『水越歩』
ライフルって言うの? それを構えた人が三列になって並んでいる光景は凄く圧巻だった。
織田信長の鉄砲隊ってこんな感じだったのかな? これは騎馬隊も怖がるわ……。
「武器を捨てて投稿しろ!!
さもなければ撃つ。これは最終警告だ!! 」
ライフルを構えたままの集団の中から低く威圧する声が聞こえて来たが、誰が言ったのかまではさすがに判別できない。
だけど、凄く重くて迫力のある声だった。これなら犯人も怖がって止めてくれるかな? なんて淡い期待を抱いて振り返ったら、覆面の男はなんか小さなものを握っていた。もしかして、あれって……。
「爆破スイッチね」
私の考えてる事を読んだみたいに香がぼそりと囁いた。
やっぱりと私は内心で落胆した。覆面の男たちに降伏の意思はないのだろう。それどころか、大勢を巻き込んで爆弾を爆発させるつもりだと思えた。
やっぱり、私、ここで死んじゃうのかな?
そう思ったら溜め息が出た。
「ざまぁみろ!! お前たちは終わりだ!!」
銃に怯えて床に座っていた男の人が急に立ち上がり、勝ち誇った顔で覆面に向かっていい放つ。
なんだろう? 目的が分からない上に凄く格好悪い。
嬉しいのは分かるけど、ね……。
「バーカ。ハナっから逃げられるとは思ってねぇよ。てめぇらみんな道連れだ……!!」
覆面の男は立ち上がった人を嘲るように言って、筒を持った手を高く上げた。
予想はしていたけど、はっきりと言われるとやっぱり来るものがある。
凄くへこんで溜め息が漏れた。
あ~あ、やりたいこと、たくさんあったのにな……。
こんな事になるなら、もっといっぱい遊べば良かった……。
私は膝を抱えて溜め息を吐いた。
パンツ見えちゃうかな? いいや、どうせ死んじゃうんだし……。
もう、覆面の男の人がボタンを押すのを見るのも辛くなって、ぼんやりと床を眺めていると、一発の銃声が響いた。
「ぐぅ……。あっ……」
低く呻く男の人の声に、ボタボタッと床を赤く染める赤い斑点。そして、一拍子開けて高い音を響かせて床を叩くと、バウンドして転がっていく銀色の筒……。
それを見た瞬間、私の鼓動が激しく高鳴った。
あれさえ捕まえれば死ななくて済む。
これまで通り、平和で楽しい生活をおくれる。
そう思ったら立ち上がり、飛び込んで手を伸ばしていた。
「てめぇ!!」
低い男の人の声が響いて、お腹を何度も激痛が走る。多分蹴られてるんだ……。
痛くて痛くて泣いちゃいそうだったけど、今は泣いてはいられない。歯を食い縛り痛いのを我慢して手を伸ばした。
やった、掴める! と思った時、近くで銃声が響いて、どうしてか体から力が抜けていく。
だけど、指先が銀の筒に当たって男たちのいない方へ転がっていく。
「返して欲しかったら、歩から離れなさい」
回りに悲鳴めいた声が聞こえた直後、香の冷ややかな声が聞こえてきた。
良かった。筒を拾ったのは香みたい。
香の表情や仕草は見えないけれど、香の事だから余裕そうに片手で弄びながら言ったんだろうな……。
「クソッ……」
男たちの呻く声が聞こえて、引き摺るような物音が遠ざかっていく。
なんの音か気になったけど、体には力が入らず、視界がぼやけてきた。
「歩……!!」
桂心が駆け寄って来て抱き起こしてくれた。ふぇ……? どうして泣いてるの……?
「言う通りにした。そいつを渡せ!!」
覆面男が香に向けて手を差し出したが、香は起爆スイッチを手元で弄んでいるだけで返す素振りはない。
「早くこっちに投げろ!!」
男が苛々とした口調で叫ぶと、香は起爆スイッチを軽く掴んだ。
「投げればいいのね?」
香は嘲るように言って、起爆スイッチを銃を身構えている人たちの方へ、無造作に転がすように放り投げた。
「てめぇ!!」
「突撃!!」
覆面の男の低い叫びと警察の人の叫びを同時に聞きながら、ぼやけていた視界が闇の色へ染まっていき、私の意識は途切れた。