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魔法調味料とおそろいの祝福


「アンタ、料理をなんだと思ってるのよ!」


 それは、カノ山洞窟にいた未知の魔物を片づけ終わっての事。

 昼食の準備をしていた俺にそう言ってきたのは、ハイキングには不似合いなゴスロリっぽい衣装をまとった、フアルミリアムだった。

 王都を出発して以来の再会になる。


「いや、何って……」


 料理だ。

 深さが変えられる魔法の両手鍋に水を入れて、その辺に転がっていた石と可燃物で作った、ワイルドな加熱装置で沸騰させ、山の斜面を走り回っていたお肉と、その辺に生えていた草を放り込み、適当に煮たら、味とか栄養とかが調整されるらしい魔法を放り込む標準的な料理だ。

 マナさんに貰ったお下がりの魔法銃は、お肉の確保と火種の作成に使える万能調理器具だと思う。


「どこ標準よ! あと、銃が調理器具になるわけないでしょ? バカなの?」

「…………」

「何よ?」

「そうか、俺の感覚がおかしかったわけじゃなかったんだ」


 マナさんとひよこに教わった、この世界の料理はやっぱり間違っていたのだ。

 そう、おかしいと思ったんだ。魔法以外に一切調味料が登場しなかった事や、なぜか食後に熱が出たり、腹を壊したりした時点で気付くべきだった。


 異世界だからこれが普通なのかもしれない、と思った過去の自分が情けない。




「だから今日の食事は、店で出てくるような味なんですね」


 そう言ってひよこがおいしそうに口にしているのは、フアルミリアムが作った昼食だ。

 どうだまいったかとふんぞり返るフアルミリアムは、メンバー全員がメシマズで構成され、魔法調味料中毒で味覚がどうかしていた俺たちのパーティーに、舞い降りた天使のように思えた。

 黒地に白いリアル頭蓋骨マークの入った、大変趣味のよいエプロンをしているが、天使のように思えた。

 頭蓋骨もきっと天使の頭蓋骨に違いない。


「うむ、確かに店が出せるな。ところで、フアルミリアムはどうしてこの山に来たんだ?」

「私がこの山に来たのは、神のお告げで、ここに住む三大魔物の一匹を倒すように言われたからよ。聖騎士さんも同じ目的で来たんじゃないの?」

「違うが、神のお告げであるなら私も手伝おう」


 そう言って立ち上がったマナさんをフアルミリアムは止める。


「気持ちはありがたいのだけれど、あなたは地下の神を手伝う身。天上の神の使いである私が、その力を借りるわけにはいかないの」


 そんな取り決めはしていない。


「でも、いつかその白いマントを裏返して黒色に変えてやるんだから!」


 そう言ってひよこをにらみつけるフアルミリアム。これは半分正しい。

 王都でマナさんが聖騎士になった際に、その衣装を地下の神の色である白系にするか、天上の神の色の黒系にするかで、それぞれの使いの代表であるひよことフアルミリアムが、コインの裏表を当てる勝負で対決し、ひよこが勝った。

 結果、マナさんの新衣装は騎兵時代の青系から白系へと変わった。ちなみに、装備品の中でも特に高価な耐魔法マントは、表が青色で裏地が白い騎兵時代のものを裏返して着ている。なので、今のところ裏返しても黒にはならない。


「あれは聖騎士の衣装の問題であって、どちらの神に付くかを決めるものではなかったのだが……」

「ご心配なく、聖騎士さん。私には、天上の神から授かった強力な武器があるから、一人でも魔物なんかに負けたりなんかしないわ!」

「いや、そうではなくてだな」

「それでは、私は先を急ぎますので。それとひよこ! 今回の魔物を倒したら、アンタと再戦するんだから覚えてなさいよ!」


 そう言い残して、フアルミリアムは走り去ってしまった。

 この話をよく聞かない性格が、変な勘違いを生み出しているのだろう。



「荷物を片付けたら、私たちも山を登りましょう。きっと私たちの力が必要になります」

「私もそう思っていたところだ」


 ひよことマナさんが立ち上がる。

 ボス戦でライバルと共闘するのは良い展開だ。

 俺も、ひよこの提案に乗った。


「預言者さんならきっと、そう言ってくれると思いました」


 満面の笑みを浮かべるひよこは、俺の右手人差し指を両手で持って上下させている。


「仕える神は違っても、なんだかんだで仲良いいんだな」

「王都での勝負はともかく、料理の借りがありますからね」


 ひよこにしては珍しくツンデレっぽい言い回しだ。

 どちらかというと、フアルミリアムが言った方が似合っていると思う。


 ……あれ? ひょっとして、ひよこにかけられた、預言者と仲良くできないと安全が失われる呪いは、他の神の預言者であるフアルミリアムにも有効なのか?

 だとしたら、今の提案も自身の安全のためにとったものなのか?

 もちろん命がかかっているのなら、その行動を悪く言うつもりなんかない。

 そんなつもりはないのだが、出会ってからの俺に対する態度も、この笑顔もそうなのだとしたら、どうなのだろう。



「地下の神の言う預言者に、他の神の預言者は含まれませんよ」

「そうなのか」


 昼食時に広げた荷物を片付けながら、俺はひよこに聞いてみた。


「はい。ですので、預言者さんが望まれるなら、好きなだけフアルに石を投げてやってください」

「いや、投げないから」


 というか、その言い方だと、俺が他の神の預言者を嫌っても大丈夫ととれるのだが。

 待てよ、まさか、俺も……


「あの、もしかして、預言者さんが石を投げたい相手って、私ですか?」

「え? 全然そんなことないけど!?」

「そ、そうですよね。よかった~。まあ、仮にそうだとしても、そう言えるはずないですもんね」


 ひよこはいい笑顔だった。

 そして、俺も呪われている事は確定だった。


「元気出してください。ほら、私も地下の神から同じ祝福を受けているのですし、おそろいです」

「ワーイ、ウレシイナー」



「預言者、ひよこ、これはどちらの持ち物だ? って何やってるんだ?」


 自分の荷物を片付け終わったマナさんが、やって来たみたいだ。

 俺がうなだれて頭を突っ込んでいた魔法の両手鍋から顔を上げると、小さな園芸用スコップのようなものを渡された。


「これは?」

「さっき食事をとったところに落ちていたのだが、預言者達の物ではないか?」


 全く見覚えがない。

 ひよこの物でもないらしく、俺が持ったスコップの周りをくるくると飛び回りながら見ている。


「この印は天上の神のものですね」


 ひよこの指さす先、スコップの柄にそれらしいマークが刻まれていた。

 このスコップ、フアルミリアムがさっき言っていた、天上の神から授かった強力な武器だったりしないよな?


 「「「…………」」」


 俺たちは残りの荷物をまとめると、大急ぎでフアルミリアムを追いかけることにした。



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