『水越歩』
「お~い、歩。また寝てんのか?」
少し進んだところで立ち止まり、振り返った桂心が大きく手を振って私を呼んだ。
「寝てない……わよぉ……。失礼ね!!」
私は不満を訴え唇を尖らせて返事をすると、二人に追い付こうと小走りになりながらも車の三人から目を離せない。
三人の男は鞄を開けて、例の爆弾を覗き込みながら、銀色の筒を弄っている。
ちゃんと作動するか確認でもしているのかな? そんなの、壊れてればいいのに……。
「歩ぅ? どうしたんだよ!?
やっぱり買い物がしたくなったのかぁ!?」
桂心は大きな声で心配そうに私を呼びながら、今にも戻って来てしまいそう。
不審に思ったのか香までもが振り向いている。
このままじゃ二人まで巻き込んじゃう。早く行かなきゃ……。
私は心配掛けまいと、小走りで二人に駆け寄った。
「なんでもないわよぉ、元気元気!」
あの三人組が気になりながらも、私はガッツポーズを取って見せた。
「……。まぁ、お前がそういうならいいけどな……」
桂心は私を見ると眉間に皺を寄せてそっぽを向きながら鼻を鳴らした。
これは、桂心が機嫌の悪いときの態度だ。
なんで不機嫌になるのよ? 私は二人にここから離れて欲しいだけなのに!
「歩、なにか心配事があるなら話して……。力になれる事もあるかも知れないわ」
香が私の髪を撫でて甘やかしてくれる。
この二人が協力してくれれば、止められるかも知れない。
でも、それはまた、二人を危険な目に合わせてしまうことを意味していた。だから相談なんか出来ない。早くここから離れなきゃ……。
「ん……」
私は本心を言えない事に心苦しさを感じながらも、一刻も早く二人とここから離れようとした。
その時、例の自動車のドアが開かれ、三人の男が車から下りるとショッピングモールに向かって歩き出した。
「あっ……!」
私は思わず声を出してしまい、遠退いていく三人の後ろ姿を見送っていた。
このまま行かせてはダメだと言う思いが頭を過ったけど、私には止められないし、どうしようもないよね。
「やっぱ、買い物してくかな?」
桂心が唐突に言い出すと踵を返した。
「なっ…….、なに言ってんのよ!!
そんなのダメよ! 違うところ行こ……」
私が桂心を必死に止めると、桂心は無理にショッピングモールへ行こうとはしないけど不満そうに私を見つめて来た。
「なんでダメなんだよ?
ここには結構来てるだろう?」
「いいから! 今日はダメなの!!」
「だから、なんで今日はダメなんだよ?
なんかあるのか?」
私が経験したことを話しても信じてくれないか、悪い夢を見ただけと思われるだけよね。私自身、半信半疑なんだし……。
「後で話すから、今はここから離れよう」
私の思いが伝わったのか、桂心は腑に落ちない表情ではいたが、渋々ながらもここから離れることを承諾してくれた。
「本当、急にどうしたの?
なんだか挙動不審よ? あなた……」
香も私を不審そうに見つめながら静かに訊ねてくる。
これは香にも言えない。それとも、香なら事前に止めることが出来るの?
だけど、危険に巻き込んでしまうことは確かよね? ここは離れるのが懸命よね。
君子危うきに近寄らずって言うし……。
二人がここから離れてくれるならそれでいいし、早くここから離れよう。
私は二人を促してショッピングモールを後にしようとした。
「ママぁ、お姉ちゃん喜んでくれるかな?
」
すれ違った、三十前くらいの女の人に手を引かれた男の子が、母親らしい女の人を見上げて満面の笑顔で問い掛けた。
「喜んで貰えるように一生懸命選ぼうね」
少しヤンキーの入ったお母さんらしき人が、鬼のようなメイクとは裏腹に優しい笑みを浮かべて答えた。
私は『行っちゃあだめ!!』と叫びたくなったが、言ったところで信じては貰えないだろうな。それどころか変人扱いされちゃうかも知れないし……。
私はそんな後ろ髪を引かれる思いで、その場を後にした。