『水越歩』
「なに言ってんだ!? そんな事されたらあたしたちだって死んじまうだろう……」
桂心が香も冗談を言っていると思いたくて呆れた顔で言った。香って真顔でダークな冗談言うから、判別が着かないときがある。
冗談……だよね……? ね……?
香はなにも言わないで、ただジッと覆面の男たちを観察するように見つめてる。
私も見たけど、香がなにを重視してみてるのか良く分からない。
「ああ。そうね。思い過ごしだったらいいわね……」
香は曖昧に答えた。それが私の不安を一層駆り立てる。だって、香って冷静だから、あまり予想を外さないんだもん……。
「騒ぐな! 静かにしろ!!」
覆面の男たちは声を張り上げてそう言うだけで、他にはなにもしないでただ私を威嚇するだけ。良く、テレビでやるような声明をだすとか、身代金を要求するとかもなく、悪戯に時間だけが流れていく。
遠くに警察の特殊部隊って言うの? 半透明の仮面を着けて、POLICEってロゴみたいなのが入った盾を持った人たちが通路を塞いだ。
ドラマやマンガでの知識しかないけど、突入して来ないのは私たちが人質になっているからだろう。
『犯人に告ぐ。人質を解放して投降しろ』
その内、警察らしい人が拡声器を使って説得を始めるが、三人の中では比較的小柄な男が「うるせぇ!!」と叫ぶと拳銃を数発、発砲した。
私は怖くて、見ないようにきつく目を閉じて、聞こえないように両手で耳を押さえた。
遠くで良く分からない大きな音と回りの人が悲鳴を上げる声が聞こえて来た。
音が静まったのを感じて、私は瞳を開けた。
辺りは静まり返っていて、香や桂心さえも顔を蒼白させている。
普通に生活していたら、拳銃を撃つ場面になんて直面しない。
みんなが動揺するのも分かる。私だってまだ心臓がバクバクしてるもん。
「隊長、そろそろ……」
大きな鉄砲を抱えた大柄の男の人が小声で話し掛けるが、元々の地声が大きいのかこっちまで丸聞こえなんだけど、そろそろなに? 行ってくれるの?
「いや、もっと人を引き付けてからだ。
SITや自衛隊も巻き込めるかも知れねぇ……」
隊長と呼ばれた男は鞄を開けて中身を確かめながら小声で囁いたが、やっぱり声は丸聞こえだった。
なにが入っているかは分からないけど、しきりにその中を気にしている。
「あらやだ。やっぱりあの中は爆弾だわ……」
香りがぼそりとつぶやいた。
私と桂心は息を飲み込んで同時に香を凝視する。
相手の隊長と呼ばれた男が持ってる鞄を見つめて、香は確信を持ってるかのようだ。こう言うときの香の勘はほぼ外れない。
「爆発させるつもりなのかな?」
「そのつもりでしょうねぇ……」
「じゃなかったら、んなところに立てこもらねぇだろう」
私の何気無い言葉を二人に同時にツッコまれた。
「二人して言うことないじゃん。
言ってみただけよ……」
唇を尖らせて二人を見上げると、二人は苦笑を浮かべて見返して来た。
だけど、なんだか二人ともちょっと様子が可笑しい。
普通を装っているけど、やはり二人とも怖いのだろう。今はそれを誤魔化そうとしているのだ。
「それにしても、まさか生まれて一七年しか生きられないとは。もう少しでいいから生きたかったわ……」
香が急に溜め息混じりで吐き出した。えっと、諦めるところなの……? 諦めなきゃダメなの?
「警察に期待するしかねぇな……」
桂心もいつになく弱気な発言して苦笑を浮かべてるし……。
もう、ダメなのかな……。
私が内心で呟いて溜め息を吐いたとき、男たちが壊して乱入してきたのとは反対側のシャッターが上がっていき、その向こうにも大勢の機動隊の人たちがバリケードを作っているのが見えた。