『水越歩』
ショッピングモールはまだいつも通りに賑わっていて、まだ事件は起きていないようだ。安心なんてしてられないわよね。早くあの三人組を探さなきゃ……。
「どんな格好してるんだ? その三人のおっさんってのは」
見渡す限り人で溢れている、モールでの内を見回しながら桂心が聞いて来た。
「黒いジャンパーを着て、鞄やバイオリンケースを持った、大、中、小の三人組よね?」
まるで知っていたかのように、香が特徴を簡潔に告げた。香にはあの時の記憶があるのかもなんて思っちゃう。
「なんで?」
私は思わず香を見つめて聞いていた。
「さっきあの三人を見たとき、様子が可笑しかったから……」
私が『知っているの?』まで言う前に、柔らかな笑みを浮かべて答えてくれた。
良く見てくれているんだな、と思わず感激しながら、私も三人組を探した。
「なんか、如何にも悪者って格好だな?
だけど、すぐに見つかりそうでなかなか見つからなさそうな格好だな……」
桂心は眉を顰めながら周囲に注意深く視線を這わせて、三人を探してくれる。
「だけど、探せばいるとはず……」
私も周囲を見回して三人を探しながら桂心に答えたけど、人が多すぎで見つけられそうもない。せっかく三人いるんだからここは手分けして探した方が良さそう。
「分散するのはダメよ。見つけるのは大変かも知れないけど、三人で行動しましょう」
私の思った事を読んだように、また香がピンポイントを突いて忠告してくる。本当に怖いくらいにすごいな……。
「そんじゃあ、居そうなところにでも行って見るか……。男用品は二階の南側にあったよな」
大きな駐車場にある歩道を歩きながら桂心が言うと、店内に入ってMAPを指先でなぞりながら確認をする。
「待って桂心。相手はこれから爆破をしようとしているのよ。呑気に買い物をするとは思えないわ」
エレベーターのボタンを押して待っていた桂心を香が制止する。
「そんじゃあ何処を探すんだよ? こんだけ広いんだぞ? ある程度絞らねぇと見つかるもんも見つからねぇだろう……」
桂心が振り返って困ったように言う。二人とも最な意見だと思うけど、ここでこうしてても悪戯に時が流れるだけだわ。
やっぱりここは別れて探した方が良いかも……。
「そうね。無闇に歩き回った所で運良く見つけられるなんて偶然に期待は出来ない。 ある程度の見当を着けて、重点的にさがすのが賢明ね」
私がやっぱり別れて探そうと提案しようとした一瞬先に、香がまた淡々と言い放った。
私の意見ってそんなにダメなのかな?
「じゃあ、お前は何処を探すのがいいと思うんだ?」
香ならなにか考えがあるのかも知れない。 私も香を見て言葉を待った。
「それは私じゃなくて歩が知っているわ……」
香は笑みを浮かべると私を見つめて頷いた。
「私がぁ!?」
私はそんなの考えていない。急に振られても困るんだけども、香は責任転嫁とかで私に振ったりはしない。
その真意を探ろうと香を見つめた。
「ええ。歩がその三人と遭遇した場所にいればそこに来るはずよ。
だったらその階にいる可能性は高いわ」
優しく諭してくれる香に私はハッとした。どうしてそんな簡単な事に気づけなかったのだろう。
さすが香。三人一緒でも見つけられる方法をちゃんと考えてたのね……。
「私が会ったのは三階の西搭と東搭の間くらい……」
「あら、私たちがいつも行く場所なのね」
「そんじゃあ、取り合えずそこに行くか!」
私が二人を見つめて正直に話すと、二人は行き先が決まったとばかりに意気揚々とエレベーターに乗り込んだ。
これから危険な目に合うかも知れないのに、どうしてこんなに元気なんだろうと思いながら、私たちは三階に向かった。