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10話:孤独な戦い

 ウィズは地面を見下ろすと、一面グールだらけである。幸い知能はそれほど高く無いため、大きな物音を立てない限り、襲ってくる気配は無いようである。音が鳴らないように、ゆっくりと予備の剣を引き抜き、いつでも戦えるように準備を行う。


 剣を抜き終えた頃にウィズはグールの唸り声とは違う音を耳にする。カタカタとまるで骨と骨が当たりあうような音だ。ウィズは日が落ちほとんど何も見えないこの状況に危険を感じて魔法を唱える。


「我は欲する闇を見通す力を……ナイトヴィジョン!」


 ウィズの視界は急激に開けて行く。彼の視線の先には弓を構えているスケルトンが一体だけグールの中に紛れ込んでいた。スケルトンは大きな弓をその見た目に反した力で引き、矢をウィズに向けて放つ。その矢は風を切り裂き、ウィズの元へと吸い込まれるように飛来する。


 ウィズは別の枝へと飛び移りその矢を躱す。矢が元いた木に突き刺さり、大きな音が辺りに鳴り響く。周囲グールはその音に反応して、視線を向けその木に集まり登ろうとする。グール達はガリガリと木を引っ掻くが上る事が出来ない。そもそも上ると言う知能が無い。


 ウィズはその姿をみて少し安心した……がしばらくすると様子が変わる。グールの人数が1人から2人、10人と増えていく。そしてグールが50人ほど集まると木はその人数による圧力に耐えられずに、ミシミシと音を立てながら折れてしまった。そしてその音につられて更なるグールを呼び寄せる。数分も立てば隙間も無くなる程にグールがひしめき合う。


 ウィズはその光景を目の当たりにして唾を呑む。彼は辺りを見回すともはやスケルトンの姿は無い。このまま、この枝で一夜を明かす事は困難と判断したウィズは枝から枝へ、飛び移りエレメントガーデンへと向かう。


「チッ、嫌らしい所に配置してやがる」


 木の葉の影にスケルトンが所々配置されており、その矢がウィズを狙う。そして更に厄介な事にスケルトンは矢を放っては姿を闇の中へと消すのである。どこに何体いるのか分からない状態でいつ打たれるかも分からない矢を避けなければならないウィズは神経をすり減らしながら木々を飛び移る。


 どこまで進んでも減る様子の無いグールに飽き飽きしながらもウィズは森を進み続ける。森を抜けた頃には、日が昇り始めていた。太陽が大地を照らし始めてもグールが地面に戻る事は無かった。そう、ここが呪いの森と呼ばれていた理由は、このグールが森の中に入った者を捕食するまで襲い続けるからである。


 並の冒険者であれば、最初に足を取られ、ウィズの様に躱す事は出来なかったであろう。咄嗟に木に逃げられたとしても、朝が来ても土に帰る事は無く獲物を捕食するまで居続ける大量のグール、故に呪いの森と言われているのである。


「朝になってもいなくならないのかよ。嫌になるぜ」


 ウィズはぶつくさと言いながら、グールの様子を伺うと、夜に比べて明らかに動きが悪い。手近にある小枝を手で折りわざと音を鳴らしても反応は相当悪いものであった。だが動きが悪かった所で圧倒的物量にて押しつぶされるのは目に見えている。地面をグールをなぎ倒しながら走ればもっと早くに町まで辿り着けるが不意を突かれる事を恐れたウィズは昼も木の上を移動する事を決めた。

 

 そのまま進み続け、日が真上まで登った頃、ウィズは日が昇ってからスケルトンによる攻撃が一度も無かった事にウィズは気付く。油断を誘う為、ワザと攻撃の手を抑えてるのでは?と言う疑問が浮かんだが、ウィズは思い切って木の上で、休息を取ろうと考える。


 この森に入ってから一度も睡眠を取っていないウィズは、そろそろ休息を取ろうと考える。今ならまだ仮眠が取れる、町に入ってしまえば何が起こるか分からない為である。


 ウィズは木の枝に自らの体を持たれ掛け2、3時間ほど瞳を閉じる。もちろん自らの周りに水の防御魔法を展開しつつである。その2、3時間は彼の読み通り襲われる事は無かった。十分とは言えないが、休息を取れたことにより彼の集中力が欠ける事無く町の入り口まで辿りついた。


「これは行くしかないか……」


 町は城壁などはなく、森からは建物が見えている状態ではあるが、木々が一本も無く、今いる場所より5kmほど地面を歩く必要がある。もちろんグールが徘徊している中をである。自然と剣を持つ手に力が入る。もうすぐ日が暮れる時間だ。だがここで引くと、町への侵入が明日へとなってしまう。


 ウィズは剣を抜き静かに地面に着地すると、進行方向にいるグールの首を全て跳ね飛ばす。体は邪魔にならない所へと蹴り飛ばし徐々に町までの距離を詰める。ウィズの後ろには、まるで壁を形成すかのような数のグールが音によって集まって来る。


 そんな状況になってもウィズの足が止まる事は無い。何体ものグールを切り裂き、もはやどれだけの首を落としたかウィズにはもう分からない。ウィズがそう思い始めた頃には、町の建物に届く距離まで詰めていた。ウィズは全方位にいるグール達の首を跳ね飛ばし、その足に力を入れて建物へと飛び上がる。


 ウィズは建物屋根を片腕で掴み、力に任せてよじ登る。神経、体力、魔力、全てを使い続けて、疲労を隠せないウィズは屋根の上にそのまま大の字になり寝転がり、乱れた息を整えようとする。しかし、ウィズに休息は許されなかった。


 ウィズが大の字になり寝転がって数分後、日は沈み夜が来る。町の中はカタカタとスケルトンの音が響き渡る。周りを見渡すと至る所にスケルトンが召喚されていく。どうやらスケルトンが消えた理由は召喚解除されただけであった。 

 

 スケルトンがどんどん召喚されていく中、不思議とグールの姿は確認されなかった。ウィズは視線を町の外へと移すと、町にまるで見えない壁があるかのように、グールは中に入ってくることは無かった。あの姫様が人間が憎いとかどうとか言っていたからグールになっても町に入れたく無かったんだなと考えながらウィズは町の外を確認していた。


 辺りを確認している間もどんどんスケルトンは召喚されていく、そしてウィズが今いる屋根の上にもスケルトンは現れた。そのスケルトンは両手に剣を持っており、ウィズに向かい左右交互に剣を振り回すが剣の振りは遅く、ウィズに容易に受け止められてしまう。 


 ウィズは受け止めた剣をそのまま押し返し、スケルトンの胸にある魔石を剣で突き刺す。スケルトンは魔石から供給される魔力によって形成されている生き物である。ウィズによって魔石を破壊されたスケルトンは形を保てなくなり砂状となり風に乗ってどこかへと消え去っていく。


ウィズは剣を握ったまま次の屋根へと飛び移る為に、右足に力を入れて踏み込み飛び上がる。着地と同時にどこかから矢が3本ほど飛来するウィズは落ち着いてその矢を剣で薙ぎ払う。視線を前に向けると、斧を持ったスケルトンと槍を持ったスケルトンが一体ずつ待ち構えている。


 槍を持ったスケルトンはウィズの心臓目掛けて槍を一突きする。ウィズは槍を剣で体の右の方へと受け流し、そのまま魔石に剣を突き刺す。そのタイミングを待っていたと言わんばかり斧を持ったスケルトンがウィズの胴体に向けて斬撃を浴びせる。


 ウィズは左足でスケルトンを蹴り飛ばし、斬撃の軌道を反らす。僅かに髪を切断されるが、倒れ込んだスケルトンの魔石を砕き次の屋根へと飛び移る。


「キリが無い。一体いつになったら、あのデカイ木にたどり着けるんだ」


 ウィズはこの終わりが見えない敵の数を見て、愚痴をこぼす。ウィズの目の前には大量のスケルトンが控えており、全てを切り伏せないといけないと考えると疲れが少し溜まる。


 二件ほど屋根を越え着地した瞬間、ウィズの足元が崩れ落ちる。廃墟と化した建物の天井が崩壊寸前だったものをウィズが踏み抜いたためである。ウィズはそのまま建物の中に落下する。


 建物中には鬼火の様なものがフワフワと浮いており、ウィズの周りをグルグルと回る。そして鬼火がウィズに徐々に近づいて行く。ウィズは危険を感じて体で窓を打ち破り建物外へと飛び出す。そしてウィズの予想通り、鬼火は爆発するよう弾け飛び、部屋全体を青い炎で包み込んだ。


 無事地面に着地したウィズの周りには10体ほどのスケルトンが様々な武器を持って包囲している。剣、斧、槍、弓など様々な武器をもったスケルトンの同時攻撃をウィズは全てはじき返し、力に任せて全てのスケルトンを一太刀で切り付けた。


ウィズはそのまま屋根へと飛び上がるが、背後から来た矢に気付かず、わき腹に突き刺さる。彼は体勢を崩しながらも屋根まで飛び上がれたが、ウィズは痛みで屋根の上にうつ伏せで倒れ込む。彼はそのまま矢を引き抜き、鞄の中にあるポーションを取り出し傷口にぶっかける。

 

 ウィズの傷口は徐々に癒えていく。しかしスケルトンの攻撃の手が止むことは無く、うつ伏せになるウィズに斧を振り下ろす。どくどくと傷口から血液を流しながら仰向けになり、その勢いでスケルトンの胴体を魔石ごと切り払う。


 スケルトンの体は砂状となって舞い散ったが、その持っている斧だけは違う。ウィズの頬のすぐ隣に刺さり、僅かに髪を切断する。彼はフラフラになりながらも起き上がり周囲を見回すと隣の屋根に弓を構えた3体のスケルトンが視界にはいる。


 ウィズは鞄からダガーナイフを3本ほど取り出し、スケルトンの魔石へと投擲する。弓を構えて止まっている敵にナイフを当てる事など造作もないウィズは3本とも見事、魔石に当ててみせた。

 

 これで今いる屋根のスケルトンは後、1体である。ウィズは痛みに耐えながら、無理やり体を持ち上げ、襲い来るスケルトンに向かい剣を振るう。スケルトンとウィズの剣が交差し、鈍い音が重なり合う。ウィズはわき腹の痛みに耐えれることが出来ず手の力が僅かに抜け、剣はカランと音を出して地面に落ちる。


 力は入らない、武器を出す暇もない。傍から見れば絶望的な状況であるが、ウィズの顔は不敵な笑みを浮かべていた。


「それで勝ったつもりか! 俺を殺るにはまだまだ数が足りないぞ」


 そう言いながらウィズは無理やり体を反らし、斬撃を躱す。そのまま豪快にスケルトンに抱き付く。「スケルトンに抱き着くなんて最悪の気分だ」とぶつくさ文句を言いながらそのまま豪快に屋根の上から投げ飛ばしたのであった。スケルトンはそのまま地面へと叩き付けられると、体がバラバラになって地面に散らばる。そして地面には魔石のみが残されるだけであった。


 ウィズはようやく今いる屋根の上にいるスケルトン、遠距離から攻撃が出来るであろうスケルトンを全て葬り、ポーションで傷口を塞ぐ為の時間を手に入れた。


 あれから数分、傷口は何とか塞がったが、ウィズには言いようの不安が現れる。今までスケルトンによる波状攻撃を行って来たにも関わらず、この千載一遇のチャンスに攻撃の手が止まった事がある。


 そしてウィズが立ち上がろうとした時、視界に何か小さな物が通り過ぎる。その後、カタカタとスケルトンの音しか鳴らないこの町に不釣り合いな虫の羽音が、ウィズの耳に入る。ウィズにとって初めて化け物以外の存在を確認出来てどことなく安心した。その音はただの蚊であったとしても……


 おかしい……


 その羽音が徐々に自分の方へと近づいて来る事に違和感を覚えた。普段ならば血を吸う為に自分の所に蚊が来るのはおかしい事はでは無い。だがここは化け物の巣窟でいくら警戒しても、し過ぎという事はないだろう。


 屋根に上れずにいるスケルトンを見て、ウィズの警戒は正しかったと確信する。なぜならばスケルトンはその蚊の動きを目で追っていたからである。それも視界に入ったスケルトンのほぼ全てが。


「顕現せよ、我が身を守る炎の壁。ファイヤーシールド」


 ウィズの周りを球状に囲うように炎の膜が形成される。仮にスケルトンがこの膜に向かって矢を放てば簡単に通り抜けるだろうと思えるほどの薄い膜である。だが、小さな虫にとってはどうだろう、ウィズに近づく事が出来なくなる強大な壁にも見えるだろう。


 ウィズの耳に入っていた羽音は炎の壁に突撃したのであろうか、徐々に小さくなっている事がわかる。このまま留まる事は危険だ。そう思いウィズは鞄を背負い、ズキリと痛む傷口をちらりと見て再び前へと進みだした。


  何度屋根を飛び越えただろうか? どれだけのスケルトンを葬って来ただろうか? ウィズがそう考える頃には、町と世界樹を繋ぐ桟橋のすぐ近くまで辿り付いていた。屋根から見下ろすと橋にはスケルトンがぎっしり待機してる事が確認できる。


 ウィズは最後のポーションを飲み干し、左手に草刈り用の鉈、右手には剣を持つ。これから飛び込むのはスケルトンの群れ。恐らく巨木の中には更に敵がウヨウヨいるのは予想できる。そう考えるとウィズの剣を持つ手が震える。


「へっ、絶対絶命の大ピンチってか。面白れぇ」


 覚悟を決めたウィズは屋根を降りる。地面に足を付けた瞬間、まるで時が動き出したように、周りのスケルトン全てがウィズの元へと集まる。


「クレア、見ていてくれ。俺は必ずこの戦いを生き抜いて見せる」


 そう呟き、ウィズは橋に向かって走り出したのであった。


 

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