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19話:シャルロットとピクニック

「姫様ー! 何して遊ぶ?」


 口々に子供たちはシャルロットに何をするか尋ねる。シャルの内心では何も考えておらんのか、と突っ込みを入れていた。仕方なく、シャルロットは町の外にピクニックに行くことにした。村付近には弱い魔物も出るが、子供達を守りながら戦うなどシャルロットにとって造作もない事である。先の冒険者討伐の折に実力は嫌と言うほど見せつけたので、村人からの信頼は厚く、外出許可は造作も無くでるであろうと確信している。


「お主ら、あの丘までピクニックにいくのじゃ。妾は準備をしに行くゆえ、お主らはそこで待っておれ」

「やったー! 村の外にピクニックだぁぁ」

「姫様とお出かけだー」


 6人いる子供たちに広場でシャルロットの帰りを待つよう言い聞かせ。シャルロットはお昼に食べるサンドイッチを用意した。魔物の肉をパンで挟んだだけの簡素な物であるが、おそらく村の外で食べる食事とあって子供たちも喜ぶであろう。そう思いながらシャルロットは料理に励むのであった。


 今まで誰かに料理を振る舞うなんて事はほとんど無かったシャルロットであるが、この村で数日過ごした事が良い影響を与えた事により、性格が少し丸くなったようだ。子供たちの笑顔を見たく、シャルロットは鼻歌交じりにサンドイッチを作り終わると、子供たちの待つ広場へと駆けつける。


「待ったかのぉ、妾は準備出来たのじゃ」

「じゃーいこー」

「しゅっぱぁぁつ!」


 子供たちはシャルロットの手を引き、村の外に向かって歩き出す。シャルロットは昼食の入った籠を左手に下げている。恰好はいつもの白いドレスでは無く、茶色のズボンと白いシャツ一枚である。万が一魔物が襲って来た時の為に腰には一本の剣が刺さっている。この剣は普段使っている大剣とは違い、刃の長さはそれほど長くは無い剣だ。これもまたエレメントガーデンから持ってきたそれなりの剣である。


 子供達を預かった限りは、責任を持って家へと帰す、シャルロットがこれほど入念に準備を行うのはそれがある為だ。


「あっ、シャルロットさん、子供達のお相手お疲れ様です。外へお出かけですか?」


 丁度門を警護していたカイナがシャルロットに声を掛ける。


「うむ、これからあの丘の方までピクニックじゃ」

「シャルロットさんだけだと大変でしょう。うちから人をよこしましょうか?」

「それはありがたいのじゃ」

「そうですね。道通りに行かれると思いますので、後から追いかけさせます」

「助かるのじゃ、では妾達は先にいく」


 カイナは子供達に手を振った後、村の中へと入り誰かを呼びに行った。それを見届けたシャルロットは子供達を連れて目的の丘を目指す。それほど距離がある場所じゃない到着は村を出てすぐの場所だ。


 子供たちはちょっとした冒険気分を味わいながら、シャルロットの前をトコトコと歩く。道は険しい物でも無く、転ぶ子供すらいない。途中、女の子は道端に咲く花を摘んだりしてキャッキャと喜ぶ。その姿を見てシャルロットは連れてきて良かったと一人思う。


「姫様! アレ何?」

「むっ……」


 シャルロットの隣を歩くカレンと言う少女は何かを指さし、こう告げる。彼女の指の先には草むらがあり、ガサガサと音を鳴らしている。草と草の間から、小鳥が現れる。その小鳥はどこか普通の動物とは違うと感じさせるものがあった。


「こやつは……精霊じゃな。魔力を持っておるし、魔物でもないようじゃし間違いない」

「そーなんだー。小鳥さん、おいで」


 カレンが小鳥のそう話しかけると、まるで言語が分かっているかのように、その小鳥はカレンの肩へと飛び乗った。他の子どもたちは「おー!」や「村の外すげえー」と口々に声を発する。小鳥は子供達全員に凝視され、怯えてカレンの服の中へと隠れる。カレンはおーよしよしと優しい言葉を小鳥へとかける。カレンも満更では無いようだ。


「ほら、いつまでもここでゆっくりしてたら丘までつかんぞ。さっさと行くのじゃ」

「はーい」

 

 子供たちはカレンの小鳥に構うのをやめて、列を作り歩き始めた。そして服の中に隠れた小鳥は服から這い出し、カレンの頭の上にちょこんと待機している。どうやら、彼女の頭の上が一番居心地が良いらしい。チュンチュンと時折鳴き声を出しているがそれがまた愛らしさを増しているようだ。


 その姿を見て気分が高揚したのだろうか、子供たちが歌を歌い始めた。その歌声につられて色々な精霊が次々と集まって来る。どうやらこの村の付近にいる精霊は人間に対して嫌悪感が無いようだ。トカゲのような精霊からグリフォンの様なものまで多種多様であった。さすがのシャルロットもグリフォンが来た時は危機感を感じて、剣を引き抜く。


「何やら、面白そうな事をやっているな。どれ我が護衛してやろう」


 グリフォンが子供達に向けて突然喋りだす。子供たちはその巨大なワシの様な生物が現れた事によりガタガタと震えだした。そして小動物の形を成している精霊もまた怯えている。グリフォンは本来は魔物であり人や動物を襲って食べる存在であるからだ。だがその魔物が言葉を使っている。これは珍しいなんてものではない。


「お主、しゃべれるのか?」

「むっ、そちも精霊か。安心しろ我はグリフォンだが魔物ではない。元々魔物であったが長い年月を得て精霊となったのだ」

「敵意は無いようじゃな」

「さっきも我が言ったであろう。我は暇なのだ。何やら楽しい事をしていたら行くしかないであろう」


 グリフォンのくちばしが僅かに開く。まるで笑っているようだ。向こうも機嫌が良さそうに近づいてきて襲う気配すらないのでシャルロットは一緒に来ることを許可した。


「やはり田舎の子供は良いの……我はしばらく町の近くにおったが、貴族と呼ばれる奴らが威張りおってと感じが悪かった。その点ここの子供達は違う、やましい感情無く我に接してくれる」

「妾はその貴族とやらは知らぬのじゃが……まあ妾を慕ってくれるいい子たちじゃよ」

「そちにはどこか人を引き付ける才能があるのやもしれんぞ」


 グリフォンとそんな他愛の無い会話をしながら歩いていると、あっという間に目的の丘にたどり着く。そこは、綺麗な花が咲き誇り、曲がりくねった小川がある。鳥や虫たちの音が僅かに聞こえ落ち着いた空間が広がっていた。平らな場所を見つけたシャルロットは大きな布を広げて、そこに子供達を集める。


「ほれ、お主ら飯じゃぞ」

「「わーい」」


 子供達は布の上に座り始める。一人2つずつサンドイッチを持って行く。一つは自分で食べる用、そしてもう一つは付いてきた精霊に食べさせる。子供達は各々の周りに集まった精霊達にサンドイッチを千切って食べさせている。


 そんな中、一人のザンバと呼ばれる男の子がグリフォンの方へとサンドイッチを持って近づいて行く。ザンバがグリフォンの口にサンドイッチを近づけていくと、グリフォンは器用にザンバの手を傷つけないようパクリと一口で平らげる。


「美味であったぞ」


 グリフォンがそう言うとザンバはにっこりと笑って他の子供達の元へと走って行った。


「そこの護衛をしている精霊よ。我は今まで戦いに明け暮れてばかりであったが、このような落ち着いた時も良いな」

「そうじゃな、妾もそう思うぞ。あと妾の事はシャルロットと呼んでよいぞ」

「そうだ。子供の頃から精霊として契約して我好みに導けば良いのでは無いか!」

「ほぅ、面白い事をいうのぉ」

「丁度、一人で旅ばかりしてつまらなかった所だ。気晴らしに人間と契約するのも一興よ」

「どうやら他の精霊も暇を持て余しているようじゃし、妾にいい考えがあるぞ」


 そういってシャルロットがグリフォンにニヤリと笑みを浮かべた時、丁度村の衛兵が子供達の護衛の手伝いに来た。


「おーい、シャルロットさーーーーん」


 ぽっちゃりと太ったグロウスと呼ばれる衛兵が、ピチピチサイズの鎧を着てドシドシと走って来た。その体系には子供でも余裕で登って来たこの山道がこたえたみたいであり、体中に汗をかいている。そしてシャルロットから視線を少し外したグロウスは目玉が飛び出るほど驚く事になる。


「グ……グリフォンだぁぁぁ。子供達、速く逃げるんだ!」

「やれやれ、何度同じ事をせねばならんのだ」


 グロウスの対応を見て、グリフォンは深いため息を付く。自分の見てくれを分かっているグリフォンだからこそ、やるせない気持ちになる。


「グロウス殿、このグリフォンは敵意が無いようなのじゃ。妾が保証しよう」

「ほ……本当ですか?」

「本当じゃ、子供達の護衛を買って出たくらいじゃ。それにあ奴が襲う気ならこんな所でのんびり昼を食べている訳なかろう」

「そ……そうですね」

「ではグロウス殿、少しやりたい事があるので村長に話を通して欲しい事があるのじゃ」

「えっ? 俺今登って来たばっかりなんですけど」

「ほれこれをやるから言って来るのじゃ」

「そ……そんなぁ。今日非番なのにあんまりだ」


 シャルロットはサンドイッチをグロウスに手渡し、村で準備をして欲しい事を伝えて、村に帰るように指示をしたのであった。丘から帰るグロウスの姿は哀愁漂うものであった。


 昼食を食べ終えた子供達は満足といった表情をしている。そして一緒に食事をしていた精霊達も満足と言わんばかりに動き回っている。


 そして、しばらく近くにある小川で遊び、村へと帰る事にした。当然のように精霊達は村まで付いて来る。そして子供達も自分の好きな精霊と離れようとはしない。


 そのまま村の入り口へと皆が向かうと村長が入り口で待っていた。


「本当にグリフォンが大人しく付いてきておるのぉ。それを見て安心したわい」

「妾の案はどうやら通ったようじゃな。感謝するぞ村長」

「気にせんでもよいぞ。村が活気づきそうでなによりじゃ」


 村長はそう言って、自分の家へと向かって歩いていったのであった。その姿を見送ったシャルロットは子供達と精霊を集めて村の中心へと向かうのであった。


 



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