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027 友人達の幸せの行方



 ★★★



 ローズにとっては何度か目の休憩中、メイプルに持って来てもらった、ウサ耳お姉さんの手作りクレープをもくもくと食べていた。


(チーズケーキとベリーソース、ウマー)

(チョコアイスとカスタードクリームも良かった)


 少しずつとはいえ、屋台や宮廷料理人達の料理を完全制覇する勢いでエネルギー補給をしている。水分補給は、魔力回復薬の原料にも使われる薬草茶を飲んでいた。ここまで順調ではあるが、やはり消耗も相応に激しかった。

 今はハレが湖水をスクリーン状に操作をして、シールが影を動かして物語を上演している。予め楽団に楽譜を渡していたのだろう。J―POPの名曲ラブソングをこの大陸の共通語に翻訳して、イケボイスで歌い上げて雰囲気作りに貢献している。


 そう――ローズ達から然程遠くない位置に、ファルコンとオーキッド、ローレルとスワンのペアが、それぞれ敷布の上に腰掛けて湖の方を見詰めていた。


「素敵ですね……。歌も物語も素晴らしいですわ」

「シール様の歌声は、まるで私の気持ちを代弁しているようです」

「え?」

「オーキッド嬢。私は貴女の婚約が解消された事をとても喜びました。幼少の砌、初めてオーキッド嬢にお会いした時、一目で恋に落ちたのです。貴女が他の男と婚約したと聞かされた時、どれ程口惜しい思いをしたか。オーキッド嬢、どうか今日この場で貴女に永遠の愛を誓い、求婚する事を許して下さい」

「ファルコン様……」

「私と貴女の婚姻が成されれば、両国の更なる友好に繋がる事でしょう」


 ファルコンの言葉を聞いて、それぞれ公爵家の令嬢として育てられたオーキッドとローズは、“断る”という選択肢など、存在しない話だと直感した。

 表情や声色から、ファルコンがオーキッドに対する恋情を抱いているのは、確かだろうと感じられる。そして、彼は自分の望みを政治でもって押し切る道を選んだのだろう。


 予め本人に打診は無かったのか、オーキッドの動揺は数瞬。何とか貴族令嬢の表情を取り繕い、言葉を発する。


「私、今までのパーティーではパートナーに恵まれなくて、足を踏まれてばかりいましたの」


(……アレな弟でスマン、オーキッド様)

 ローズは思わず頭を抱え、リンデンに頭を撫でられる。


「だから私、今度は一緒に踊っていて、楽しく過ごせる方がいいですわ」


 オーキッドは取り澄ました口調で言葉を発してから、チラリとファルコンの方を伺う。

 オーキッドの視線を受けたファルコンは、真っ向から受け止めてニヤリと微笑み、オーキッドの手を取って指先に口付けを落とす。


「この後の舞踏会で証明してみせましょう、オーキッド嬢」


 花火が終了後は、『ガンバン』の大広間で舞踏会が開かれるスケジュールだ。花火や演し物を見ながら、パートナーとしての参加を申し込み、腕を組んでこの一時を過ごしているカップルがあちこちに見受けられた。


「ローレル王子は、舞踏会のパートナーを申し込みに行かれませんの?」

「生憎、兄の護衛という大事な仕事を抱えている身なので」

「あら、おかわいそうに。私が大人なったら、私の手を取る権利を差し上げても宜しくてよ」

「それは、身に余る光栄です。ではそれまでの間に私はもっと出世をし、スワン王女を迎えるに相応しい、地位に就く事に致しましょう」


 ローレルの言葉を受けてはにかむスワンを見て、ローズはリンデンに視線を向ける。ローズの無言の問い掛けに、リンデンは小声――敢えてローズの耳元で囁く。


「近衛騎士団の団長は、王族の血を引く者が就任して、“敵対しない”旨を表す為に、同盟国の王女を娶る事が多いのです。それがローレルであり、スワン王女なのです。以前から水面下で話は出ていましたが、今回の件で、ファルコン王子とスワン王女の婚姻・婚約でもって、友好関係を確かな物にするのです。間にドラゴンが入って頂いたので、無体な賠償などを要求される事は回避されましたね。魔物の異常発生と被害の八割がフォレスト王国で起こったのも事実ですが」


 リンデンの言葉に耳を傾けつつ、満更でもない表情のペアをそれぞれ目にして頷くローズ。

 また、視線を別の方に廻らせると、変異種オーガを討伐した際に共闘した騎士や兵士にアプローチを受けている風なリリーの姿が見えたり、同じように兵士や冒険者達に口説かれているデイジーの姿を見付ける事が出来た。リリーは領主一家として参加している両親に、デイジーは、物資の納品の為に訪れてそのまま招待を受けた両親に、それぞれ守られているようで、心配することは無さそうだった。

 奇しくも、オーキッドの提案した、婚活お見合いパーティーになっている。


「あちらを」


 リンデンはローズに注目を促す。ローズが目を向けた先には、魔術師団団長の座を退き、一団員として『花火』の魔法の研究に訪れた、トランクの父親がいた。息子の元・婚約者であったアイリスと並んで話をしているようだ。


(え!? どゆこと?)


 二人は堂々と“カップル繋ぎ”をしていた為、ローズはお茶を吹きそうになった。


「サザランド伯爵は仕事にのめり込み過ぎて、奥様に離縁されて長い間独身です。アイリス嬢は学園卒業後に魔術師団に入団が内定しているので、良い組み合わせかも知れないと、陛下も仰っていましたね」


(ああ、この社会って成人が十五歳で、結婚して第一子誕生が十八歳位が平均って感じだからね。最初の息子が成人しても、父親であるサザランド伯爵はまだ三十代だもんなあ〜)

(攻略対象の【トランク】はヤンデレで、アイリス様もどちらかというとその傾向があって、あの元・魔術師団団長もそっち寄りの言動で……。うん。本人達がいいなら、いいか)


 何だかんだいって、友人達も新しい幸せを掴めそうでほっとするローズ。


(私は……?)


「大丈夫ですよ」


 ローズが我が身の振り方を考えようとした刹那、リンデンが甘く囁く。あり得ないタイミングに、ビクリと体を震わせるローズであった。



 ★★★



 クライマックスに、セレステブルー湖を半周する『ナイアガラ』。大トリに『四尺玉』の打ち上げ花火で、屋外での全てのプログラムが終了し、殆どの人が舞踏会参加や宿泊の為、『ガンバン』へと流れて行く。

 また、平民の兵士や冒険者達の酒宴会場は、一番近くの町の広場の為――実は今も町の住民達の無事を祝う祭りが行われている――彼らや東の大陸のテキ屋隊は転移魔方陣を利用しに、いそいそと『ガンバン』へ足を向ける。


 彼らの移動する気配を感じつつも、最後の大魔法連発で、ローズはダウンしていた。


「うー……」

「お嬢ちゃん、お疲れ」

「良い物を見せて頂きました。感謝します」

「写真も沢山撮れました。セレステブルー湖に映る花火もいい感じです。後でプリントしてお渡ししますね」

「……おネガイします」

「おー、まずは休め。食うモンはまだあるから、安心しろ」

「ハイ」

「ローズ嬢、魔力回復薬をどうぞ」

「ありがとうございます」

「それを飲んだら近くで横になりませんか? 星空が大変美しいですよ」


 勧めに従って、魔力回復薬を飲み干すローズ。続くリンデンの言葉は、頭の回転も鈍っている為に、今一つ考える事が出来ない。

 ローレルはスワンを『ガンバン』に送って行ったので、この場のリンデンのお目付け役はホーリーだ。リンデンのこれからの予定と、暴走が容易に予想される下心への対処に頭を悩ませる。

 ホーリーの逡巡を感じ取ったのか、ハレが提案をする。


「宜しければ、私がとっておきの場所に案内しましょうか?」

「とっておきの場所、ですか?」

「ええ。私がドラゴンの姿に戻り、湖の上に寝転がるのです」

「え! あの、リリー様が幼い頃に体験したという『お昼寝』ですか!?」

「そうです。ローズさんには素晴らしい花火を見せて頂きましたから、そのお礼です。大丈夫です。ドラゴン本来の姿になった私が、滅多な事は起こさせませんよ」


 ホーリーはこの上ない抑止力に、感謝の意を込めて頭を下げる。

 無邪気に喜ぶローズと、彼女を眩しく見詰めるリンデンは、その事に気が付かない。


 ハレが先に歩き出し、ローズを支えるリンデンがそれに続く。

 テントから出ると直ぐにドラゴンの姿になり、湖面に仰向けに寝転がるハレ。手にリンデンとローズを優しく掴み、自らのお腹の上に乗せて、湖の中央へ向けて器用に進み出す。

 ローズとリンデンはドラゴンのお腹の上に、やはり仰向けに寝転がり、星空を見上げる。

 徐々に湖畔の明かりから遠ざかり、視界の端にも湖面に映った星々が見えるのは幻想的で、正に地上の楽園に相応しい景色だった。

 更にドラゴンの鼓動と巨大な生命力に包まれる感覚は、唯一無二の神秘的な体験となっている。


「すごい、綺麗……」

「ローズ嬢は見たいと仰っていましたものね」

「はい! これ程貴重な体験が出来るなんて、夢みたいです」


 リンデンはローズの片方のてを掴み、そっと握り込む。


「魔力……体調の方はどうですか?」

「今は、もう大分いいです」

「そう、安心しました」


 キラキラした瞳で夜空を見上げるローズの様子は、本当にもう大丈夫そうだった。

 その事に安堵をしつつ、リンデンはローズの姿をじっと見詰め続けるのだった。


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