『水越歩』
ショッピングモールから離れて、例え爆発が起きても巻き込まれない場所のジャンクフードのカフェテリア、私たちは三人でお茶を飲んでいた。
お茶と言っても緑茶ではなく、ソフトドリンクとポテトやナゲットと一緒に食べながら飲んだりしているのだけど、私はショッピングモールのことばかり考えていた。
帰り際にすれ違った親子、きっと女の子用品の多い四階に行くのね。あの事件が起きたのも四階。巻き込まれなきゃいいのだけども……。
「ふぅ……」
また溜め息が漏れた。今日、何回目だろう……。本当にこれでいいのかと言う疑問が頭から離れない。
私たちは安全なのにどうして?
「七回目ね」
香の無機質な言葉に私の心臓が跳ね上がった。口に出して言ちゃってたのかな?
「え……?」
「歩がこのお店に来てから吐いた溜め息の数よ……」
聞き返した私に香は明確な答えをくれたけど、私の質問に答えてくれたのか、ただ溜め息を吐いたから言ったのかよく分からない。
きっと、敵に回したら世界で一番恐ろしいだろう。
「なにか心配事があるならあたしたちに話してみろ? それとも、あたしたちにも言えない事なのかぁ?」
桂心がテーブルに肘を着いて身を乗り出して言ってきた。
元ヤンなだけに、こう言う顔は慣れていても怖い。
「んっ……」
私はどうしたらいいか判断に困って俯いた。
「言えないのだったら無理には聞かないわ。歩は歩が最善だと思った事をすればいい」
私が困ってるのを悟ってくれたのか、香が優しく声を掛けてくれる。
今、私が最善だと思っているのは、やっぱりあの三人を止めたい。だけどそれは一人じゃ無理で……。
だから、諦めようとしている。でも、二人が協力してくれたら……。
私は意を決して二人を見つめた。
信じてくれないならそれでもいい。
ただ、こんなに心配してくれる二人にこれ以上隠しているのが辛かった。
「あのね……」
私は霧の世界の事を含めて、全てを二人に話した。
やっぱり、あまりにも突飛だったのね。 二人は言葉もなくして目を丸くしている。
「夢、とかじゃなくてか?」
桂心がパクパクと口を開閉させた後、絞り出すように聞いてきた。
「分からない。夢だったのかも知れないし、本当に起きたことなのかも知れない。 だけど、覆面姿の三人っぽい人もいたし、夢で見た鞄も持ってた!」
私は思った事をありのままに伝えた。
信じられないのは分かるけど、でもやっぱり信じて欲しい。
「まぁ、なんにせよ。撃たれたはずの歩が元気で良かったぜ。くそ、あたしが着いていながら……。
夢でもなんでも許せねぇ」
夢だと疑いながらも桂心は悔しそうに右手を握って左手に打ち付けた。
「もしも歩が言っていることが本当だったとしたら、歩はその案内人に生きる道へと導かれたのかも知れないわね。
やり直す機会を与えられたのかも知れないわ。
このまま見て見ぬ振りをすれば、これまで通りに生きて行けるのじゃないかしら」
ストローの袋に水滴を落として、水分を含んだ包みをくねくねと蠢かせながら香が淡々と言った。
このまま黙って見ているのが無難と言うわけだ。
「だけど、それは嫌なんだろう?」
桂心がニッと笑って親指を立てた。
桂心にも私の考えなんてお見通しのようだ。
「だったら私たちがこれからやることは一つね」
香が意味深な笑みを浮かべると立ち上がった。
「そうだな。そいつら取っ捕まえて、爆弾を取り上げるか……」
桂心も元気にテーブルに手を着いて立ち上がると、楽しそうに笑った。
「だけど、相手は鉄砲を持ってるのよ? 超危険なんだから!!」
思わずテーブルを叩いて声を張り上げていた。周りの視線が私に集まり、いたたまれなくなって私は再び椅子に座った。
「大丈夫だって、当たりゃしねぇよ」
私の心配を余所に桂心は気楽に笑うと手をパタパタと振ってくる。
「無目的ならまだしも、人を引き付けてと言う目的があるのなら、簡単には発砲はしないわ。
無差別のようだから、追い詰めたらなにをするかは分からないけど……。
そうなる前に警察に引き渡せれば、被害を出さずに事をおさめることができるわ」
香が静かにそう告げてきたけど、それを実戦するのが難しいのは、きっと私より香の方が分かっている事よね。
それでもこう言ってくれるのは、私を安心させてくれようとしているのね。
優しいな。二人とも……。
こんな二人を私は危険に巻き込もうとしているんだわ……。
「だけど、もしも私の妄想でその人たちが爆弾を持っていなかったら、二人とも騒ぐだけ騒いだ変な人になっちゃうのよ?」
私は可能性の一つを言ってみた。
二人は笑顔で顔を見合わせると微笑みをうかべて見つめてくり。
「そん時は恥女三人組って、警察に怒られりゃあいいさ」
桂心が楽しそうに笑ってにへへと声を洩らして言った。
「恥女三人組ね……」
なぜか無表情で香もそこを強調する。
「それで、いいの?」
私が二人を見つめて問い掛けると、二人は満面の笑顔で見つめて来た。
「勿論!!」
二人同時に笑顔で頷くと、声を合わせて答えてくれた。
私は嬉しくて笑みが溢れてきた。