003 乙女ゲーム《ソレ》の名は
★★★
翌日。王都にあるカーティス公爵家の屋敷の自室にローズはいた。
症状はやはり右腕と腰骨の骨折。回復魔法を使う先生方に治療はしてもらったが、一日で完全回復とはならなかった。まだ痛みもあるし、動きによってはくっつけた骨に再びヒビが入るかもしれない。
連絡を受けて自ら学園に足を運んだローズの母――カメリア・カーティスは、学園長達に直接交渉し、数日早く夏期休暇に入るとして怪我を負った娘を屋敷に連れて帰った。ローズが寮へ入る時につけた、侍女のメイプル一人では手がまわらないだろうとの判断である。
娘の部屋のソファーに腰掛けて見舞いの品々を確認しているのは、ローズよりやや深みのある紅髪を結い上げて、瞳に合わせたグリーンのサマードレスを身に纏っている母のカメリア。
既に二十歳を越えた子供がいるとは思えない程、若々しく引き締まった体躯。優美で気品のある物腰は、さすが公爵婦人といった貫禄だ。
その横でカメリアの指示通りに品物を仕分けているのは、赤をシンボルカラーとするカーティス公爵家が支給したワインレッド色のお仕着せを身に付けたメイプル。
公爵家にお仕えする事を誇りに感じている働き者であり、麦藁色の髪をきっちりと纏め上げ、昨日のローズの転落事故の一報からこっちクルクルとよく動き回っていた。そんな彼女のパッチリとした橙色の瞳には、お仕えするお嬢様への心配と奥様への尊敬が、作業の合間あいまに交互に浮かぶ。
年齢的にも姉のように頼れる存在であり、几帳面な性格と仕事ぶりで敬愛する主人を支える、ローズの腹心の侍女である。
「ローズは人気者ね〜。お見舞いのカードが沢山届いているわよ」
「お花や果物、お菓子も届いております。果物は後程切り分けて、お持ち致しますね」
「ありがとう、メイプル。どうしましょう、腕が……」
「差し当たって私の方で一筆書いて、お礼を伝えておくわね」
「ありがとうございます。お母様」
「それにしても残念ですわね、お嬢様。本日の舞踏会、せっかく新調したドレスでしたのに。マダム・チューリップがお嬢様の為にデザインしたドレスは、大変お似合いでしただけに、惜しいですわ」
「いいわよ、別に。エスコートして下さる筈の方は、アノ調子だし。特に見せたい方もいないもの」
「アコナイト殿下ねぇ……」
たっぷりと含みを持たせて呟いてから、これまでに届いたカードの差出人を確認するカメリア。シュッシュッと、紙の擦られる音が妙に耳につくかのように響き渡る。
「同じ学園の敷地内にいらした筈なのに。婚約者という間柄なら、真っ先に医務室に来て然るべきなのにねぇ。未だにカードの一枚すら届けて下さらないなんて」
カメリアはそう口にしながらカードの束をテーブルの上に置くと、今度はお気に入りの扇子に手を伸ばす。右手に握った扇子の先の方でトントンとリズミカルに左手を叩いたり、開いたり閉じたりと少しの間扇子を弄んでから口を開いた。
「ドレスだって。ローズにプレゼントをしたのは兄のホーリー。殿下は何処かの女性をエスコートして街の仕立て屋の扉をくぐったと、民にまで噂をされて。一体、どおいうおつもりなのかしら……」
言い終わるか終わらないかの内に、「パシィッ!!」とカメリアの手にあった扇子の音が部屋中に鳴り響き、ローズとメイプルはビクリと震えてしまう。
(……ッ! 今の、お母様の怒りが骨にキタ)
ローズは、このままあてられるのはマズイという焦りの目を侍女へと向ける。察したメイプルがローズの額に手をあてて……眉をしかめた。
「奥様、お嬢様にお熱が」
「まあっ! 帰りに回復術師の方を連れて来ると出仕したけれど、早めてもらえないかホーリーに使いを出そうかしら」
「お嬢様。今はどうかお休みになって下さい」
「ええ。少し眠ろうと思います」
「それがいいわ。ホーリーが帰って来たら起こすから」
「外に控えております。必要でしたらお呼び下さい。お休みなさいませ、お嬢様」
カメリアはローズの額と頬をひと撫ですると、慈しむような微笑みを浮かべて退出していく。続いてメイプルが部屋を出て、僅かに頭を下げてからそっと扉を閉めた。
先程とは打って変わり、急に静けさに包まれた部屋で「はー……」っと息を吐き出すローズ。ひと休みしようと寝返りを打とうとするが、だがしかし痛みの為にできなくて涙目になり、諦めて精霊や天使の舞い飛ぶ天井画を見上げる。
(……さすがお貴族様のお屋敷、学園の寮よりもゴージャス)
(この部屋で、小さい頃から過ごしてきたローズは落ち着くんだろうけど。一般庶民な日本人だった私としては落ち着かないような……)
(あー、右腕が熱い。腰が痛い。……痛いって事は、私、やっぱりあのゲームによく似た世界に生きているんだよなぁ。いや、今までもさんざん考えてきたけどさ)
発熱の為にぼんやりとしてきた思考の中、ローズの頭に思い浮かんで消えるのは『ヒロインんんと愉快な逆ハー達』の事だった。
★★★
ローズはうつらうつらとしながらごくごく短い夢をみて……。唐突に、カッと目を見開いた。
「思い……出した……」
春の魔物討伐で命を落としかけて、前世・日本人の成人女性(大学生)だった記憶が蘇ったのである。
高校の友人と進学先が同じだった為にルームシェアをしたのはいいが、彼女はアチラ側の住人だったのだ。
マンガにアニメにラノベはもちろん乙女ゲームの視聴やプレイを半ば強制され、薄めの二次創作本の制作為に「お前のネタは俺のモノ」と感想や思いつきを絞り取られた。
更にイベントに向けてのアシスタント作業や、手伝いのメンバーの胃袋を支えるべく料理の腕を奮う日々。代わりに、出版社から声が掛かる程になった友人には、給与として家賃を支払ってもらったりなんて事もあったが。
嫌いではなかった。いやむしろ好きな分野だった。友人の『初単行本出版』とメンバーの『成人』のお祝いに、外でお酒を飲んでオールでカラオケをしてそれからの帰り道で……。プツリと、その後の記憶は無い。ので、詳細は定かではないが、恐らくはきっとそういう事なのだろう。
春にローズの体の『中の人』として一命をとりとめて、「あれ、これって乙女ゲー悪役令嬢転生モノってやつ? 何というテンプレ」などとブツブツ呟いていたが、肝心なゲームのタイトルがなっかなか思い出せなかった。
「スチルではローズの炎の魔法が何故か【花火】だったんだよな〜。初めて見た時ツッコんだわ」
画面いっぱいの魔物の大群に向けて、『尺玉級の打ち上げ花火』を水平に放つローズ。
(鬼かっ! ローズっ、恐ろしい子!!)
ヒロインに『爆竹』や『ネズミ花火』で嫌がらせをするローズ。
(何でスチルのアングルが必殺・仕〇人!?)
婚約者であるアコナイト殿下の心が離れていく事が辛くて、一人『線香花火』の煙に涙を流すローズ。
(ナゼにこの場面だけ浴衣!? 世界観……いやむしろ文化はどーなってんの? 線香花火とかがあるなら今さらだけどさ)
ゲームユーザーがつけた二つ名は『花火師』、もしくは『職…人…』だった。
「実際、本物の魔物を目にしたら【花火】はないわ〜って思ったもんな。範囲は広いけど、殲滅力が心許ない」
そう言いつつもローズ推しのゲームユーザーとして、わくわくしながら試そうとはした。けれどコツか隠し要素でもあるのか、【花火】の魔法はゲームのようには発動できなかった。ローズは正直しょんぼりと落ち込んで魔物相手に相当の八つ当たりをしたが、今でも完全に諦めてはいない。
(――そう。『花火師』に、私はなる!)
魔法の習熟度を上げればいいんじゃなかろうかと炎の薔薇に走ったのは、キャラクターネーム的に丁度いいかなと思ったからだ。
「いや、それよりも! あー、こんな事なら思い出すんじゃなかった」
ローズに転生した自分が今生きている世界に、幾つもの共通項がある乙女ゲームのタイトル。ずっと出て来なくて、奥歯にニラが挟まっているようで、若干イライラしていた事は確かだった。
だが今は骨に響く。心音に合わせてずくずくと伝わる疼きは、ローズを確実に苦しめている。
(もー、今は思い出したくなかったなぁ〜。それもかなり痛切に)
ローズは目を閉じると、ゆっくり息を吐き出して痛みへの意識を散らしつつ、乙女ゲームについての思考を巡らせ始めるのだった。
★★★
『桃ずっぱい! 〜私はみんなのピーチ姫〜』
(りぴーと、あふたー、みー。『桃ずっぱい! 〜私はみんなのピーチ姫〜』)
(……。)
(……、……。)
(……、……、……。)
ちなみに略称は『桃酢姫』。
(……うん、頭悪い。超頭悪い。今の『ヒロインんん』といい勝負だな)
★
【ピーチ・ローリー】(十七歳)
ゲームのヒロイン。男爵家の庶子。珍しい光属性の回復魔法の使い手として、国立シード学園に中途入学。
髪:濃い桃色 瞳:桜色 婚約者:未決定
所属:回復術師コース 属性:光
ユーザーからの二つ名:『性ビッチ姫』『題ビッチ姫』(注釈:タイトルからしてビッチ姫)
ゲームの基本コンセプトとしては、まず光属性の魔法の才能を伸ばす事。その中でも回復魔法は特に重要で、攻略対象に魔法を施し傷を癒す事ができて初めて好感度が上がっていくのだ。
プレイヤーは『引き取られた男爵家での基礎教育の選択』、『学園での授業内容の選択』、『図書館で読む本の選択』……等で様々なスキルを取得。また『ダンジョンやフィールドで魔物を討伐してレベルアップ』からのステ振りで、攻略対象の好感度上昇に有利なピーチを育てていく。
更に『街の人の話を聞く』、『(学園の)食堂で話を聞く』……他・で、フラグを建てつつイベントを起こす。
この時。出て欲しい『話』を引き当てるまでボタン連打は必須であり、うっかりと押し過ぎて「ぐっはぁ! ぬかったわ!」と悲鳴を上げるのも乙女のお約束である。
★
【アコナイト・フォレスト】(十八歳)
メインヒーロー。正妃の子なので第三王子にもかかわらず皇太子。
髪:紫碧色 瞳:空色
婚約者:ローズ・カーティス
所属:騎士コース 属性:?
二つ名:『俺様系…詩人?』『我望低好感度維持也』
【ローズ・カーティス】(十七歳)
宰相を務める公爵を父に持つ、第三王子の婚約者。皇太子妃の座を奪われる事があっては公爵家の面目が潰されると危機感を覚えて、ヒロインに対し様々な嫌がらせを行う。
髪:紅色 瞳:琥珀色
婚約者:アコナイト・フォレスト
所属:魔法実戦コース 属性:火・土
二つ名:『花火師』『職…人…』
メインヒーローのルートに入るには魔法・知識・教養・礼儀作法・ダンス等を全体的に高める必要がある。国立シード学園の第四学年進級までに、如何に詰め込みでレベルを上げられるかがポイントだ。
必須なのは『図書館で本を読む:その他』でランダム出現の『詩集』を複数回引き当てて、スキル【意訳】を取得。これがないと、ヒロインへの好感度上昇に伴い【詩人】化するアコナイトの選択肢が部分的に文字化けする。
また悪役令嬢・ローズからの【花火】攻撃を避けるミニゲームの為に、ステータスは“素早さ”を多少は上げる事。全ての【花火】を喰らった場合、アコナイトの好感度が下がる。
余談だがルート攻略の中盤以降。好感度も“素早さ”もある程度上げていて、【花火】を一度か二度だけ浴びてしまった場合にヒロインが転倒してしまう事がある。その時ナニをトチ狂ったのか『パンチラを讃える詩』を歌い出すアコナイトに、「心が折られました」とリセットボタンに手を伸ばすゲームユーザーが多発した。
★
他の、レギュラー攻略対象は以下の通り。
【ウィロウ・カーティス】(十七歳)
公爵家の次男で、ローズの双子の弟。
髪:朱色 瞳:琥珀色
婚約者:オーキッド・マクローリン
所属:魔法実戦コース 属性:火・土
二つ名:『ショタ犬』『あざいっショ』(注釈:あざといショタ)
【オーキッド・マクローリン】(十七歳)
外務大臣を務める公爵を父に持つ、ローズの親友。
髪:薄紫色 瞳:焦げ茶色
婚約者:ウィロウ・カーティス
所属:魔法実戦コース 属性:土
二つ名:『微笑みの制圧者』『社交界の首領』
ウィロウの攻略は、できるだけ一緒に過ごす時間を選択する事。まるでペットのように甘やかす事。これに尽きる。彼だけならはっきり言ってチョロい。
ただし、悪役令嬢であるオーキッドへの勝利条件が鬼畜難易度。オーキッドに対抗する為に、ハイスペックにならざろう得ないと言っても過言ではないのである。
学園の授業や図書館の読書、街の人の話を聞くなどしてフラグを建てた上でクイズ形式のミニゲームに正解しないと、社交界からハブられてバッドエンド一直線だ。
★
【ヴァイン・エルトン】(十八歳)
侯爵家の跡継ぎ。父親は騎士団・団長。
髪:金色 瞳:灰色
婚約者:リリー・フォーブス
所属:騎士コース 属性:?
二つ名:『このっ…、脳筋ドツンデレめが!』『(ローレル王子の)下位互換』
【リリー・フォーブス】(十八歳)
身内や親類に騎士や兵士が多い、武門系伯爵家の末娘。ヴァインとは遠縁にあたり、お守り役でもある。
髪:金色 瞳:アイスグリーン
婚約者:ヴァイン・エルトン
所属:魔法実戦コース 属性:雷・氷
二つ名:『週刊少年・リリー』
ヴァインの攻略には所謂『殴り回復職』を目指す事。知識・教養に連なるスキルなど一切不要。力こそパワー。魔物討伐にヴァインと背中合わせで戦えればよし。ヴァインに限っては、戦闘での勝利や“力”へのステ振りでも好感度が急上昇する。怪我をする前に魔物を殲滅すれば、回復魔法など不要だと言わんばかりの仕様だ。
また選択肢も、周囲がドン引くくらい大袈裟なものを選ばないと空気が読めないヴァインには伝わらない。「社会的に死ぬつもりで攻略しょう」が正義。
悪役令嬢・リリーのミニゲームは『格ゲーかよ!?』とツッコむ事請け合い。何度か武器や拳を交わし、時に勝ちを譲り、また時にはピンチを救う。ラストバトルは夕日の沈む川原だった為に付けられた二つ名である。
「ヴァイン、イラネ。リリー、クレ」「リリーは攻略できないバグキャラ。ヴァインは存在自体がバグキャラ」と声が上がるくらい、リリー攻略希望者が出現した。
★
【トランク・サザランド】(十七歳)
伯爵家の一人息子。父親は魔術師団・団長。
髪:銀色 瞳:赤色
婚約者:アイリス・ハンコック
所属:魔技師コース 属性:全属性
二つ名:『神聖視コワイんだけど系ヤンデレ』
【アイリス・ハンコック】(十七歳)
「闇属性魔力こそ至上。全属性もまぁ、許容範囲」を謳う伯爵家の令嬢。
髪:黒色 瞳:赤色
婚約者:トランク・サザランド
所属:魔法実戦コース 属性:闇
二つ名:『好感度ドレイン』『闇流ドラマ』
トランクの攻略は、魔法や魔道具のヲタクを目指すつもりでスキル取得やステ振りをすればいい。魔法関連に極振りの紙装甲で。
遺跡型ダンジョンで古代の魔道具をゲットして、トランクに解析を依頼しても好感度が高まる。
悪役令嬢・アイリスは、闇属性魔法を最大限に駆使してヒロインに襲いかかるのが特徴。細かいイヤガラセは闇属性魔力で黒い人形を作り上げて、駒として使ってくる。
ヒロインやトランクだと周囲に錯覚させ、「他の相手とデートをしている」「ヒロインがアイリスに怪我を負わせた」等の噂を流し、好感度を下げにかかってくるので要注意だ。
またゲーム終盤。トランクに魔法をかけて【状態異常:記憶喪失】にしてしまい、ヒロインとの仲を引き裂こうとしてくる。フラグを建ててアイテムを用いるとトランクの記憶が戻り、『真実の愛に目覚める』を通り越して『神』扱いをしてくるので、ご利用・選択は計画的に。
余談だが。アリアス役の声優さんが自身のブログで、闇属性魔力の人形の事を【暗黒物質人形】と書き込んだので、公式も追認。ただし【あんこくぶっしつにんぎょう】と読むのか、【ダークマター・ドール】とルビをふるのかは意見が別れている。
★
【リーフ】(十八歳)
平民。フォレスト王国でも有名な、スプラウト商会・商会長の跡取り息子。
髪:リーフグリーン 瞳:茶色
婚約者:デイジー
所属:文官コース 属性:?
二つ名:『腹黒眼鏡財布』『都合のいい眼鏡』
【デイジー】(十七歳)
平民。両親も商人で、リーフとは幼なじみ。
髪:蜂蜜色 瞳:ミントグリーン
婚約者:リーフ
所属:魔法実戦コース 属性:風
二つ名:『恋のそばかす模様』『双葉の愛人』
リーフ単独ルートに入ると他の攻略対象者達とは違い、「ピーチ様は男爵家のご令嬢だから」と平民のデイジーが早い段階で自分から身を引く事になる。貴族は学園卒業後に結婚しても、年齢的に全然問題ないが。成人と同時に結婚する人が多い平民としては『嫁ぎ遅れ』の部類に見なされかねないデイジーは、さっさと次の婚活を始めてしまう。
そんなデイジーを見て、「離れてから初めて幼なじみの大切さを思い知った」と未練がましく追い縋ろうとするリーフ。
デイジーの二つ名の『双葉の愛人』は「二人ともが必要なんだ!」と、ヒロインとデイジーの両名にプロポーズをして三者が納得して受け入れるエンドから。デイジーは身分差から周囲に愛人扱いしかされない為、結局は去っていくかもしれない……という締めくくりだった。
リーフの単独攻略はジレジレもだもだの三角関係が特徴で、シナリオが秀逸だと人気が高いルートの一つである。
★
攻略対象のキャラクターデザインは二つ名や所属から想像出来るもので大体あってる。
手抜きか何か定かではないが、それぞれの父親がスチルで出てきた場合、色指定や容姿も似通っていた。
更に、二週目以降に攻略可能な隠しキャラは三人。
対応する悪役令嬢はローズで、「その程度では王家(公爵家)に相応しくない」とヒロインを責めてくる。
★
【リンデン・フォレスト】(二十二歳)
側室腹の第一王子。
髪:空色 瞳:ライムグリーン 婚約者:未決定
所属:回復術師団 属性:水・木
二つ名:『被り辛い』『難攻不落。初恋こじらせ系王子』
このゲームは、ヒロインが攻略対象を光属性の魔法で回復して、好感度を上げていく仕様である。
リンデンはヒロインと同じ回復術師でキャラが被っていて、イベントが非常に起こり辛い。魔物討伐でも後衛で守られるリンデンはそもそも怪我を負う機会も少ないし、仮に負傷しても自身で治す。
しかも事あるごとに「初恋の女の子が……」「忘れられない女性が……」と口にしてくるので、単独ルートでの攻略は『幻の隠しキャラ』を除いて最高難易度を誇る。
ただゲーム中に『初恋の女の子の正体、及び詳細』についての情報がほぼ出てこないので、ゲームユーザーからは「脳内妄想乙華麗」「シッ! 触れちゃいけません」と難儀で可哀想な王子扱いだ。
苦労したゲームユーザーに報いる為か、スチルの美麗っぷりはぶっちぎりで高い。でもゲットまでが大変なのである。
★
【ローレル・フォレスト】(二十歳)
リンデンと同腹の第二王子。
髪:レンガ色 瞳:フォレストグリーン 婚約者:未決定
所属:近衛騎士団 属性:?
二つ名:『ダントツ兄貴』『フォロー人』
全キャラ中人気No.1のいい王子。他の攻略対象者と比べて、常識人ともいう。リンデンを攻略するのに切っても切り離せない存在。
ローレルに回復魔法を施すイベントの前に、「近くで第一王子様のお姿を見たよ」等の『話』を出してフラグを建てる。何度か繰り返すとやっとの事で、「いつも弟を助けてくれて、ありがとう」とリンデンが登場して攻略スタート。ただし、以降も好感度上げにはローレルへの回復がの必須の為、高い確率でローレルとリンデンの三角関係に。
二人の好感度をただ漠然とまんべんなく上げていると、「兄上と親しい君に、これ以上の思いを抱くのはいけない事だから」と大抵の場合はローレルが身を引いてしまう。
だがしかし。ギリギリを見極めてイベントをこなすと、「兄上には悪いと思っている。だが君を諦められそうにない。どうか私だけのピーチ姫でいてほしい」とリンデンのフォローに甘んじていたこれまでの態度を一変。情熱的にグイグイくるローレルに、「キャーキャー!」と黄色い声を上げて身もだえるユーザーが量産され、ローレルの人気が不動のものに。
このギリギリを見極めようと、『黄金比』検証の掲示板で活発な意見交換が行われたりもした。
★
【ホーリー・カーティス】(二十一歳)
公爵家の長男で跡継ぎ。リンデンとローレルの幼馴染み。
髪:赤みがかった金色 瞳:グリーン 婚約者:未決定
職業:文官(宰相補佐) 属性:火・風・?
二つ名:『立役者』『(エロ)ハプ担』
フォレスト王国では、一人の男性が複数の妻と結婚するのは認められている。(戦争や魔物討伐で夫を亡くした未亡人と遺児の救済を目的として法を整備。次第に拡大解釈された)が、一人の女性が複数の夫を持つことは公には認められていない。
未来の宰相として女性の複数夫帯を、法をねじ曲げてでも成し遂げるのがホーリーである。彼の活躍なくしては全ての逆ハーは成立しない。まさに『立役者』だ。
隠しキャラだけあって、ホーリーもルートに入るのには手順を踏む必要がある。
ローレルとリンデンと親しくなってから、二人の友人として紹介してもらうのがまず一つ。それよりも手っ取り早いのはやはり、弟のウィロウを落としてから家族として紹介されるパターンだろう。ウィロウがチョロいのはホーリーへの足掛かりにされる為だと、もっぱらの評判だった。
ホーリーの好感度を上げるカギは、『政治的に役に立つ』事。
街で情報を収集し、『ヤバい話を聞く・不可解な文書を入手する・怪しげなアジトに直談判をしに行く』等の行動を選択。
その後のヒロインを待ち受ける展開はもちろん、ほぼ全てで肌色面積増加で「いやぁ〜ん」な貞操&命の窮地。
危機一髪のところに駆け付けて、ピーチを救出するホーリー。彼はそのたびに、『捲れ上がったスカートを下げようとして慌てるヒロイン』や『破られた衣服を寄せ集めた隙間から覗く胸の谷間を強調するヒロイン』等を目撃し、脱いだ上着をピーチの肩にかけてフォローをする羽目に。
ゲームユーザーから『エロハプニング・ルート』、『エロハプニング担当』と評されるようになった所以である。
当然ながら、好感度を上げてフラグを建てておかないと救援が現れず。ゲームオーバーへ向かって一直線にヘッドスライディングを決める事になるので要注意だ。
★
ちなみに、全ての攻略キャラに『ハッピー』『ノーマル』『バッド』のエンドがある。
更に、三角関係、四角関係、レギュラー五人の逆ハー、隠しキャラ三人の逆ハー……他。「一体何周させられればいいんだよ、ゴルァ!!」と吠えながら、ユーザーはルートごとの専用スチルを探した。
全てのスチルを回収すると、上記の男性攻略キャラクター達を後宮に入れて女王として君臨する『究極の逆ハー・女王への道』ルートが解禁になる。現実ではあり得ない、ファンタジーの極みである。
また『女王への道』も全て回収すると、「幻の隠しキャラが攻略されたそうにヒロインを見ている……」とかそんなニュアンスの事を、公式が度々匂わせていた。
全くの余談だか、PC版にのみ『18禁追加ソフト』が発売されていた。
本来ならばレギュラー攻略対象の個別ルートにもかかわらず、隠しキャラクターとそれぞれ一晩限りの交際で【1アプゥ・ピーチ】。
18禁・逆ハールートは【ハイパー・ピーチ・ブラザーズ】。
……等々。他にも盛りだくさん、揶揄されていたのは大人だけの話だ。
読んで下さって、ありがとうございます。
20151112
祝、日刊ランキング入り!
楽しんでもらえて嬉しいです。
おまけ情報
・同人業界ではピーチの相手が、ヒゲの配管工兄弟のコスプレをするのはお約束。
・不人気No.1はヴァイン。真正面から攻略しようとすると、他キャラの好感度が激減する選択肢を選ばなければならず、かといって逆ハーから外そうとルートを選ぶと、絡んでくる。
一部では『難易度爆上げ』とも呼ばれ、出現した瞬間『あ゛あ゛あ゛あ゛』と声を出すプレイヤー多数。
20170610 追記
後半部分。特にゲーム情報に関しまして、大幅に加筆修正を行いました。元の倍以上の文字数に……。
思い付くままに書き連ねましたが。現実には容量の問題でそこまで細分化されず、あれこれと使い回されるでしょうね。
いいんです。『作者が考えた(笑える)架空の乙女ゲーム』情報だから。