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34話:氷上での戦い

「ウィズよ。大きい敵は初めてかのぉ? 妾の後ろに隠れてもよいぞ」

「何言ってんだシャル、長く生きすぎてボケたのか? こんな魚風情に俺が負ける訳ないだろ」

「ボケたとはないんじゃ! 妾の見た目はピッチピチじゃろうが」

「ピッチピチとか言ってんじゃねえよ」


 シャルロットはまるでウィズを揶揄(からか)う様に声をかける。数々の修羅場を超え来た彼女が出来る気遣いだった。なぜ、そんな事をするか? それはそうだろう、ウィズの目の前にはまるで壁の様にそびえ立つリヴァイアサンの体があるのだから。氷漬けにされなかった上半身の部分だけでも80mほどの大きさである。全長を考えただけで恐ろしくなってくる光景だ。ウィズはそんなリヴァイアサンを見上げながらシャルロットの軽口を返す。その表情に焦りの感情は一切無かった。今まで戦い続けて来たウィズにとって強敵は今に始まった事じゃない。それに今はシャルロットもいる……それが自分ならやれると言う自身へと繋がっていったのであった。


 ウィズは剣を引き抜き、丁度遅れて渡ってきたジョーイとエリーに声を掛ける。


「どうだエリー、同じ魚類として誰が一番強いか分からしてやれるか?」


 その言葉にエリーの瞳は鋭くなる。その視線は理性も無い魔物に負けるはずが無いだろうと語りかけてくるようだ。


「エリーは、当然と言ってるよ。まあ海で僕達が負ける訳にはいかないよ。ねーエリー」


 ジョーイはエリーにぎゅっと抱き着いた。そのベタベタした態度にエリーは離せ! と言わんばかりにもがいている。そんな事をしている姿を見た後続の冒険者は、さっさと戦えと視線を送る。


「さてやりますか。行くよエリー」


 ジョーイはエリーを連れてリヴァイアサンの元へと駈けていく。


「ウィズ、我らもあやつらにつづくぞ」


 シャルロットを引き連れてウィズもまたリヴァイアサンの体へと近づく。リヴァイアサンの体の辺りには冒険者は既に戦闘を開始している。


ウィズの視線の先には冒険者達が必至の形相で戦いを繰り広げていた。それもそうだろう、見上げるほどの大きさの魔物だ。体重に物を言わせた攻撃は当たれば一撃必殺だ。

 リヴァイアサンは胴体から出ている2枚の羽根のようなヒレを器用に動かし、冒険者達を薙ぎ払う。その一振りはまるで天災と思われるような一撃だ。氷の地面はそのヒレによって抉られていく。そうする事によって周りの冒険者を薙ぎ払い、自分の周りの氷を砕き脱出を図っているのだ。

 冒険者達もその動きは察知している。しかし圧倒的質量で繰り出されるヒレの攻撃は冒険者達の動きを阻害する。攻撃する度に竜巻でも発生したかのような風が吹き荒れる。そんな攻撃に翻弄されつつも冒険者は攻撃の手を緩めない。自らが吹き飛ばされながらも魔法を唱えている。そしてウィズもまたその攻撃に参加する。


「シャル! 行くぞ」

「ふむ、遅れるでないぞ」


シャルロットは相変わらずのマイペースで両手に持ち、先に行くぞとウィズを置き去りにして走りだす。ウィズは彼女に後れを取らないようアイスブランドを引き抜き、戦っている冒険者達の合間を縫うようにリヴァイアサンに向かい駈けて行く。

 接敵する前に海洋を専門に扱っている冒険者のカイトがウィズの視線に入る。カイトは巨大な弓を持ちリヴァイアサンをけん制していた。さすが海で活躍してきた猛者だ! リヴァイアサンの攻撃を回避しながら冷静に反撃をしている。だが火力はあまり無いようだ……ダメージ負っているようには見えない。


 ウィズはその姿を見て一つの事を思いつく


「カイトさん、いいですか?」

「どうした。今悠長に声を掛ける余裕はないんだがな!」

「矢を階段状に打ち込んで貰えますか?」

「お前まさか……足場にするつもりか! 俺の腕では、それほど綺麗には出来ないぞ。それでもいいか?」

「頼みます」


 ウィズはカイトにそう伝えると再びリヴァイアサンへと駈けだす。その姿をみたカイトは、普段の矢よりも丈夫で太い鉄の矢を構え、つぶやく


「まったく……無茶苦茶なガキだぜ。まぁ無茶を聞いてやるのも大人の余裕って奴だな!」


 そう言って矢を次々とリヴァイアサンに向かって放つ明確な目的を持って……


 先行したシャルロットは巨大な2本の剣を振り回しリヴァイアサンの体を傷つけていた。だがリヴァイアサンの巨大な体に対して小さな傷だ。致命傷には程遠い攻撃だ。返り血を浴びながらもシャルロットは攻撃を続ける。そんなシャルロットの横からリヴァイアサンのヒレが轟音を立てて近づいている。


「シャル! 右だ!」

「言われんでも分かっておるわ!」


 シャルロットは攻撃に逆らわずヒレと並走し、二本の剣を突き刺す。そのままヒレと共に遥か上空へと行ってしまった……


「先に上へ行かれたか。さて……俺も行きますか」


 リヴァイアサンの体に次々と刺さる矢を踏み台にし、着実に頭へと近づいていく。踏み台と言っても矢を足場にしているだけだ、力加減と着地を失敗するとそのまま地表へと叩きつけられる事になる。ウィズは神経を研ぎ澄まし頭を目指して足場から足場へと飛び続ける。


「さすが歴戦の冒険者だ。階段を作るくらいは朝飯前か……」


 ウィズがそんな事を言いいながら視線を僅かに上へと移すと、シャルロットの姿がそこにあった。二本の大剣を交互に突き刺し腕力だけでヒレの根元へと歩みを進めている。シャルロットの生死を確認できたウィズは少し、肩をなで下ろした……


 しかし、リヴァイアサンもただ見ているだけでは無い。もう一頭のリヴァイアサンがシャルロットをジッと目視すると、大きく息を吸う。それはまるでドラゴンがブレスを吐く前の光景だった。


「シャル! 後ろだぁ!」


 シャルロットは後ろに視線を向けると思わず目を見開く。何かが起こる、だが突然のことだ咄嗟に防御の為の魔法を放つ事も出来ない。


 リヴァイアサンの口からは圧倒的質量と密度の水が吐き出され、シャルの元へと一直線に進んでいく。押し寄せる水は全てを飲み込み洗い流そうとする。2匹の距離は500mほど離れていたが、シャルロットの所へと押し寄せるのは時間の問題である。


 シャルロットが全てを諦めた表情を浮かべるが、そこへ一匹の金魚がふわふわと近づいてくる。まるでここは俺の任せろと言わんばかりだ。よく見るとエリーにジョーイはしがみ付いてついて来ている。足をプラプラしながら、落ちそうな状況であるが……


「ぼ…僕たちに任せてくれ、ちょっとエリー動かないで、落ちる…落ちちゃうよ」

「はぁ、ここにいるだけでも大丈夫そうにはみえんがのぉ?」


 シャルロットは、一息ため息をつくが、彼らの登場でどこか恐怖心が吹き飛んでいた。


「行くよ、エリー! 水の流れよ、我が意思に従え! ウォーターオリビット!」


 ジョーイが唱えると、エリーは青い光に包まれる。すると、エリーの方に向かってきた水流は明後日の方向に軌道が逸れてしまう。シャルロットの遥か横を流れていく


「水流は僕に任せて!」

「頼んだぞ、ジョーイ、エリー」

「ここは自分に任せて、先に行けとエリーも言ってるよ」

「それでは妾も仕事をするかのぉ」


 軌道が逸れたそのタイミングを合わせたかの様にリヴァイアサンのヒレは地面と水平になった。シャルロットは好機とみて剣を引き抜きヒレの上を走り出した。シャルロットの動きは徐々に早くなり、あっと言う間にヒレの根元まで到達した。


「お主の、片腕を貰ってゆくぞ」


 そう言ってシャルロットは二本の剣で交互に何度も切り刻む。まるで穴でも掘る様にリヴァイアサンのヒレを何度も切り刻み徐々に奥へと進んでいく。


「痛かろう。だが妾の攻撃はまだまだ続くぞ」


 シャルロットは返り血を一身に浴びながらも、どんどん切り進む。どうやらヒレの根元は他の部位よりも柔らかいようだった。シャルロットはそれを狙って、こんな無茶をしたのだ。直感もあったが、ヒレの根元は海を泳ぐ上で柔軟でなければならない、故に固く堅牢であったならばまともに動かないなろうそう考えての行動だ。


 薄ら笑みを浮かべながらシャルロットはどんどん掘り進め、そしてそのまま突き抜けてしまう。そしてリヴァイアサンの持つ巨大なヒレは根元から切断され真下へと、重力に従って落下する。



「ヒレが落ちるぞ! 退避ぃ!」


 号令と共に、巨大なヒレの落下に巻き込まれないよう冒険者達は散開する。落下の衝撃は相当なものになるだろう……誰もがそう思い我先にと非難した。逃げる冒険者達の頭上からリヴァイアサンの悲痛な鳴き声が辺り一面に響き渡り、轟音と共にその大きなヒレは地面へと落下する。切り口からは(おびただ)しいまでの血が噴き出し。青い氷は一瞬にして血の雨によって赤く染め上げられた。


 冒険者達から口々に歓声があがり、指揮は否応なく上がり続ける。今だ死者が0だと言う事が彼らの自身へと繋がっていった。


 だが戦いはまだ始まったばかりだ。ウィズは歓声が下から響き渡るのを聞きながら、矢の足場を使って走り続けていた。シャルロットとジョーイ、エリーが活躍する裏でウィズは後少しで頭部と言う所まで来ていた。


「あいつらばっかに良い所を取られる訳にはいかねぇよ」


 ウィズはあと4回飛べばいける場所にあるリヴァイアサンの頭上を見上げながら、一人そう呟くのであった……

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