17話:冒険者との戦い
「おっさん! 折角てめぇの為によく分からん草取ってきてやったのにひでえ事しやがるな」
「楽しい冒険だっただろう。感謝しろよ。そのまま帰って来なければ良かったものを」
「最初から騙すつもりだったんだな。その落とし前はここできっちりとつけてやるぜ!」
「かかってこい! ガキが!」
ウィズはアレクに向けて剣を構えながら走り出す。アイスブランドを抜いた時から周囲には雪の結晶のような物が舞い散る。これは剣の特性上仕方のない事ではあるが、ウィズに取って視界を僅かに奪う為にやや煩わしいものであったが、それは敵にとっても同じ事である。
「クッ、小賢しい! 下らん手を使いやがって。おいお前らさっさとクソジジイどもを抑え込め」
アレクはウィズの振り下ろした剣を両手で持った大剣で受け止める。剣と剣が交じり合った瞬間に、異変が起こる。ウィズの剣が触れた場所から大剣を覆う形で氷の塊が形成されていく。アレクは剣をそのまま力任せに振りきろうとしたが、ぴくりとも動かない。
「この前の遊びとは違えぞ。手加減も様子見も無しだ!」
ウィズはアレクの剣を力で抑え込みながらそう言葉を放つ。エレメントガーデンで過ごした日々がウィズを強くさせた事もあり、今のアレクでは歯が立たない状況だ。この短期間でこいつに何があった? アレクの脳裏に僅かに敗北の二文字が出て来る。だがこの前とは違うこっちは4人。戦力外のお荷物を2人抱えての戦いだ。数的優位は俺達にある。そしてアレクは弓を使ってジョーイをけん制しているケミーに声を飛ばす。
「ケミー!」
「こっちも忙しいのに、面倒な事いわないでよぉ!」
アレクに声を掛けられたケミーは、嫌々ながらウィズに向かって連続3本の矢を放つ。矢は、アレクの体が邪魔になってウィズから視認する事は出来ないように放たれた。風を切り飛び出した矢は、弧を描くように飛びウィズの元へと飛来する。
「チッ、シャドーウォーク!」
ウィズの体は黒い霧のようなものに包まれる。そして霧の中を矢はむなしく通り抜ける。そして今までウィズが持っていたアイスブランドはポトリと地面へと落ちる。その霧はそのまま、アレクの後ろに移動する。
「なんだそれは、くそが!」
アレクは自分の大剣を背後まで回転切りの要領で振り切ろうとする。が、背後に実体化したウィズはそのまま体当たりをしてアレクを吹き飛ばす。アレクはその突然の衝撃に耐える事は出来なく、前方へと吹き飛ばされる。
「はぁはぁ、俺の魔力でも消費がやべえな」
ウィズは肩で息をしながら剣を拾い、誰かに向かって話しかけている。だがそこには誰もいない。ウィズは倒れたアレクは放置し、3人を相手取るジョーイの元へと駆けつける。ケミーから何度も矢が飛んでくるが、ウィズは全て剣で撃ち落とす。
「あーもう、何なのあいつ。どんどん近づいて来るー」
ウィズが近づくにつれてケミーに焦りが見え、そしてウィズが目の前にまで近づく。体中から大量の汗が出る。死への恐怖が一瞬よぎる。
「ケミィィィィ!」
ケミーに突きを放とうとしていたウィズに背後からアレクが斬撃を放とうとしていた。その声で背後にアレクがいる事に気付いたウィズは左側に転がり、斬撃を躱す。アレクの剣は空を切り地面に小さな穴を作った。土埃が舞い散りウィズの視界は奪われて、距離を離すしかなった。
土埃が晴れた直後、ケミーから3本の矢が連続して放たれる。そして更に次々と矢が放たれる。弾幕を張りウィズの動きを阻害する。アレクは矢の射線を遮らないように動きながらウィズへと近づく。
ウィズは矢を撃ち落としながら、アレクの動きに気を配る。そしてアレクとケミーが一直線になる場所に位置取り、懐から一本のナイフを取り出す。ケミーが矢を手に取るタイミングを見計らってケミーに向けてナイフを投げつける。
ケミーからは死角となり、彼女はナイフの存在に気付くことはが出来なった。
「ケミー、ナイフだ! 躱せ!」
「えっ? えっ? 何、何!」
アレクの声に反応は出来たが、矢に視線がいっていたケミーはナイフを躱す事は出来なかった。ウィズの放ったナイフはケミーの肩に突き刺さる。そして激痛からケミーの悲鳴が辺りに響き渡る。
「ケミー、大丈夫か?」
「だ……大丈夫に見える?」
ケミーに気を取られたアレクは、ウィズの剣から放たれる突きに反応が遅れてしまう。その一瞬の油断が勝負を決定付けてしまう。ウィズの剣は右足の太ももに深く刺さり、アレクは痛みで立っていられなくなる。そして右足ががくんと曲がりそのまま片膝をつく。
ウィズはアレクの前に立ち、剣を構える。
「そこまで、ですわよ」
ジョーイの首にはサイラスにより剣を添えられている。魔力の尽きたジョーイはもはや立ち上がる事が出来ない。ヴォルブ、村長は行動出来ないよう足の健から血が流れ出る。そしてエリーは多数の切り傷が刻み込まれている。とてもでは無いが、その状況から逃げ出す事は出来ない。
「分かってますわよね。武器を捨てて下さいませ」
「遅せえぞ。やばい所だったぜ」
ウィズは諦めたような表情で武器を地面に放り投げる。武器を手放した事を確認したアレクは今までの恨みと言わんばかりにウィズを思いっきり殴り飛ばす。
ウィズは吹き飛ばされ、そのまま大の字になり仰向けに倒れる。絶体絶命の状況でありながら、何故かは分からないウィズの顔には余裕があった。笑みを浮かべるほどである。
「何がおかしい! てめえはもう殺されるってのに?」
「俺が殺される? それはあっちを見ても同じ事が言えるのか?」
ウィズはジョーイの方へと指を刺した。すると、ジョーイの首元に剣を突きたてているサイラスの後ろに黒いガスのような物が漂っている。そしてそのガスはゆっくりと人の形を取っていき、一人の少女が現れる。
その少女はサイラスの腕を掴み、ジョーイに向いている剣を力任せに動かす。
サイラスは少女の腕を離そうともがくが、手の自由が戻る事は無かった。この少女に力で圧倒的に敗北しているという事実に焦りを感じる。
「あら? サイラスさん、そんな小娘やって下さいまし」
「……無理だ。勝てない」
サイラスのその言葉を聞いてセーラは即座に魔法の詠唱に入る。
しかし少女、いやシャルロットはそんな時を与えない。重さ30kgもあるフルプレートを着込んだサイラスを軽々と持ち上げ、セーラの元へ投げつける。30kgの鉄の塊がいきなり飛んでくると言う今まで経験した事ないセーラは即座に防御魔法を展開しようとするが間に合わない。サイラスとセーラは重なるように倒れ込む。
シャルロットはそのままセーラを引きずり出し、彼女の首を片腕で掴み持ち上げる。そして一言……
「死ぬがよい!」
シャルロットが手に力を入れるその直前、
「殺すな!」
ウィズは今更かもしれないが自分の目の前でシャルロットに殺人をして欲しくない。そんな思いから声が出る。
「良いのか? 死なねばよいのであれば……ブラストアーキア」
シャルロットはセーラをサイラスのいる場所へ投げ込み、そう魔法を唱える。地面から紫色のガス吹き出し、サイラス、セーラを包み込む。そのガスを吸い込んだセーラ、サイラスは息苦しくなり、悶え苦しみ始める。地面をゴロゴロと転げ周り悲惨な状況である。
「どうじゃ、妾の魔法は。そのガスは肺に侵入し、そこで菌を増殖させ、お主らの呼吸を阻害する魔法じゃ。苦しいか? 苦しいじゃろ。そこにおる精霊を傷つけた罪をそうやって償うがよい」
「サイラス、セーラ! くそっケミー逃げろ!」
「わかったよ! 死なないでねアレク」
ケミーは肩の傷口を抑えながら村の外に向かって走りだす。傷を癒してアレクを達を助け出す為だ、見捨てる訳ではないと心に思いながら……
「妾が逃がす訳がなかろう、ブラックスフィア!」
シャルロットの掌から黒い球体が、ケミーに向かって真っすぐと射出される。彼女の背に直撃し、何mもの距離を吹き飛ばされる。あまりの衝撃にケミーは一瞬気を失ってしまう。
ケミーが気が付いたら、自らの片足をシャルロットにがっちりと掴まれている。
「さて、これで仕上げじゃ」
そのまま、まるでゴミを投げるかのように、アレクの元へケミーを投げつける。アレクは彼女を両腕で受け止め、着弾時の衝撃を和らげた。
「クソッ……」
アレクが悪態をついた瞬間、地面から紫色の煙が吹き上がり。二人も息が出来ず悶え苦しむ。ケミーは地面をゴロゴロ転がりながら、首を掻き毟る。
シャルロットは二人の足首を強引に掴み、サイラス、セーラの元へと引きずっていく。4人を固めた所でシャルロットは悶え苦しむ4人の前に一つの小瓶を置く。その小瓶の中には透明の液体が入っている。
「お主ら良く聞け、お主らに今掛けられている魔法はのぉ、半年ほど続く魔法じゃ。まあ苦しいだけで死ぬ事はなかろう。その魔法じゃが実は解毒方法があるのじゃ。それがこの小瓶じゃ。生憎と妾は一本しか持っておらんでのぉ。それがこれじゃ」
シャルロットはその瓶を置き去りにして、ウィズの元へと歩みを進める。
「ほれ、手をだせ。全くあの程度の敵に不覚をとりおって」
ウィズはシャルロットの手を取り起き上がる。そして二人は4人の冒険者の所へと足を運ぶ。
「くっそ、一個だけかよ。セーラお前が飲め」
「なんでセーラなんだよ。私だって飲みたいよ」
「良いだろ別に……」
ケミーとアレクが一つの小瓶を巡って口論を始める。サイラスとセーラがそれを宥めているが、4人のストレスがどんどん溜まっていく。
「おーやっとるの」
「何だ? あの小瓶は?」
「ただの水じゃ。治療薬と嘘をついて目の前に一個置いてやったらこの有様よ。浅ましい奴らよ人間とは本当に愚かよの」
「ったく。下らない真似するなよ」
「いいじゃろ。どうせ村を襲ってる盗賊か何かじゃろ。妾の記憶では盗賊は殺してしまっても良いと人間はルールを決めておったはずなのじゃが」
「確かにそうだが……俺はそんな事をするシャルを見たくない」
「ウィズがそう言うならば以後、気をつけよう。だが妾は精霊をあのように傷つけるものが許せんのじゃ。それだけは分かってくれるよな」
「ああ……だがやり過ぎだ。これは解毒方法はあるのか?」
シャルロットはゆっくりとウィズの鞄を指さす。正確には鞄の中に入っているマンドレイクをだ。
「そのマンドレイクは多種多様な毒を解毒する作用がある。だからこそ高値で取引されておるのじゃ」
「へーそうなんだ。シャルは物知りなんだな」
「当然じゃな。妾は800年を生きる精霊ぞ」
「おばあちゃんだな……」
ウィズがそう口走った瞬間、地面にシャルロットの拳が炸裂する。地面には巨大なクレーターが形成されており、シャルロットはウィズに向かってニッコリと笑いかけ
「何かいったかのぉ?」
「い……いや、何でもない」
ウィズは嫌な空気を感じ取りそそくさと4人の冒険者の元へと向かう。
「聞いた通りだ、お前ら! このマンドラゴラで、てめえらのその症状を治す事ができるそうだ。だが、お前らに村で暴れでもされたら困るからな。お前らの処遇が決まるまではしばらくそのままでいろ!」
ウィズのセリフを聞いて4人は観念したように表情は暗くなっていった……
こうして4人の盗賊による事件は解決をしたのであった。4人は村にある牢屋としている部屋に詰め込まれ、毒によって3週間ほど苦しめられた。そしてマンドレイクを服用した彼らは、そのまま冒険者ギルドへと連行される事となった。そしてギルドが下した判決は死刑であった。
この4人余罪を追及した際、3つの村で同じような事をしており、村民を皆殺しにして財産を奪うという非道な真似をしたと言う事が明るみになった為、このような重い判決となった。ギルドからは村に謝罪の為に少ない額の金銭が渡され、この事件は幕を閉じたのであった……




