『水越歩』
急にやってきた闖入者に、辺りの人たちはさらに混乱した。
階段に並んでいた人たちは今度は我先に逃げようとして、危険なのはわたしたちも同じなのに、なんか呆気に取られて逃げそびれちゃった。
「静かにしろ!!」
男の人が三人組が壊したのとは反対側のシャッターまで逃げて、『開けろ!!』と騒いでいたら、三人組の小柄な男が拳銃を向けて低く威嚇した。
「ひぃっ!?」
シャッターを叩いていた男の人は、顔面を蒼白させてその場に尻餅を着いて、止めてと懇願するように頭を大きく左右に振った。なんか、カッコ悪いな。
こう言うときこそ、果敢に挑んでくれる男の人っていないのかな?
いないよね。現実なんてそんなもん。
だから、みんな妥協して彼氏をつくるんだもん。
私もそうなっちゃうかも知れないけれど、今はまだいいや……。
この覆面の人たちは誰だろう? 目的ってなんなのかな? ああ、もしかして、私たち人質!?
自分の状況に今更ながら気が付くと、なんだか手が震えてきた。
だって、あんなドラマでしか見たことのない鉄砲持ってるなんて絶対におかしい。
「全員一ヵ所に固まって床に座れ!
いいかぁ!? 可笑しな真似しやがったらハジくからな!」
一番奥にいる大きな人が腕組みをしながら低く言うと、隣にいた、一回り大きなプロレスラーみたいな人が機関銃って言うの? なんか怖そうな大きな鉄砲をみんなに向ける。
さっきの警報は火事じゃなくて、きっとこの人たちのことだったんだ。
桂心が私の肩を小さく叩いた。頭だけを動かして桂心を見ると、桂心は小さく頷く。隣には香もいる。相変わらず無表情で、私を見るとやっぱり小さく頷いた。
今はおとなしく従おうと言うことらしい。
私も頷き返すと、三人で固まって端っ子に体育座りで座ったけど、正面から見たらパンツ見えちゃうかとペタンと座った。
三人組の覆面は、なにやら落ち着かない様子で周囲を見回したり、スマホを見たりして状況を確認してる。
まぁ、こんな事をしているんだから、警察とか気になるんだろうし、当たり前だろうけど……。
「変ね……」
香がポツリと囁いた。
「んに? なにが変なの?」
いやこの状況、そのものがすでにへんなんだけど……。
「あの三人組はただここを通り抜けるだけだと思っていたわ。
こんな建物の真ん中では、周囲を囲んでくれって言っているようなものだし、なにを要求するのかは知らないけれど、例え要求が通ったとしても逃げられないわ。
こんなところに籠城する意味が判らないわ」
確かにここは三階だし、ちょうど建物の真ん中辺りだ。ここからじゃあ逃げるのはちょっと無理だな……。
と言うことは、この人たちはきっと逃げやすいところに行くわよね。
ちょっとの辛抱だ……。
安心したら息が漏れた。
「お、玉砕覚悟で政府に不満を訴える過激派か!?」
ほっとしたのも束の間、桂心が恐ろしい事を言い出した。
「ちょっとぉ、止めてよぉ……」
どこまで冗談で言ってるのか、けらけらと笑ってる桂心を見上げて唇を尖らせた。
「ヒヒヒ。悪い悪い。冗談だ。そんなビビんなよ」
怒る私を桂心は笑い飛ばすが、香はジッと一ヶ所を見つめている。視線を辿ると真ん中の覆面男が持ってる鞄を見ているみたいだった。
「案外、的を得てるかもしれないわね」
ぶっきらぼうに言い放った香の言葉に、私だけじゃなく桂心までも硬直していた。