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アヌビスの翼  作者: ふんわり塩風味
水越歩の場合
14/16

『水越歩』

 桂心の案に乗り、私達は通路に三人で並んで男たちが来るのを待ち受けていた。

 三人の男たちは警戒するように周囲を見回しながらゆっくりとこっちに近付いてくる。


「ああ、すいません。お客さん、ちっといいっスか?」


 三人が私達の前を横切ろうとした時、桂心が突然声を掛けた。



「なんだ! 客引きなら他でやれ!! 」


 急に声を掛けた桂心に対して、先頭を歩いていた男が鋭く声を荒らげた。

 一瞬、桂心の顔が強張ったが、顔を引き攣らせながらも懸命に笑顔を作った。


「あたしらバイトなんスけど、なんか危険物を持ち込んだ客がいるって連絡が入りやしてね、軽く持ち物検査させてもらってんですよ。そんで悪いんですけど、その鞄の中を見させてくれませんか?」


 あまりにも何気なく言う桂心に、内心ではびくびくしながらも平静を装って微笑みを浮かべた。

 どうしてこうも平気でいられるのだろう。

 もしかしたら、あの中に爆弾が入っているなんて信じてないのかな? 中を見れば私が安心するから、見せてもらおうとしているのかも知れない。


「ああ!? 危険物なんて入ってねぇ。

 他の奴を当たれや!!」


 案の定、男は否定をすると恫喝するように声を張り上げて来たが、桂心は全く動じず瞳を細めて男を見つめる。


「おやぁ? なにか見せられないわけでもあるんですか? 例えば、その中に爆弾が入っているとか……」


「てめぇ!!」


 男は驚愕の表情で低く唸ると、懐に手を差し込んだ。

 違う男はギターケースを開けている。

 もう、ところ構わず暴れる気なのだろう。


「みなさん。この人達はテロリストですよ!!

 このショッピングモールを爆破するつもりですよぉ〜。

やっつけましょう!!」


 桂心が声を張り上げると、当然ながら回りにいた買い物袋客が私たちと男三人を囲んだ。


「こんなものでなにをするつもりだよ? お前ら!!」


 野次馬程度に見ていたのだろうが、お客さんの一人がギターケースの中身に気付いたらしく、男が開けようとしたケースを押さえに掛かった。


「離せ!! 殺すぞ!!」


 男は恫喝するが男性は押さえる手を離さず、ギターケースを取り上げようとしている。それを見た他の人達も桂心の言葉に信憑性を感じ始め、大勢で三人の男に詰め寄ると押さえつける。

 一対一ならばお客さん達に勝機はないだろうが、こうなればもう数の暴力ね。三人の男達は呆気なく取り押さえられた。


「なにごとですか!?」


 騒ぎに気が付いたのか二人の警備員が駆け寄ってきた。


「ああ、不審者がいたんで、みんなで取り押さえたところっスよ」


 桂心がにへらと笑いながら誇らしそうに胸を張って、まるで自分の手柄のように警備員に主張する。

 警備員が三人の男を見ると、男たちは諦めたように舌打ちをして視線を逸らした。

 それを見た警備員は桂心が正しいと悟り、敬礼をした。


「ご協力有難うございます」


 警備員は念のためにか三人の男を持っていた縄で拘束をし始めた。なんで手錠を使わないのだろうと不思議に思ったが、手錠を持っているのは警察官だった。


「その爆弾を拝見しようかしら」


 香がなんでもないように淡々と言うと、床に投げ出された黒い鞄に近付き、なんの躊躇もなくファスナーを開いていく。

 やはり、香って恐ろしいな。普通だったら爆弾だってだけで近付きたくもないのに、平気で近づくし、その上見ようとしているんだもん。


「このクソガキがぁ!! それに触るんじゃねぇ!!」


 男の一人が声を張り上げると、拘束していた警備員を力任せに振り払い、背中に手を回すと直ぐ様、拳銃の握られた手を香に突き出した。

 男はまだ、拳銃を隠し持っていたのだ。

 爆弾に気を取られていた香は逃げる事も出来ずに瞳を見開いて男を見返している。冷静な香が息を飲み込んだ声が私にまで聞こえてきた。

 中学からの付き合いだけど、香が声を上げるのなんて 始めて聞いた気がする。


「香!!」


 考えるよりも先に身体が動いていた。私が行ったところで拳銃を持った大人の男を相手にどうにかなるわけでもないのに……。

 低く乾いた音が鳴り響いて、男の持った拳銃が煙を吹き、私はお腹や肩に例えようもないくらいに凄い衝撃を受けて床に転がった。


「歩!!」


「おい、歩!!」


 直ぐに桂心と香が駆け寄って来てくれて、私を抱き起こしてくれた。だけど、そんな大きな声で呼ばなくても聞こえるよ……。と言おうとしたが声が出せず、自分で立とうとしたが体に全く力が入らない。

 薄く開いたままの瞼の隅で、泣きながら桂心と香がなにかを叫んでいるのが見えたが、不思議と凄く遠くに聞こえて、なにを言っているのかさえも聞き取れない。

 聞き返そうとしたが、凄く眠くて会話もできない。せめてもと、自分のものとは思えない、凄く重い手を動かして桂心のほっぺを撫でたら血で真っ赤に染まってしまった。

 なんで血……? 不思議に重い手を広げてみたら、手のひらが真っ赤だった。

 そこで、私は理解した。

 やっぱり私の命はここで尽きたのだと……。

 せっかくやり直したのに、同じだったか……。


 そう思ったら凄い睡魔が押し寄せてきて、私は意識が遠くなっていった。

 きっともう起きられないだろう……。

 そう思ったら涙が込み上げてきた。

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