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奇跡の少女は設定盛り過ぎ


 町に戻ると、昨日発表された品々がメインストリートに並ぶ、品評会の二日目が開催されていた。なんだかお祭りのようだ。

 俺たちは、道沿いをにぎわす出店(でみせ)で遅めの朝食をとりつつ、展示品を見て回ることにする。


「預言者さん、見てください。ライオンですよ」


 ひよこが指さす方を見ると、大きなライオンの頭の模型が乗った、荷車のようなものが展示されていた。

 近づいてみると、荷車の手前に木でできた立札があり、展示品の紹介と審査員のコメントが書かれている。


「えーと、ライオンが火を噴いて城門を焼く兵器みたいですね」


 審査員コメントには、ライオンの造形は素晴らしいが、火力が弱すぎて湯も沸かせない、美術館向けの品と書かれていた。辛口評価だ。

 クロエの持って来た携帯破城砲には、なんて書かれているのだろう。



「大人数で行われる攻城戦に使う兵器を、個人用にする意味が分からない。コスト的に考えてもカノン砲で十分。ただ、今回に限って、会場を破壊しなかった点は評価したい。だそうです」

「ひよこ! 後ろ」

「えっ?」


 コメントを読み上げたひよこの後ろには、暗い顔をしたクロエが立っていた。

 そんなクロエに気付いたひよこは、すぐに自分なりの評価を用意した。


「元気出してください、クロエちゃんがもらったコメントが一番文字数長いですよ」


 その発想はなかった。


「だ、大丈夫です。うち、がんばって修理したんで……」


 問題の魔法爆薬は、一応爆発するようになったらしい。

 俺はちらりと横目で、展示されている、魔法爆薬の入ったガラスびんのような容器を見る。

 なんだろう、通りの真ん中に危険物が置いてある状況に、謎の緊張感が高まってきた。これが萌え?


「お疲れ、クロエ」

「わっ、あねさん。これ……ありがとうございますー」


 さっきまでふらっと姿を消していたマナさんが、クロエに大きな花束を渡していた。

 展示品を見て回っているうちに、あちらこちらで貰ったものを一つにまとめてきたらしい。

 これは王都でも思ったが、マナさんはモテる。かなりモテる。昨日の一件も後押しになっているのかもしれない。

 マナさんは、花束を抱きかかえるクロエの隣にしゃがんで、言った。


「クロエは、この中でどれが最も美しいと思うか?」

「えーと……青色のんがいいと思いますー」

「そうか、では、預言者はどうだ?」

「俺ですか? そうですね、真ん中の白いやつでしょうか」


 マナさんはこちらを見て一度頷いてから、クロエに視線を戻す。


「この通り、評価など見る者によって変わるものだ。それに、何が起こるかわからないのが人生だ。たった一人で城を落とさなければならない日が来るかもしれないじゃないか。その時にはきっとこいつが輝く。そうだろう?」

「うぅ、あねさん……」


 涙ぐむクロエを優しくなでるマナさんは、かっこいいと思う。


「まあ、仮にそんな日が来ても、私に任せてくれればこの剣で片づけてやろう」


 そこは携帯破城砲使ってあげてください。



 俺たちは、なんだかんだで元気を取り戻したクロエも連れて、見物を続ける。

 にわかに騒がしくなってきたメインストリートの奥に目をやると、町の中央にある立派な洋風の城の方から、パレードの様な行列がこちらに向かって来ているのが見えた。

 聞けば、この行列は大番兵と呼ばれる魔物の討伐隊であり、五年ぶりに挑戦者が出た事で、大いに盛り上がっているそうだ。

 基本的にこの町の人はお祭りが好きなのだろう。それにしても……


「大番兵ってどんな魔物なんだろう?」

「大番兵は三大魔物の一匹です。七年帝国時代に作られた戦闘用ゴーレムの生き残りで、帝国崩壊からの千年間、防衛地点である、雪止(ゆきや)まずの谷を守り続けているそうですよ」


 そんなひよこ情報に、嫌な予感が高まる。

 とはいえ、さすがにそれはないだろう。そうに違いない。

 俺は腕を組み目を閉じて首を縦にふる。


「あ、フアルだ」


 あった。


 見ればフアルミリアムは、行列を率いて先頭を行く、馬車の馬を巨大なトカゲに置き換えた乗り物に乗っていた。いつものゴスロリ衣装の胸には二つの勲章が付いている。過去二回の三大魔物討伐勲章だ。俺たち3人は諸事情で売却してしまったが、フアルミリアムは記念にとっておいたみたいだ。

 しかしあらためて聞くと、天上の神の使いで魔術師、三大魔物のうち二匹を討伐済みの、奇跡の少女という肩書きのインパクトはすごい。設定盛り過ぎだ。

 あと、一番の奇跡はこの遭遇率の高さだと思う。どうして毎回旅先で出くわすのか。


 ああ、気付いたマナさんが、手伝う方向でフアルミリアムに話を付けている。

 そんな姿を見てクロエが目を丸くしていた。


「ほ、ほんとに聖騎士さんだったなんて……ないんさんは知ってました?」

「知ってるよ」




 それから数時間後。

 討伐隊に参加した俺たちは、町の裏に見える山脈のふもとにたどり着いた。この山脈の向こう側がソト王国らしい。

 正面に見える季節外れの雪で白く染まっている山の隙間が、雪止まずの谷の入口だ。


 雪止まずの谷は、今でこそ、その名の通り年中雪が降り積もっている谷だが、七年帝国時代以前は、山脈の中央を通って反対側へ抜ける交通の要衝(ようしょう)だったそうだ。

 そして、その雪を降らせている者こそが、討伐対象である大番兵だ。


 早めの昼食を終えた討伐隊は、ここから先の雪道に入るための準備を行っている。

 見渡せば、いろんな参加者がいた。パレードの様な行列という初見のイメージは間違いではないようだ。

 馬車の車輪をそりに取り換えたり、防寒着を配ったり真面目に準備している者。ちゃっかり店を出して商売をする者や、準備不足であきらめて引き返す者。レジャーシートを引いて酒を飲みながら帰りを待つ者。

 討伐隊は現時点で三百人程度いるのだが、実際の戦力は百人を下回りそうだ。



「まあ、だいたいいつもこんなものですな」


 そう言って楽しそうに準備を進めているのは、昨日の品評会場で隣に座っていたおじいさん。なんとこの人、例の品評会の主催であり、数年前までこの辺一帯を治めていた元領主らしい。

 なんでも、巨大な魔物や強い武器が大好きで、品評会も領内に住む大番兵を強い武器で倒すところが見たくて始めたのだとか。


「今年こそは、大番兵が立ち上がるところが見られれば良いですなあ」

「立ち上がると何かあるんですか?」

「さてねえ、本気を出すと立ち上がって応戦するらしいのだが、詳しい戦いぶりは伝わってませんなあ」


 そう言い残すとおじいさんは、はっはっはっと笑いながら、自分の息子である現領主に借りた、近衛魔法銃士隊このえまほうじゅうしたいの元へ戻っていく。

 今の話ぶりだと、倒すことは視野に入れてなさそうだが、大丈夫なのだろうか?


 風向きが変わり、谷の外にもちらほらと雪が降ってきた。



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