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001 二つ名は『薔薇炎』

 初投稿作品になります。


 私も読んでいて、楽しませてもらった、悪役令嬢・婚約破棄モノです。


 作者自身は乙女ゲーム未プレイなんですが。

 私もこんな小説を書きたいと、ネタを考えてたら、つい。


 楽しんで戴けたら嬉しいです。


 ※話の区切りで投稿予定の為、各話ごとの分量はまちまちになるかもしれません。


 かつて、大陸を守護する『白の精霊』により救われた存在がいた。

 その者は恩義を返す為に精霊の元で働き、友誼ゆうぎを結び、信頼を深めていく。

 やがて『白の精霊』が住まう尊き森の管理を、一部ではあるが任されるようになった。

 それは子々孫々《ししそんそん》の代まで、の存在の血を引く者が当地に国をおこし、王として君臨する今も続いている。


 大陸を守護する『白の精霊』こと、ホワイトドラゴンと誓約を交わした者が治める国――フォレスト王国。


 中央大陸・南西部に位置し、近隣では最も古くから存在する国である。

 特筆すべきは『大陸西部の食料庫』とたとえられる程の、農作物及び食品の生産力。自国のみならず、周辺国の胃袋を支えていると言っても過言ではない、一大輸出国だ。


 今現在は国内外に大掛かりな戦などもなく、豊かで、平和な国を保っている。

 ……一見すると、ではあるが。



 ★★★



 十四歳以上の貴族子女、及び優秀な平民が四年の歳月を費やして国内最高峰の教育を受けられる、全寮制の国立シード学園。

 王都の端、王城の裏手に位置し、騎士団との合同訓練施設や各種研究設備も含め、広大な敷地面積を有している。


 その学生食堂、二階の一角。夏期休暇前に行われる試験の全日程が終了し、ささやかながら慰労会を行うクラスがあった。

 緊張から解き放たれた生徒達が特別メニューのランチを食した後、デザートとハーブティーを楽しみ、朗らかな笑い声を響かせている。


「ローズ様の炎の魔法は、本当に素晴らしかったですわ」


「ええ、ええ! 先生が『一番最後に』と指示を出したのもわかります。私がもしローズ様の後に披露する事になったらと思うと……見劣りするのはわかり切ってますもの。きっと泣き出していた事でしょう」


「私も」


「私もですわ」


 と、口にする少女達。少し離れた席に着くクラスメート達も、声には出さないが「うんうん」と内心で盛んに首を振っていた。


 生徒達の中心となっていたのは、魔法実技で最高の成績を叩き出した、ローズ・カーティス。


 腰まで伸ばした艶やかな紅髪は、毛先の方だけリスの尻尾の様にくるりと巻かれ、動くたびにフワフワと弾む。きらめく琥珀色の瞳、通った鼻筋、ふっくらとした唇。顔かたち、全てのパーツが整っている。また、すらりとした背丈にコルセット無しでも申し分のない、メリハリのきいたボディライン。

 その名に相応しく人目をき付けて止まない、華やかな雰囲気を持った美少女。

 唯一、透き通る白い肌とは言えないのが難点だが、それが名誉の負傷のようなものだと親しい人々は皆知っていた。

 名門カーティス公爵家の出身で、知識・教養・美貌びぼうの全てを兼ね備えた、非の打ち所が無い令嬢である。


(おおう。悪役令嬢とは思えぬ称賛。いやはや、照れるぜ)


 ローズは内心でこんな事を思いながら、そんな気配を微塵みじんも感じさせる事なく、優雅にハーブティーを口に運んだ。これがストローのささったグラスだったら、確実にぶくぶく息を吹いていただろう。実際はそれくらい、居たたまれなさを感じているのだけれど。


「まあ。皆様も効果の高い魔法を、先生の前で堂々と成功させていたではありませんか。私の方こそ、一番最後の順番になってひどく緊張致しましたわ。私のはその、実戦で鍛えられましたが、戦闘に片寄っていますから……」


 ローズの言葉を耳にした友人のリリーが、手を叩いて声を上げる。


「春の魔物の大発生! 兄達が駆逐くちく作戦に参加しておりました。一見普通の【ファイヤーボール】が打ち上がったと思ったら、蕾がほころぶ様に炎の薔薇が咲いたと。知能低いゴブリンやオークでさえ見惚れる様に立ち止まり、赤・青・白の花弁に手を伸ばしたそうですね」


 魔法実戦コース所属の生徒の中には、リリーの他にも身内や婚約者が駆逐作戦に参加した者がいた。生きて帰還した彼らから話を聞いていたクラスメート達は、リリーの話に相槌あいづちを打つ。

 そこに、他の生徒達と同じ様にうなずきつつ「ふふっ」という笑い声を上げたのは、ローズの向かいの席に着いている友人のオーキッド。

 彼女は笑顔を浮かべ、リリーに続いて楽しげに話し始めた。


「国中の吟遊詩人が高らかに歌っておりますわ。幻の様に儚い炎の薔薇に触れた魔物は、揺らめく炎と同じく跡形も無く消え去ったと」


 オーキッドの言葉に実際の魔法を思い出したのか、クラスメート達から興奮した声が上がる。


「先程の実技試験はホンモノを見せて頂いた」


「家族に自慢しなくては! 薔薇に加えて火の鳥が羽ばたくごとに、舞い散る炎が的を彩るのをこの目で見たと」


 更に魔力を視る事にけた一人の男子生徒の呟きが、ぽつぽつと届く。


「急所への確実な着弾。一見すると大小不揃いに見えた炎だが、込められた魔力量はほぼ均一。最初から最後まで乱れぬ集中力。王国随一の炎の使い手と呼び名高い。さすが……」


 この時、称賛の声を浴びていたローズ以外の生徒達の心は、一つになった。


『さすが、我らが戴く未来の国母に相応しい』


 と。


 ローズの優美な微笑み――誉められて、耳までほんのりと赤く色付いた彼女を見ればなおのこと。

 おごらず謙虚に、「高貴なる者の務め」を果たし続けるローズに、クラスメート達は尊敬の念を送る。


『未来の国王がアレとかマジでナイわー、だけど、ローズ様が妃ならまだ……。ローズ様ガチで戦神! あの魔法で婚約者様を爆散させて下さったら生涯の忠誠を誓います』



 ★★★



 フォレスト王国・国立シード学園。現在の最高学年で魔法実戦コースに所属する生徒達は、たった一人の男子生徒を除いて、ローズのシンパと言っても差し支えがなかった。

 現在進行形で『あるイミで電波病』を患っている一群――『ヒロインんんと愉快な逆ハー達』――を、学園が抱えている為である。

 クラスメートの声にならない声を空気で感じ、ローズは宣言のように口にした。


「……ええ。国防の一助をになえるよう、持てる力を尽くさせて頂く所存よ」


 皆は知らない。


(最初は普通の【ファイヤーボール】だったんだけど。魔力枯渇でぶっ倒れるごとに魔力総量が増加。ラノベ知識も役に立つのね)


(途中から単なる炎に飽きていたのは認めよう。魔力総量にモノを言わせて遊び始めました)


(最初の魔力枯渇で意識が朦朧もうろう中、魔物の一撃で死にかけたのが良くなかった。前世の厨二病は、それ自体が【不治】のスキル持ちに違いない)


(さっきの試験も。待機時間が長そうだからと魔力を練り始めて……。さァーセン、調子乗りました)


(違うの! いや、何がだよ!? 私の魂に根付いた厨二の精神が、転生チートを発揮しろとたき付けるの!)


(だが後悔はしていない!)


 今のローズの心中は、こんなセリフでいっぱいなのだ。

 また称賛と高揚に浮かれつつある一方で、やっぱり前世日本人として生きていた時の性格の一部――それとおそらくローズの元々の気質――が、「チョーシのんな」と背中に冷や汗をかかせ、地に足を付けさせている事を。





 読んで下さって、ありがとうございます。


 二つ名の読み方は

薔薇炎ばらえん

かな。


 作中はゲームにならって、謎言語を使用している設定ですが、日本の言語や文化が入り込んでもいます。



20161124 20時過ぎ

 加筆修正版に差し替えました。



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