ。 


 そう注意しようとしたが、流石にその辺の良識は有るらしく、アルトは服を脱がそうとはしてこなかった。


「・・・ん。」

「声、出すな。力抜いてろ?」


 それでも奴の右手は、存分にヤンチャで。前から疑問だったのだが、人に見せつける趣味でもあるのだろうか、アルトは。何かと羞恥を煽るプレイが多い気がする、股開かせたり空飛んだり。


 アルトが好きなら付き合うけども。






 夜。会場には人っ子一人居なくなり、アルトは嬲られるオレの反応に満足したのか、くたくたになったオレを解放した。


 そしてオレは今アルトと二人並び、アジトを目指しのんびり帰っている。1日喋り通しだった訳で、疲れてオレは話を振る気も起きず、帰り道は会話も無く静かなものだった。


 もうすぐ、アジトに着く。アジトへ戻ると、オレとアルトの時間は終わり。散々今日は一緒に居てくれた、だからきっと今夜は、別の女の部屋に行く日。


 今までもオレの部屋に来ない日は、別の女性(ヒト)の部屋に行っていたのだろう。それが誰かは分からないし、知りたくも無いけど。



「お、空見ろよフィオ。」



 ふと。アルトは呟くように、オレの隣から静かに語りかけてきた。


「何だ?」

「流れ星だ。」


 その言葉につられてアルトと同じ様に空を見上げる。そこには一筋の光の線が、夜空に余韻を残してうっすらと消えていた。


「また、流れたな。」

「ああ、オレも見えたよ。」


 頭上に輝く流れ星は、それだけで終わらなかった。次から次へと、星が燦めく。


 流星群、と言うのだろうか。この世界にも、そう言うのが有るらしい。


 幾つもの流星が夜空に現れては消え、現れては消え。


「綺麗だな、フィオ。」

「そうだな。」


 流れ星は、確か地球の大気層に突っ込んできたデブリがその正体だったっけか。僅かな期間だけ輝き、その代償として燃え尽きる、宇宙に漂う塵芥。


 でも、その燃え尽きる僅かな時間だけ、夜空のどの星よりも目立ち、輝く。


「オレ、流れ星、結構好きだわ。」

「ほほう、フィオは案外ロマンチストだな。」

「まぁな。」


 アルトが見てくれている時だけ。オレは、アルトの恋人で居られる。


 夜空に輝く星々より、ずっと小粒で、ずっと脆い流れ星は。


 誰かが見てるその時だけ、主役になれる。


 それは、まるで────


「そうか。オレは、最初からそう言う立ち位置だった。」

「・・・いきなりどうした?」

「こっちの話だ。」


 物語の主役は、アルト。


 そして、奴にとってオレは沢山居るヒロインの一人。


 元々、オレに女性らしさなんて無かった。半分男みたいな自意識で、好き放題やっていたオレはさながら路傍の石。


 そんな塵芥みたいな奴が、ちょっと地球(アルト)に近付き過ぎて、舞い上がって眩く光っている。


 ────流星の巫女、か。言い得て妙だな、オレを指す言葉としては。


「・・・本当に、最近元気が無いな。まだ、俺に理由を話してくれないのかフィオ。」

「────ん、すまん。」

「分かった。待とう。」


 言える訳が無い。きっと、言ってしまえば、オレは恋人じゃ無くなってしまう。


 今のままで良い。騙されていたとしても、やがて燃え尽きてしまうとしても、アルトの隣に居たいから。


 アルトの1番で無くても良い。オレが隣に居る時だけ、1番に見てくれればそれで良い。


 所詮、オレは、


 ────サブヒロイン、なんだから。


タイトル回収。

次回更新は10月10日です。

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