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溺れる

作者: ParticleCoffee
掲載日:2014/09/03

 幼い女の子がプールでおぼれていた。

 水をはね上げてもがきまわることもない。

 手を振りまわして暴れることもない。

 声を出して助けを求めることもない。

 水中で、ただひたすらにカラダをのけぞらせて、ただひたすらに水面を求める。

 そうして水上へ顔だけを出し必死の思いで息を吸う。そうしてすぐさま沈んでいく。

 おぼれる女の子はそれだけを繰り返していた。

 大人の首近くまであるプールだ、子供が泳げるような場所ではない。

 女の子から離れた位置に浮き輪が漂っている。

 かわいいキャラクターがたくさん描かれたピンク色の子供用の浮き輪だ。

 周囲の人が手に取らないところを見ると、おぼれている女の子のモノだろう。

 プールにはたくさんの人間がいたが、ダレも近づこうとはしなかった。

 女の子を中心とした半径二メートルのバリアが張られているかのようだ。

 ダレも女の子を助けようとはしない。もちろんボクもだ。

 結果にかかわらず下手に手を出せば面倒なことに巻き込まれるという意識があった。

 こういう場合、保護者は、『目を離していた』という自分の非を避けるためには手段を選ばない。

 『アイツが女の子にイタズラをした』『アイツがおぼれさせた』、そんなエン罪をかけるだろう。

 深いプールに子供をひとりで置き去りにするような保護者ならなおさらだ。

 心配そうに見る人間もいたが、周囲からの強い同調圧力にくっせざるをえなかった。

 女の子の顔が水面に現われる間隔が徐々に長くなっている。

 三十秒間に一度程度だった呼吸が、いまでは、一分間に一度程度にまでなっていた。

 プールの外周に監視員はいない。意図的にこのプールを避けているのだ。

 監視員も周囲の一般人と同様に助けるつもりはなかった。

 たかがバイトで子供の命の責任なんて負わされたくはない。

 これだけ客がいるのだ、ダレか助けるだろう。

 最悪死んでも責任を取らされるのは、運営会社と委託企業ぐらいだろう。

 その下請けの会社に夏だけ雇われている自分たちではない。

 そんな考えだったのだ。

 ついに、女の子が顔を現さなくなった。

 水中の見える範囲に姿はなく、気泡すら昇っては来ない。

 浮き輪もどこかへ流されてしまった。

 女の子のいた場所の近くには排水溝があったはずだ。

 水の流れに捕まり、肺に空気のない状態。

 もう自然に浮かび上がってくることはないだろう。

 プールに平穏が戻ったが、女の子の張ったバリアはあいかわらず人を寄せ付けない。

 しばらくすると若い女性があらわれた。

 クレープと紙コップをふたつずつもち、プールサイドを歩き回っている。

 キョロキョロとプールの内外を見回しながらなにかを探している様子だった。

 見つけることができずに、今度は周りにいた人間に片っ端から聞いて回っている。

「ここに小さな女の子が居ませんでしたか?」

 女性の言葉に、聞かれた人間は異口同音に「知らない」と答えた。

 そうこうしているうちに、ボクにも順番が回ってくる。

「小さな女の子見ませんでしたか?ピンク色の浮き輪を――」

「そこでおぼれて沈みましたよ」

 バリア地帯を指さして答えた。

 女性は、一瞬の驚きの表情のあとに笑みを浮かべる。

「貴方は正直者です。金の私の娘と、銀の私の娘と、普通の私の娘を差し上げましょう」

 女性とボクのあいだに突如として子供があらわれる。

 さきほどまでおぼれていた少女が三人、目の前に立っていた。

 黒、銀、金と髪のカラーバリエーションが違う。

 笑顔の金銀とは対照的に、さきほどまでプールの底にいた黒髪は苦しげなせき込みとともにプールの水を吐いていた。

 すぐに顔を上げたが女性はいなくなっている。

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