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「アイドル!」

 ・・・俺は今、悪夢のような光景を目撃してしまっている。これは夢か、幻か。


 フィオ・ミクアル。


 勇者パーティの仲間であり、愛すべき俺の恋人である彼女が。



────随分と親しげな様子で、兵装を纏った爽やかな青年と二人きりで歓談していた。街の片隅の、小さな喫茶店で。



「・・・っ!?」



 目の前の光景が信じられない。彼は気安く、フィオの髪を撫でているしフィオはフィオで気にも留めずケラケラと笑顔を見せている。その髪を、誰の許可を得て触っているのか。


 フィオはやがて、彼の肩をトントンと叩いて立ち上がり、笑顔で別れを告げた。男は名残惜しそうに敬礼している。その顔からは、フィオに対する何らかの感情を感じた。憧れ、だろうか。懸想、だろうか。


 ・・・さて。一体誰だ、あの男は。








「と、いう事だバーディ。お前はフィオのことはなんでも知っているだろう? 情報をくれ。」

「面倒くせぇ奴が面倒くせぇ話を持ってきたなオイ。」


 俺はすぐさま、真相を究明すべくバーディの部屋を訪ねた。乱雑に武器や防具が散らかるこの部屋を訪ねる奴は少ない。ここなら、バーディと二人きりで話せる。


 ・・・直接フィオに問い質しても、恐らく完璧にはぐらかされるだろう。だから、最初から彼に話を聞くのだ。口の上手さでは、フィオには勝てないからな。


「というか何でそんなことを気にするんだお前が。フィオが男捕まえたって良いだろ別に。それともお前、フィオ狙いなの?」

「ああそうだ。凄く気になるから、教えて欲しい。」

「だよな、だったらなんでフィオのことなんか知りたがるんだ?」

「・・・いや、だから俺はフィオが気になるから知りたいと言っている。」

「分かった分かった、フィオにもプライバシーが有るから興味本位で・・・。ん? 今なんて言った?」


 ・・・真面目に相談したいのに、肝心のバーディと会話が全く噛み合わない。どうしたと言うのか。バーディはまさか、この前の戦闘で頭に傷を負ったんだろうか? だとしたら、早めにフィオに相談するべきかもしれない。


「スマン、アルトよ。お前は、フィオに、なんて言った?」

「気になっている。」

「確かに、やつの行動はいつも想定外だ。よくよく注視して警戒しないといけない。そういう意味だよな?」

「いや。フィオを女性として、気にしている。」

「HAHAHA! いや、ちょっと待て、ええええ?」


 バーディは珍獣を見るような、困惑に富んだ目で俺を凝視した。


「いや、確かに本命を一人決めろといったけどさ・・・。よりによってソコかよお前。」

「よりによって、とはどういう意味だ。」

「いや・・・。ああ、もういいや。」


 バーディは頭痛をこらえるような仕草で首を振る。さっきからなんなのだ、この態度。


「その、聞くぞ。フィオのどこが好きだ?」

「・・・。えっと、その。顔?」

「天下の大英雄アルト様が、思った以上にゲスい思考になってるぞオイ。フィオに影響されたか。」

「いや、気付けば好きになってたからな。だから、いきなりそんなことを言われても分からなかった。」

「オイオイ、オイオイ。これ、マジな奴? フィオに唆されて罰ゲームドッキリとかじゃなくて?」

「俺は、仲間に嘘は吐かん。」


 俺がフィオを好きになることが、そんなにおかしいだろうか。彼女は普段はアレだが、実は優しく快活で、とても魅力ある娘だと今は思える。俺は胸を張って、フィオが好きだと宣言しよう。


 ・・・可愛いフィオの頼みだし、彼女と付き合っていることは口には出さないようにしているが。出来るならば、俺にはパーティのみんなの前で恋人を宣言して堂々とイチャつきたい気持ちもある。


 それに、バーディと例の約束も有る。それとなく、フィオを説得していかないとな。


「・・・お前さ、ただでさえ妬まれまくってるってのに。ここからフィオまで掻っ攫ったら、城中の兵士敵に回すぞ? その覚悟はあるか?」


 ところが、当のバーディは渋い顔をしていた。彼との約束を守っている形なのに、何が不満なのだろう。


「・・・と言うか、城の兵士がフィオと何か関係あるのか?」

「大有りだよバカヤロー。」


 バーディは両手を上げ、やれやれと肩をすくめた。俺に呆れているのがよくわかる。それにしても、さっきからオーバーリアクション過ぎないかコイツ。


「そもそも、俺達がどうして高額な報酬で雇われていると思う? その資金源はどこだ? 全て王様か?」

「・・・む、国王では無いのか?」

「違うよ。お前さん、政治面はホント疎いよなぁ。」


 それは、バーディの言うとおりかもしれない。俺は資金のやり取りや交渉事は確かに苦手だ。この辺はバーディやフィオ、ルートに任せっきりだ。


「よく聞け、俺達勇者パーティはな、主に三つの支持母体がある。一つ目は民衆。彼等は、この国の最大戦力である俺達を好意的に支持してくれている。だから、寄付金が集まったり道中で協力関係を結べるんだ。そして、民衆からの1番人気はお前さんだアルト。なんてったってウチのパーティの核だからな。」

「・・・いや、まだ俺には力が足りない。核などと、過大評価だ。」

「そんなことねぇんだがなぁ・・・。まぁいい、次の支持母体の話だ。王族貴族、コイツらが主な俺達の資金源。民衆の寄付金も有り難いが、コイツらの出す額は桁が違う。その代わり、隙あらば婚姻関係を結ぼうと一族の若いのを押し付けてきたり、俺達を政治や外交に利用しようとしたりと色々面倒な奴等でもある。」

「俺もたまに令嬢を紹介されたが、殆どの娘は俯いてばかりで何も喋らず、心の底では嫌そうに見えた。出来れば、ああいったことはやめて欲しいな。」

「いや、あの娘らが俯いてたのは四人からプレッシャーが・・・。いや、もういいや。最後の支持母体は、この国の軍部だよ。そして、ここでの人気は民衆とは大きく異なり、お前さんが1番嫌われている。何でか分かるか?」

「・・・俺が、弱いからか?」

「アホ、しょっちゅう手柄を持っていかれるからだよ。更に、軍部は大半が男性が占めている。日常的に女に囲まれてる俺達が妬ましくて仕方ないんだろ。特にお前。」

「何故、特に俺なのだ?」

「うん、死ね。んで逆に、軍部から人気が高いのはウチの女の子5人衆だな。女日照りの軍部では、訓練の合間にアイツらに会うのが数少ない癒しなんだろう。彼女らが主催する合同訓練は、俺達の合同訓練と比べても人気が段違い。皆、女の子に飢えてるのさ。」

「成る程。」


 と言うことは、フィオも兵士から人気が有るということか。そういえば、あの男も兵装だった。


 ・・・何と言うか、意外だ。彼女と一晩共にするまで、フィオからは女という印象を殆ど受けなかった。


 フィオとの会話は、まるで同性と話すような気分になるのだ。だが、その様な気安さも、一つの魅力になるのだろう。現に今、俺は彼女のすべてに惚れ込んでしまっている。


 それにしても、フィオの魅力に気付いている奴は俺くらいだと思っていた。まさか他にもフィオ狙いの男がいるとはな、少し不安になってきたぞ。今既にフィオが浮気をしているとは思えないが、彼女は案外押されると弱い。強引に迫られれば、場に流されて受け入れかねない。そんな事、絶対に許すわけにはいかない。


 彼女の人気がどれほどかは分からないが、男の影が有るなら早々に介入して・・・。


「因みに、軍ではフィオがぶっちぎりで1番人気だぞ? 8割くらい、フィオ派じゃねぇかな。」

「・・・え?」


 フィオが、他の四人を抜いて1番人気? 8割!?


 ・・・何を言っているのだバーディは。そんな訳が無いだろう。


 だってあの、フィオだぞ?


「そんなに怪訝な顔をしてやるなよ。まぁ、気持ちは分かるがな・・・。ほらアイツ、見てくれは可愛いだろ? んでもって、アイツは闘いが起こる度に何してた?」

「・・・俺達と共に最前線で闘っていた。」

「それじゃ半分だな、50点。アイツはいつも、魔王軍との闘いの終わった後も、真っすぐ兵舎に行って重傷な兵士達を夜通し治療してやがるのさ。」


 ・・・それは、知らなかった。フィオがそんなに献身的な事をするとは思っていなかった。


「何気なく、飲み仲間の一般兵が負傷したって聞いて見舞いに行ったんだよ。そしたらさ、兵舎ではフィオの奴が深夜だってのにせっせと働いてた。オレじゃなきゃ助けられない奴が居る、なんて格好つけた事言ってな。」

「・・・。」

「軍部には、直接フィオに命を救われた奴も多い。戦闘前に兵舎に行くと、大概フィオが居て気軽に兵士達と笑い合ってるんだ。“大丈夫だよ、そうビビるな。どんな状況だろうと、命さえ有れば助けてやる。ここにオレが居るから安心しろ。”なんつって。」

「フィオは、そんなこと一言も・・・。」

「そう言う奴なんだよ、アイツ。寝る間も惜しんで自分達を癒やしてくれるフィオが、兵士達に好かれない訳が無い。彼等にとってフィオは完全にお姫様、戦場に咲く花、地獄に現れた女神だ。お前さんが殺したいくらいモテモテな現状でも、背後から刺されてない一番の理由は“フィオを毒牙に掛けてないから”、これに尽きる。」


 ちょっと待て。そこまで妄信的に兵士達に慕われているのか、フィオは!?


「奴ら、なんとフィオのファンクラブまで組織してるんだぞ? 聞くところによると、鉄の戒律があるらしく1人で抜け駆けしようものなら地獄を見るとさ。ついさっきも一人、金玉つぶされた奴が出たと聞いたぞ。なんでも、フィオと2人で喫茶店で飯食ったんだとよ。」

「・・・ふむ。ではもし、俺がフィオに手を出したらどうなる?」

「奴らを甘く見るな。相手がお前であろうと、一歩も引かず襲い掛かってくるぞ。・・・まぁ、捕まれば即座にミンチに加工されるだろうな。」


 ・・・。


「まぁ、そう言うことだ。そもそもフィオは攻略難易度も超高いぞ? 大人しく他の四人から選んでおけ、それが一番無難だから。」

「・・・そうか。すまん、失礼する。」

「あいよ。じっくり悩め、少年。」


 そうか、フィオはそんなに大人気な兵士達のアイドルだったのか。


 ふむ、俺って奴は、フィオに何をしでかしたっけ?






 恐喝、強姦、覗き、買春etc・・・。





「・・・。」







 ・・・今後は、俺もフィオと付き合っていることを隠していこう。それに、多人数相手の戦闘訓練も増やしておくか。


 誰だって、ミンチになりたく無いものだしな。

コピーペーストのミスで文章がループしておりました。大変失礼致しました。

次回更新は7/15の17:00です。

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― 新着の感想 ―
あー、聖女枠なのに口調は男勝りでガサツ、なのに患者に対しては分け隔てなく全力を尽くして自分がどれだけ疲れてても「自分にしか救えない命があるのならこのくらい屁でもない」と豪語する慈愛、ほんで持って見た目…
[良い点] この作品。 ミンチフラグ多いね。 [一言] 転生ts娘、知らない間に聖女ムーヴしてたのか。 それでアルトにもなびいてなかった(過去形) そりゃアイドルなるよ。
[良い点] 一線超えるどころか周回までしたからねぇ なぁにぃ!?やっちまったなぁ!!
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