33話:リヴァイアサンへの道
「マリーン船長! 魔物用の餌を海に投げ入れた所、2匹のリヴァイアサンを確認しました。どうやらツガイのようです。最悪の場所を通ったみたいですね」
甲板へと到着した船長に船員の1人が声を荒げて伝える。その言葉を聞いた船長の眼前には、ウィズを始めとして12人もの冒険者が、指示を頼むと言わんばかりに待機していた。皆、伊達に冒険者はやってないと言った自身に満ち溢れた表情をしている。
船長は一度全員を見回し、ゆっくりと口を開く。
「良く集まってくれた冒険者諸君! 今、船の後方には2匹リヴァイアサンがこちらを狙っている状況だ。まだ始まってもいないが、はっきり言って非常に戦況は良くない。リヴァイアサンは海に住まう魔物の中では上位に位置する存在だ。そんな魔物2匹がこの船を虎視眈々と狙っている。我々はどう足掻いても絶望だ。だが俺達はこのちっぽけな船に乗る人たちを守らなければならない。そうだろ?」
船長の冒険者達に問いかけたその言葉に口々に反応する。
「やってやろうじゃねぇか! こんな所で負ける俺たちじゃねえ! そうだろ皆!」
「そうだ、たかが魚に俺たちが負ける訳がねぇ。なぁ船長!」
「そうだ、俺たちは勝たねばならないのだ。シーラ、カイト、マーレ前に出てきてくれ」
3人の男が船長の横まで歩いていく。一人は大きなイカリを持っており、もう一人は弓を持っている。そして最後の一人は巨大な槍を持っている。彼らは皆、上半身裸のスタイルだった。
「彼らは我々が雇った、海洋の魔物を専門に扱う冒険者だ! 彼らの知識が君たちの助けになると私は信じている。さて、それでは具体的な作戦を説明する。まず我々が用意した魔物用の餌を君たちに遠くまで放り投げて貰う。それに釣られて2体のリヴァイアサンが顔を出した時がチャンスだ! その後は君たちのやり方に任せる! 続きはマーレ、頼む」
槍を持つマーレは一歩前へと出て口を開く
「任せろ! 続きの作戦は俺が話す。まずはこのシーラが全魔力を持って海ごとリヴァイアサンを凍らせる。だがこの魔法ではリヴァイアサンを倒すことは出来ないだろう。そこで俺たちの出番だ。氷の地面に縛りつけられたリヴァイアサンを俺たちが乗り込んで叩く!」
一人の冒険者が口を開く。
「おぃ、俺たちはあんな所までいけねえぞ」
マーレはニヤリとは笑みを浮かべる。
「そこは俺に任せろ。俺のこの槍にワイヤーを括って投げつける。お前らはその上を走れば良い。俺の見立てでは、動きを封じるのは30分間が限界だと思う。だからこそお前たちはそのチャンスを絶対にものにするんだ。さぁ作戦開始だ!」
冒険者は魔物の餌を海に4つほど投擲する。4キロほどあるこの餌は魔物の好む匂いを放ちながら水面に浮かび続けている。冒険者全員の視線はその餌に向けられる。数分後、海の中に巨大な影が浮かび上がる。その様子を見て自然と武器を持つ手に力が入り、握りしめられた手の平からは大量の汗が流れ出る。
「くるぞ、シーラ!」
マーレはシーラに詠唱の合図をする。
「氷の精よ。氷河を生み出し全てを凍らせよ! グラシアスウインド」
シーラが魔法を唱えた瞬間、シーラが被っていた帽子から、小さな雪だるまの様な精霊が飛び出し、その小さな口から氷塊はゆっくりとそして確実にその影に向けて飛び出す。
マーレの指示は的確だったようで、氷塊が着弾した瞬間、2匹のリヴァイアサンが水面から飛び出す。氷塊はリヴァイサン近くの水面に次々と着水していく。水面から飛び出した部分を残し、リヴァイアサンの下半身は海面ごと氷漬けとなる。その姿を見たマーレはまるでやり投げの要領で自らの持つ巨大な槍を海面に出来た氷の地面へと投げつける。
その巨大な筋肉から投擲される槍はけたたましい轟音を響かせながら、マーレの元から飛びたつ。槍は着弾し、そして船と氷漬けの海は一本の太いワイヤーで繋がった。
「おめえらぁ! 道は繋がった。さぁ乗り込め!」
一人、また一人と雄叫びを上げながら、そのワイヤーの上を走りだした……