『水越歩』
私はびくんっと体を震わせて目が覚めた。って、何時の間に寝ちゃったんだろう。なんだか、長い夢を見ていた気がするけど、あれは夢じゃないんだよね……。
私はあの時、鉄砲で撃たれちゃたんだ。
そう思って、私は背中……、鉄砲で撃たれた辺りに触れた。
制服に穴が開いていて、体にも傷口にも直に触れる事が出来た。
血が出てないし、痛くもないのに、なんだか冷静でいられるのは、きっと死んじゃったんだって、頭のどっかで分かっていたからなんだと思う。
寂しいけど、仕方がないよね……。
私は肺から空気がなくなるまで深く溜め息を吐くと、思いっきり息を吸い込みながら気持ちを切り替えて、微笑みを浮かべて案内人さんを見つめた。
「私は死んじゃったんだよねぇ……?」
案内人さんは私の問いに小さく笑みを浮かべると瞳を伏せた。
無言の肯定というやつだ。
「人は生まれ変わり、死に代わって、未来永劫輪廻の輪を繰り返します。
これから、貴女の行くべき世界へご案内致します……」
案内人さんは鈴の転がるような、辺りに響き渡る声で静かに言う。
ソプラノ歌手になったら、人気が出ること間違いなしな、綺麗な声だ。
「行くべき世界? それは勿論天国よね? だって、私だもん……」
「それを決めるのは貴女です……」
冗談半分で言ったのに、案内人さんはツッコミを入れる事なく静かに言った。
「もしかして、地獄なの?」
「それを決めるのも貴女です……」
急に不安になって問い掛けたけど、案内人さんの答えは一緒だった。
私が決めていいなら、やっぱり地獄は嫌よね。
「じゃあ、天国にお願いします!!」
私は当然、天国を選んだ。
せっかく自分で選べるのに、わざわざ地獄を選んで苦しみたくないもん。
地獄がどんなところか知らないけど……。
「何処へ行くかを決めるのは、貴女の心です」
案内人さんは小さく微笑むと立ち上がった。どうやらお願いしてもダメみたい。
心に聞くってなんだろう。読心術とか出来ちゃったりするのかな? なんだか不思議な雰囲気な人だし……。
心に聞かれても同じだよ。私は地獄に行きたいなんて思ってない。
案内人さんは穏やかな表情で私を見つめると、片手を軽く翳した。
指先が、直視できないくらいに白くて眩しい光を放ち、光が収まると案内人さんは純白の光を放つ透明の翅を指先で摘ままれている。
きっとこれが眩いばかりの光って言うんだわ。
「綺麗な翅……」
私が漏らした呟きにも、案内人さんはただ、ただ、優しく微笑むだけだった。
「我一族の創始者でもある、冥府の神アヌビス神はこのマアトの翅と人の魂を天秤に掛けて、その人が辿るべき道へと導きました。
これより、貴女の魂を計らせて頂きます………」
案内人さんが静かに言うと、それに呼応するみたいに翅がまた光始めた。
「ジャッジメント」
案内人さんの透き通るような声が響き渡り、私の意識はまた、遠退いて行った。