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012 イベント終了「ローズ は 新しい魔法 を つくった」



 ★★★



「『ヒロインんん』!!!!」


 ローズはカタチにしたソレを、ピーチへ向けて放り投げる。

 その場にいた全員が視線を向けると、グレープフルーツ大で黒くて丸くて、ヘタのように見えて、その実、火を吹いているモノが、ピーチの頭上に落下する様が見えた。

 ほとんど人にはその正体がわからない為、反応が出来ない。

 ピーチは心当たりがあるのか、目を見開いたが、自身の魔法を手放せずに、何の手も打てなかった。

 ピーチの髪の毛に触れた瞬間、爆発した魔法を、一同はただ見守った。


 全身を黒い煙に包まれるピーチ。足元の光は消え失せて、魔法のキャンセルが出来た事に、胸を撫で下ろすローズ。


「おお、私のピーチ……。ローズ! 貴様ぁー!」


 騎士達に拘束されていなかったアコナイトは、激昂し、腰に佩いていた儀礼用の剣を抜いてローズに襲い掛かろうとする。

 ローズを庇うように抱き締めるリンデン。

 あっという間に無力化して、アコナイトを拘束するローレル。


 そうこうしているうちに、ピーチだけを包み込んでいた黒いモクモクの煙が、雲散霧消していく。

 リンデンの腕の隙間からその様子を見ていたローズの表情は、驚愕の色に染まる。


 果たして、そこにいたのは――


「……アフロキターー!」


 ローズは叫ばずにいられなかった。人体に直接影響の少ないオシオキをしようと、魔力を練り始めたのだが、今のローズはゲーム中と同じ『花火』の完全再現は出来ていなかった。炎特化では火傷なんかじゃ済まない。『熱』で生命維持に支障をきたさない部位……。たどり着いたのは『アフロ』だった。

 『アフロ』だったのだが……。


(私はごくごく一般的なアフロを想定していたのに。あの、丸いやつね。なのに、何故……?)


 ピーチの髪の毛はくるくるのアフロだった。しかも、誰がどう手を加えたのか解らないが、『桃』型に形成されていた。ピンク系の髪色も相俟って、マジ『桃』だ。


(いや、私、『アフロ』しか練っていなかったよね?)

(ちょっと待っておかしい。髪にだけ影響が出るように指定した筈なのに)

(いやいやいや、ツッコミが滞る。次々行こう!)


(顔が煤けるのは、まあ百歩譲ろう)

(その、フレームがぐにゃぐにゃで、レンズが割れて黒く汚れている眼鏡はナニ?)

(『ヒロインんん』眼鏡っ娘属性じゃなかったよね? つけてなかったよね? どっから召喚した!?)

(ドレスが見る影もない。あちこち煤けて、所々裂けていて)

(ガーターが、せくしーですね)


 ここまでのローズの脳内ツッコミは、僅か数秒。


「(……ボフ)」


 『ヒロインんん』が、煙を吐き出しながら咳き込む。


(……!? 私、口から煙を吐き出すような術式なんて、マジで組んでない!)

(いや、それよりも何よりも。ご丁寧に、前歯の一本だけを黒く塗り潰すとか……)


「ぶっ……!」


(もう……ダメ、限界……!?)


「……クッ……ふふっ……、ハッ! アハハハハハ……!! すごい『ヒロインんん』スゴすぎる! なんて完璧な『爆破オチ』! アハハ……! 『笑いの神』の加護がハンパない!」


 この時、部屋にいたある者は、ピーチの劇変に目を見張り、ある者はローズの大爆笑に戸惑いを見せ、またある者はピーチから不自然に目を逸らし、必死に笑いを噛み殺していた。


「あはははは……もうダメお腹イタ……!? 痛っ、ちょっ、腰痛い、イタイ。うわーん、助けてリンデン王子〜!」


 リンデンにしがみついたまま――抱き締められたままだったのだか――笑っていたローズは調子に乗り過ぎて、本日何度目かの助けを求める。

 リンデンは苦笑を浮かべて、ローズの髪を手櫛で梳かす。


「ローズ嬢には、私が傍に付いていないとダメなようですね」


 そう、耳元で甘く囁き、ローズを抱き締めた状態のまま、腰に手を回して青色の魔力を流し始める。


「……両親の目の前なんだけどねぇ」


 疲れたように呟くホーリーと相槌を打つローレル。


「そろそろ誰か止めるべきであろう」

「それは君の役目だろう、ローレル」

「俺か!? 俺かぁ……」


 ローズとリンデン、ホーリーとローレルが別空間の雰囲気を漂わせた頃になって漸く、復活したピーチ。


「もーー! 何なのよ一体。ちょっとローズ! あんたが悪役令嬢の役目をキッチリ果たさないから悪いのよ! ヒロインである私を差し置いて階段から落ちたりするから、イベントもシナリオもめちゃくちゃじゃない! どうオトシマエつけてくれるっていうのよ!」

「『ヒロインんん』後ろー!」

「ハァ!?」

「後ろの姿見を見よ、桃キャラめ」


 指図を受けるのは気に食わないが、自分の出で立ちに違和感を覚える為、ドスドスと姿見の方へと向かい、自分の様相を確認するピーチ。


「なっ……ナニよコレぇーー!! 何でこんなへんちくりんな姿なのよー! こんなの、ヒロインとしてイケメン達にチヤホヤと貢がれる宿命さだめの元に生まれてきた、ピーチ様に相応しくないわ!」


 ピーチは姿見に向かって、謎の眼鏡を投げ付けて、髪をわしゃわしゃと掻き毟る。

 ローズが時間を掛けて魔力を練った成果か、眼鏡は消えないし、髪は形状記憶合金の如く『桃』型に戻った。


「……リセットよ! やり直しを要求するわ! その為の【奇跡】よ? ローズが転生者なのが悪いのよ。ピーチはね、ピーチが真にヒロインとして好き放題生きられる世界に行くわ。泣いて引き留めたって、許してあげないんだから」


 そう口にして、窓を開けて身を乗り出すピーチ。


「バッハハーイ!」


 刹那、光属性の目眩まし魔法を無詠唱で発動させるピーチ。

 然程の威力ではないが、それでも他の人達の動きを封じるのには役に立つ。


 光が収まり、皆が目を開けられる状態になって、窓辺に目を遣る。

 そこには、全身を黒装束で纏め、かつ覆面で素顔を隠した人物が、気絶している様子のピーチを床に寝かせて、左手首の『女神の雫』を取り外していた。

 ピーチを取り逃すという失態は免れたが、突然の侵入者に、ピクリと反応するカーティス公爵家の面々。


「助かったよ」

 言いながら覆面の人物に近づくローレル。

「こちらを」

 覆面の人物――壮年の男――はくぐもった声を発して、ローレルに『女神の雫』を渡す。


「王家の“影”ですか」

 硬い声を発するカーティス公爵。

「ええ、勝手をして申し訳ありません。逃げられたら面倒だと、外に待機させていました」

 悪びれずに答えたのはリンデン。


「いえ、ご慧眼に感服致しました」

「陛下へ“伝えて”」

「御意」

 リンデンに頭を下げた後、窓から去って行く覆面の男。きちんと窓を閉めて行ったのは律儀である。


「ローリー男爵令嬢を連行しろ。アコナイト王子。残念です。陛下の指示通り、拘束の上連行させて頂きます」


 宰相の指示を受けて動き出す騎士達。特に抵抗する事なく連行されていくアコナイト。

 去っていく彼らを横目にしつつ、壁際に控えていた執事に目で合図を送るカーティス公爵。

 執事はカメリアの前に立ち、一つの宝石箱を差し出す。


「それに見覚えはあるか、カメリア」


 執事から箱を受け取り、中身を検める、カメリア。


「もちろんですわ。以前に旦那様が贈って下さった誕生日プレゼントですもの」

「普段は何処に置いていた?」

「衣装部屋の中の、鍵の付いた戸棚の中です」

「それは、スプラウト商会の金庫の中から出てきた」


 父、カーティス公爵の硬質な声を聞いて、肩を震わせる――『ヒロインんんと愉快な逆ハー達』の中で唯一、拘束も連行もされていなかった――ウィロウ。


 末子の様子を見て、彼が何を仕出かしたか察した一同。

 カーティス公爵は、執事に再び目を向ける。

「カメリアと共に一通り確認してくれ。――メイプル」

「はい、旦那様」

「ローズの、着られなくなったドレスなどを覚えているか?」

「仕立てた年、手掛けた職人、色や形などの特徴、着用して参加した行事などを、控えて纏めたものがございます」


 メイプルの言葉に驚いて、彼女の方を振り返ったウィロウの表情が、全てを物語っている。


「確認してくれ」

「直ぐに取り掛かります」

「こいつも連れて行け。牢の準備は万端だ。その点は安心していいぞ、ウィロウ」

「父上……」


 一連の親子の遣り取りを見守りつつ、待機していた騎士達が動き出し、ウィロウを拘束して後、部屋から連れ出して行く。


「ホーリー。手伝え、仕事だ」

「あー、二〜三日で終わる規模じゃないですよね」

「当たり前だ。私だって既にもう頭が痛い」


 言いながら部屋を去って行く二人。

 仕事を割り振られている面々も続いて退室していく。



 ★★★



 部屋に残ったのは、ローズ、リンデン、ローレルの三人。


「ローレルも、城へ帰ればいいと思うよ」

「私は兄上の護衛ですから」

「今、カーティス公爵家には人もいっぱいいるから。お構い無く?」

「人が大勢いるからこそ、統制が取り辛く、隙を突かれる事になり、危険なのです」

「隙があるからこそ、モノにするチャンスなのだろう?」

「兄上はナニをなさるおつもりなのでしょうか?」

「ナニって、治療」

「お時間はどれくらい掛かりますか?」

「……真面目な話。さっきの様子だと、掛かり切りで二晩」


 ローレルは首を横に振って、預かっていた『女神の雫』をリンデンに手渡す。


「使って下さい」

「これを使うのは、国の一大事の時だろう?」

「一国の皇太子があのザマなのです。今後の後継者問題の事もあります。陛下のお力になる為にも、なるべく早く帰城しましょう」

「だから。ローレルは先に帰ればいいと思うよ」

「〜〜兄上! 大概になさって下さい。一晩位ならともかく、それ以上になる場合は、他の回復術師が派遣されないとも限りませんよ」

「ハァ……。分かったよ一晩はしっかり役割を果たすとしよう」


 リンデンは左手首に『女神の雫』を装備して、青い魔力を流しながら、ローズを再びうつ伏せに寝かせる。


 それから、再び“あの”治療を始める前に、カメリアに同席してもらうべきだなんだと揉めたり。


 時折休憩を挟みつつも、何とか腰骨と右腕の治療を夜明け頃に終えたリンデンは、魔力枯渇で倒れそうになった事をこれ幸いとばかりに、ローズと同じベッドで休もうと潜り込んだり。


 リンデンを引き離そうと、ローレルとカメリアの説得の最中、王命を受けた近衛騎士団の副団長も加わって、混迷を極めたり。


 最終的には、ローズの意を汲んだメイプルの、


「このままでは、ローズお嬢様の熱が上がってしまいます。今はどうか休ませて下さいませ」


 この一言でリンデンは引き下がり、ローレル等と共に帰城して行った。


 ローズにとっても長かったイベント日は、日付を跨いで漸く終了したのだった。



 お読み下さって、ありがとうございます。


 ここまでで、第一章が終了です。

 『悪役令嬢・婚約破棄』を殊更丁寧に、ネチネチと執筆したらこうなるだろう、という一例ですね。

 主要キャラクターと脇役(大人達)の温度差が半端ない。


 まとめて投稿なのは「間」が空くとより一層、辛くてキツイようなので。

 それに伴い、「004」以降の後書きを削除します。

 作者自身も、携帯でポチポチしていて、


「万人受け。ナニソレ、美味しいの?」

「賛否両論は免れない」


と、感じています。


 ただ、『完結』までは投稿します。それによって明確になる事もあります。


 引き続き、読んで下さったら、嬉しいですし、幸せで、感謝です。


 これまで、ご意見・ご感想・ご指摘・等、ありがとうございます。

 ただ、『完結』までは感想欄を閉じたいと思います。申し訳ありません。


 次回からは

『セレステブルー湖編』

です。

『ハラスメント&下ネタ注意→リンデン王子』

の比重が“ましまし”します。


Q.結局『ヒロインんん』とは?

A.「叫び」です。

声に出して叫びたいキャラクターを目指したかった。……音読前提?


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