13話:二人だけの剣舞
月明かりが部屋に差し込む中、剣と剣が重なり合う音が部屋中に響き渡る。その剣技はまるでダンスでも踊っているかのような鮮やかな動きだ。力に物を言わせるシャルロット、速さと技でその猛攻を退けるウィズ。一進一退の攻防が続く。シャルロットの両手に握られた2本の巨大な剣から繰り出される荒々しい剣技はその可愛らしい見た目もあいまって仮に観客がいれば人々を魅了したであろう。
「重てぇ。その体で良くやるぜ」
ウィズは彼女の剣を受け流し、軌道を反らしてやり過ごす。一撃でも貰えばノックアウト。彼女の剣はそう思わせる程の破壊力を持っていた。軌道がそれた剣は地面へとぶつかると、そこに小さなクレーターを作るほどの威力であったからだ。更に長い年月鍛え上げてきたのであろう洗練された剣技が合わさり、今まで見た事の無い動きでその巨大な剣を振るう。
「どうした? 守ってばかりじゃ妾に勝つなど到底出来ぬぞ」
シャルロットはケラケラ笑いながら、ウィズを煽る。そう、ウィズは一度も攻めに転じる事が出来ていない。重量のある大きな剣を2本も持っているにも関わらず、かなりの速さで振るわれる剣を受け流す事で精一杯であった。
だが焦っているのはウィズだけでは無いシャルロットも同じだ。何度攻撃を仕掛けようが、まるで柳の葉を切るようにのらりくらりと受け流され続けているからだ。見た目こそ派手だが、手ごたえの無い攻撃が続き無駄に体力が消費していく。
お互いの技量はほぼ互角、共に決定打を与える事は叶わない。自然と戦いは長期戦へともつれ込む。長期戦になると休息をほぼ取れずにここまで来たウィズの不利は明白である。だが、幼少の頃より魔物と戦い続け、鍛え上げてきた体はまだいける! そう言っている。自分を信じてウィズは目の前の敵をぐっと見据える。
切り合い始めて2時間が立つころだろうか、部屋を照らしていた月は山の向こうへと沈み、太陽が顔を見せる。今まで薄暗かった部屋が太陽の光でパッと明るくなる。朝一番の風で大木の草木が動く音が聞こえてくる。その部屋からは今なお金属音が鳴り響く。
「ハァハァハァ、もう朝だぜ。いい加減、降参しても良いんだぜ」
「ぬかせ、お主こそ、諦めて妾に殺されろ」
「それはゴメン被るわ!」
ウィズはここに来て初めて攻勢に出る。シャルロットが口を開き一瞬、気が緩んだ隙に、低い姿勢になり彼女の側面へと移動する。そしてそのまま腕へと突きを放つ。
「貰った!」
彼女は剣を振り下ろした状態だった隙を攻撃したんだ。そのまま横に薙ぎ払うにしても一度剣の向きを変えなければいけない。それだけのスキがあれば俺にとって十分だ! ウィズはそう計算していた。
「妾の隙をついたつもりか! 甘いわ」
シャルロットは剣を返すことなくまるで鈍器のように剣の腹をウィズへと叩き付ける。ウィズはそのままベランダまで吹き飛ばされる。手すりに激突し、仰向きに倒れ、更に数秒意識を失うと言う失態を犯す。ウィズにとってその一瞬は致命的であった。気が付くと目の前でシャルロットがその剣を振り上げる姿が目に入る。
「妾とここまでやりあえる人間は初めてじゃ。それではここでお別れじゃ」
シャルロットはウィズに向けて剣を振り下ろそうとする。
ウィズは目の前に迫る危機を目の当たりにしても体が僅かしか動かない。森に入ってから殆ど休息を取れずに戦い続けの数日だ。気を失ったことにより、疲れが一気にでたようだ。徐々に力は戻って来るが、それでは間に合わない。
何か、何か手は無いか? 無理やりにでも知恵を絞る。そして即座に閃く。ウィズは手に持った剣を僅かに動かし太陽の光を反射させ、シャルロットの目に光を当てる。
「小癪な真似を……」
確かに子供だましの小細工であったが、効果はあった。光を目に直接当てられたシャルロットは、突然の事に目を瞑る。視力を僅かではあるが失い、体はよろめき、そこに僅かな隙が出来る。
このチャンスを逃す訳にはいかない! これを逃すと待っているのは死だけだ。ウィズは動かない体を無理やり動かし、シャルロットの脛を目掛けて蹴りを入れる。
視力を失い、瀕死だと思っていた敵からの突然の攻撃になすすべ無く、そのまま前、つまりウィズの体の上へと倒れ込む。ウィズはそのまま彼女を抱きしめ、ゴロリと転がり彼女の上に馬乗りなる。ウィズは手に持った剣先を彼女の首へと突き付け……
「チェックメイトだ!」
目を開いたシャルロットは即座に自分の置かれた状況を把握した。もはや言い逃れが出来ない程に敗北している。魔法でも剣技でも共に敗北をしたのだ。両手に握られた剣を手放し、諦めたような表情で彼女は口を開く。
「妾の負けじゃ。こんな姿じゃ言い訳もできんわい」
「そうか、勝ったのか……」
「そうじゃ、お主の勝ちじゃ。約束は守ってやろう」
ウィズはその言葉を聞いて剣を手放しシャルロットの横に落とす。カランと言う音が部屋中に響き渡り、戦いの終わりを告げる。安心したウィズはそのまま、倒れ込みシャルロットの無い胸へと顔を埋める。シャルロットからは「責任を取れ」、「契約」などの単語が聞こえたが、ウィズの意識は最早限界である。適当に頷きながら、そのまま眠りについてしまったのであった。