5話:村への来訪者
ヴォルブ達が村で働き始めて、1週間が過ぎた頃、村に4人の来訪者が現れた。一人は背中に大きな剣を携えた20代後半の生意気そうな金髪の男だ。男は何かの鱗で出来た全身を包む鎧を身に纏っている。その大男の後ろには白いローブを頭から被った女と性別は分からないがフルプレートを着こんだ者が歩いてくる。更にその後ろから、とんがり帽子を被り、黒いローブを着ている黒髪ロングヘアーの女が歩いてくる。
入り口で門番をしていたヴォルブとヴォルブの部下であるカイナが、その姿を確認する。見た所、冒険者と言われる者達だ。彼らはギルドと言われる場所で、民間人、町、国から依頼されるクエストを受注し、時には魔物を討伐し、時には素材を集めたりといった仕事をしている。
しかし、彼らがこんな辺鄙な場所に来るのには違和感がある。ここの村の付近には別段、いい素材がある訳でも無く、政治的な動きがある訳でも無い。今まで冒険者が来る事は殆ど無かった。故に、ヴォルブ達はこの冒険者達を警戒していた。
冒険者は時に盗賊の真似ごとをするような者が居るからである。難癖を付けて、田舎の村人を暴力で黙らせて金品を奪うと言った風に。
冒険者達が門まで、近づいた時、ヴォルブは声を掛ける。
「待て、すまないがこの村に何の用か聞かせてくれ」
「あぁ? なんだおっさん! 仕事に決まってるだろ」
大剣を携えた男が嫌そうに返事をする。
「見た所、冒険者のようだが、この村の近くには特に目立った魔物は居ないはずだが?」
ヴォルブが、そう冒険者達に尋ねると、白いローブを着た女がフードを外し返事をする。今までよく顔は確認できなかったがヴォルブは30歳くらいの女性であると確認が出来た。茶髪のショートヘアーでヴォルブは、うーん悪くない……と心の中で呟く。
「この辺りに、巨大なヘビの様な魔物が逃げてきたはずなんだけど……この辺りで見てないかしら?私達はそれを追ってココまで来たんだけど」
「あー、それだったら、もう居ないぞ」
「なんですって」
「ほら、村の中央を見てみろ」
ヴォルブは村の中央を指さした。そこにはアースニードルスネークから剥ぎ取られた、肉以外の素材が山積みとなっていた。ちなみに、アースニードルスネークの肉は全て保存食として干物に加工され、村の倉庫で保管されている。
「うちの村にいる者が、村に被害が出る前に倒したんだ。来るのが一足遅かったみたいだな」
「チッ、先を越されたか……こんな田舎まで来てお目当ての魔物は既に討伐されてますってか! ふざけんじゃねえよ」
大剣を持った男がヴォルブの返事を聞いて、そう毒づく。お目当ての者はすぐ目の前にあるのに、手が出せない。その歯がゆさが男を更にイラつかせる。
「モー、怒らないでよアレク。この村の村長に譲ってもらえるようにお願いすればいいじゃない。ケミーとサイラスもそれでいいわね」
白いローブの女は、大剣の男であるアレク、とんがり帽子のケミー、フルプレートのサイラスに視線を向けて同意を求める。
「セーラ、お前がそう言うなら、仕方ないな……」
アレクは白いローブの女のセーラの意見を渋々承諾した。その姿をみてヴォルブは、内心ほっとした。略奪をして強引に奪ってくるような事が無かったからだ。過去に騎士をやっていて、そんな冒険者を何人も見てきたからだ。
ヴォルブは話が纏まったようなのでセーラと呼ばれる女に声を掛ける。
「話は纏まったようだな。それでは村長の元に案内するので、代表者を一人決めてくれ」
「私が行くわ。でも……他の皆は村の外で待機なんてひどい事は言わないよね」
「勿論、歓迎する。何も無い村だが、食堂が一軒あるので、そこで待機すると良い。おい、カイナ案内してやれ」
ヴォルブは横で待機していたカイナに指示を出し、残りの3人を村の食堂へ案内させる。カイナは「了解しました」と言い3人を引き連れていく。
アレクは「飯が不味かったらタダじゃおかない」と不穏な事を言っていたが、ここまで来て交渉を破綻させるほど馬鹿では無いだろうとヴォルブは考え、後はカイナに任せることにする。
カイナが3人を連れて行く姿を確認した後、ヴォルブはセーラを連れて村長の家へと向かう。村長の家に着くと、村長は椅子に腰を掛け、素材の買い取りを行ってくれそうなギルド、商店を選んでいた。
「どちら様かな?」
村長はセーラを見てそう問いかける。
「初めまして、私は冒険者のセーラ、村長さんにご相談がありまして。率直に言いますと外にあるアースニードルスネークの魔石が欲しいの」
セーラの言う魔石とは魔物の核を成す者であり、魔物が使う魔法の魔力源でもある。この魔石は魔物固有の魔力を持っており、冒険者が討伐を行ったという証明によく使われている。
「ほぅ、討伐以来を受けたと言う事ですかな?」
「ええ、お話しが早くて助かりますわ」
「ふむ……売る事は自体は構わんが。セーラさんとやらはいくら出せるのじゃ?」
村長のその言葉を聞いたセーラはクエスト内容を記載した羊皮紙を取り出した。中に報酬の値段が書かれている。彼女は報酬の値段を村長に見せ、自らが損をしないギリギリのラインを提示した。
村長はその値段を見て、少し考える。自分の儲けを明かして、妥協点を探る姿勢を見て村長は彼女に返答する。
「ふむ、それの値段でいいじゃろ」
「ありがとうございます。助かりましたわ。ではお金は一度、町に戻らないとありませんので、もう一度、出直して来ますわ」
「わかった。お金を持ってくるまでは、これは残しておこう」
そう言って、魔石をセーラへと見せ、物がしっかりある事を見せる。そして村長とセーラの交渉は終わった。ヴォルブはその姿を見てホッ肩をなで下ろす。村長は、羊皮紙に契約内容を書き込んだ。セーラはその契約書を確認して、村長に礼を述べ仲間の元へと向かって行った。
「ふぅ、何事も無くて良かったですね。村長……」
「そうじゃの……それよりよいのか?」
「はっ? 何がでしょうか?」
「あのセーラとか言う娘、仲間がどこにいるか分かっておるのかのぉ」
「あー!」
ヴォルブは慌てて、かっこつけて外に出てオロオロしているセーラを追いかけるのであった。




