『水越歩』
気が付くと、私は深い霧の中を歩いていた。
どうしてこんな所にいるのか思い出せないけど、とにかく先に進まなきゃって思いだけが頭を過る。
前も後ろも霧しか見えない変な所……。足元も床なのか地面なのか分からないし……。
だけど進まなきゃ……。この先になにがあるのか分からないけど、そんな気がする。
こんなに霧が出てるのに寒くはなく、たくさん歩いたのに疲れてない。
なんだか、夢の中にいるみたいな感じ……。
歩いても歩いても一面真っ白……。
なんだか、疲れて来ちゃった……。
ああ、精神的にね……。体は元気、元気。
でも、ね……、なんにもないところをただただ、歩いてると、前も後ろも右も左も分からなくなるし、時間の感覚も狂って、なにがなんだかわからなくなるの……。
もう、歩きたくない……。
だけど歩かなきゃ……。なんか知らないけどそんな気がする。
そんな事を繰り返しながら歩いてたら、なんか広いところに出た。
今まで歩いていたとこも広かったのかも知れないけど、霧で回りが見えなかったし……。
だけどここは、遠くまで見える。と言っても、教室くらいかな? その向こうはやっぱり霧がもやもやってしてる。
何故か霧が晴れている空間っていうのかな? まぁ、そんな場所を歩いていると、真ん中に大きなテーブルがあって白い着物の女の人が立ってる。
ちょっと怖いけど、私はあの人に会いに来た気がするの。だから、話してみなきゃ……。
私が近付くと、女の人は深くお辞儀をして、テーブルの傍らに並んでるソファーへ導いてくれた。
これって座っていいってことだよね?
ああ、でも、そんなに丁寧にしてくれなくていいのに……。
私がソファーに座ると、女の人も向かいに座って紅茶を淹れてくれた。
それにしても、本当に綺麗な人……。
少し青み掛かった銀色の長い髪を頭の上で結い上げて、白い豪華そうな着物を綺麗に来た、何処か人間離れした人……。
人間って言うよりは、お伽噺の天女さまや雪女って言った方が相応しい気がする。
「えっとぉ……。こんにちは……」
なにを言えばいいのか分からず、取り合えず挨拶をしてみた。
「こんにちは。水越歩さん」
女の人は見掛けには寄らない優しい笑顔で挨拶を返してくれた。私はなんだかほっとしたけど、どうしてこの人は私の名前を知ってるんだろう?
「あの……、貴女は誰ですか?」
変な話だけど、私はこの人に会いに来たのにこの人が誰か分からなかった。
「私は案内人です」
女の人は柔らかな笑顔でそれだけ言うと、私を見つめるだけだった。