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その黒き船は揚げ物に合いそう


 自分では頑張った方だと思う。

 月明かりを受けて、ぼんやりと白く浮かんだ息が、船の走行風に流されていく。

 しばらく続いた沈黙の後、ひよこはかみしめるように言った。


「預言者さんの才能は、もっと別の所にありますよ」


 あれ?

 思わず隣にいたひよこを見たが、目をそらされた。

 かわりに目が合った砂漠ネコも、両前足で顔を隠す。


「わたくしは砂漠ネコですので、ヒトの文化はちょっとわかりかねます。はい」


 回答を避けられた。

 そして、この詩を送った相手である、かるかんは、


「すごいです。すごく心に響かないです。かるかんは、ある意味すごいものを頂いてしまいました」


 はっきりと答えてくれた。

 それでいて目を輝かせてくれているのだから、非常に申し訳ない。

 こうして残念な詩の発表は終わり、ひよこがぱんぱんと手を叩くと、集まっていた砂漠ネコたちは、各自の持ち場へと戻っていった。



 地下の神の神殿からオアシスの町に戻った俺を待っていたのは、戦闘砂行船スナソースの幻だった。

 地下の神の配下である砂の神が、かるかんにひよこの望む幻影を作るよう依頼したのだ。


 まとめると以下のような流れだ。

 ひよこ(注文)→地下の神(依頼)→砂の神(依頼)→かるかん(協力)


 かるかんの持つ、砂の神の都合で砂上に幻を作り出すという、スキルはややこしい。

 幻影自体はかるかんのイメージが適用されるが、発動タイミングや出力調整は砂の神が行うそうだ。

 どうしてこんなに面倒なことになっているのか。その原因は、かるかんと砂の神の関係にある。


「むかしむかし、あるところに、かるかんという雪の妖精がおりました」


 と言った感じで本人の口から語られた話によると……


 かるかんは、一族の評判をデストラクションして、故郷を追われた愚か者。

 追い出された腹いせに、砂漠に大雪を降らせること三日三晩。

 砂漠の責任者である砂の神は、砂漠にできた氷山の上で、ギターを振り回しながら歌うかるかんを発見する。


『きみ歌うまいね。そうだ、神の使いに興味ない? その歌にのせて人々に神託を伝えてみないかい』


 アイドルのスカウトか何かだろうか?


『とりあえず雪降らすのやめてもらえないかな? あと、ギターは打楽器じゃないよ』


 砂の神は、かるかんの無視を決め込む態度にもめげず、毎日説得を続け、平和的に降雪をやめさせることに成功した。

 その後も神の使いになってもらうべく、加護や神界のギター、とっておきのスキルを貢いだが返事はノーばかり。

 それどころか、かるかんはスキルを悪用し、砂漠を幻影で魔境へと変えてしまう。


「結果、かるかんのスキルは、砂の神が許可しないと使えなくなってしまいましたとさ。めでたしめでたし」


 ……という事らしい。


 ともあれ、かるかんのスキルによって、ひよこの注文通り、この砂漠で一番早くて強い船の幻が出現。すぐさま地下の神に許可されたひよこの魔法によって、実体化された。


 こうして完成したのは、満天の星空を無で切り抜いて姿を映す、漆黒(しっこく)に彩られたもう一隻の戦闘砂行船スナソース。ブラックスナソースだ。揚げ物に合いそう。



 そんなブラックスナソースの甲板で、頼まれた詩を公開し、見事に砕け散った俺だったが、かるかんは今朝の約束通り報酬を出してくれた。

 俺はかるかんのギターの中からそれを取り出す。


「タペストリーですか?」


 ひよこが覗き込みながら言った。

 ハンカチほどの大きさのタペストリーには、夜空の星が描かれている。


 今日の早朝、オアシスの町で見つけたものだ。俺は店主に笑える値段を提示され、一度はあきらめかけた。だが、いつの間にか後ろで見ていたかるかんが、手慣れた値切り交渉によってタダ同然の金額で購入。気が付けばタペストリーは、かるかんの提案で、俺の作る詩と交換という事になっていたのだ。


「預言者さんがそこまでして、手に入れようと思った理由は何なのですか?」


 デザインが気に入ったというのもあるけど、描かれた夜空を見ていると、スキルと星の位置を見て町を探す、昨晩のひよこの姿が思い浮かんだからだろう。


 あの時俺は何もできなかったから、次があるかはともかく、少しは役に立てるように、星を覚えようと考えたのが理由だ。

 今日の遭難には間に合わなかったけど。


 ひよこは、大変良い考えですと言って、満足そうな表情を浮かべた。


「冬には、気付かれずに遠回り出来なくなってしまいますね」

「冬には?」

「はい。そこに描かれているのは、冬の空ですから」


 季節の物が販売されているとは限らないのか。

 ひよこは船が少しだけ風に流されているのに気づき、舵取りの砂漠ネコに伝えに行ってしまった。

 見れば舵取りの砂漠ネコは、操舵輪(そうだりん)にぶら下がっていて、操船できているのか怪しい。


 俺が視線を戻すと、人間サイズに変身した、かるかんが隣に座っていた。


「ひよこへの贈り物にするのかと、かるかんは思いました」

「そうした方が良かったかな」

「人を導くことに関して、かるかんは適切な答えを用意できません。ただ、かるかんがもらった詩と比べれば、見劣りする様には思います」


 かるかんは、どこか遠くを見るような目をして答え、置いてあったギターの中に手を突っ込んだ。しばらく中を物色し、引き抜いた手には砂色のヘビがつかまれていた。

 ……さっき、俺もそこに手を入れていたんだけど。


「あげます」

「いらない」


 かるかんは、また断られると思っていなかったのか、驚きの表情を浮かべた。そしてもう一度ヘビを見てから、うつむいてしまった。


「そ、そうですね。歌をほめられて少し調子に乗っていました。かるかんは迷惑でした。砂漠に来る前と何も変わっていない。きっとこれからも、かるかんはそうあるのでしょう」

「いや……そんなことはないと思うけど」

「少し、頭とヘビを冷やしてきます」


 ヘビを冷やす意味は分からないが、かるかんはふらふらと、船尾の方へ歩いて行ってしまった。

 俺は追いかけようしたが、それを(さえぎ)るように、


「スナソース発見!」


 マストの上にある見張り台にいた砂漠ネコによって、ついにスナソースを捉えた事が告げられた。

 舵の左横にある調整器は、担当の砂漠ネコにひねられ、魔法で風向きを反転、帆を騒がせる。

 俺たちを乗せた砂行船ブラックスナソースは、その場で停船した。



 俺は船の手すりから身を乗り出す。

 夜目の効く砂漠ネコには見えるらしいが、俺の目ではスナソースを見ることはできない。おそらく、スナソースの砂賊もこちらを発見できないだろう。


 ひよこは全乗組員を甲板に集合させた。俺とひよこと六十匹の砂漠ネコ、合計六十二名、謎の動力を持っているこの船ならではの少数精鋭だ。精鋭でない者がいない事には触れない。

 ちなみに、かるかんは神の使いではないので作戦人数に含まない。


 ひよこは甲板上にあった(たる)の上に立ち、皆に向かって言った。


「作戦は夜明けの二時間前から決行。それまでは休憩とします」


 ええっ!?


 失敗すれば、バロハニを知る全ての者と抽選で選ばれた若干名が呪われ、七日後にこの地が消滅する。

 そんな世界の危機は、わずか二時間の作戦にかけられた。


 砂漠ネコたちは適当に散らかり、柱で爪をといだりしている。

 ひよこはいつものように、自信に満ちた表情だ。


「預言者さんは、仮眠をとっておいてください。時間になったら起こしますから」

「ひよこがそう言うなら……」


 俺は覚醒後の自分に未来を託し、船室へ向かう事にした。

 昨日からほとんど寝てないから仕方ない。



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