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恵太のことを考えてみた。

「むぅ……」


僕は今、家の窓の外を見ながら恵太の帰りを待っている。


窓にひじを突いて、目の前の街道を眺めている。


恵太が今日は5時頃に帰ってくるって言ってたからもう直ぐ帰ってくるはずだ。


まだかな… 


まだかなぁ。


「早く帰ってこないかなぁ…」


天空レストランでの誕生日から… 一週間がたった。


僕が恵太を意識してしまってから、一週間がたった。


あれから僕は…… 変わった。


変わってしまった。


僕の中にあった恵太への気持ちが…… 僕の心が……


大きく…… 変わってしまったのだ。


そして違うのだ。


今までの男であった僕とは…… すべでが違ってしまたのだ。




前までは恵太と向かい合って話していても、普通に話せていた。


でも今は恵太と話すことができない。


会話中も恵太と目があわせられないし、恵太の声を聞いているだけで胸が熱くなってくる。



前までは恵太と気軽に触れ合っていた、スキンシップをしていた。


でも今はとてもじゃ無いけどそんな事は出来ない。


おととい、恵太が僕の頬に不意に触れた事があったけど、なんだか恵太が触れたところはじわりと熱く感じて…… 


ドキドキして心臓が苦しくて……


多分、抱きしめられたりしたら…… 僕はおかしくなってしまう気がする。



前までは恵太の親友としてそばに、そして隣にいることが出来た。


でも…… 今は……


もう、僕は親友にはなれない。


恵太にこんなに卑しい感情を抱いてしまっている僕は、もう恵太の親友だったころの僕じゃない。


男だった僕が、女として恵太に恋をしてるなんて…… 恵太も…… 


気持ち悪いと思うよね……


僕は本当はもう…… 恵太の隣にいる資格なんて無いんだ。


勝手に馬鹿なことして女になって。


恵太を一人で働かせて、役たたずでただ飯ぐらいの僕のを養わせて。


しかも恵太に…… 僕は愚劣な感情を抱いてしまっている。


僕は……


僕は最早、恵太にとって迷惑な存在でしかない。


恵太にとって害悪な存在でしか…… ない。



そんな負い目と、恵太に恋焦がれる気持ちが僕の中でせめぎあって、ずっと心が…… 苦しい。


でも……


そんな風に思っていても。


いけないと思っていても……


恵太の隣にいたいと思ってしまう自分がいる。


恵太にとって邪魔な存在でしか無いって分かっていても、恵太の隣にいることをやめられない…… 離れられない。


だって……









恵太が好きなんだもの。









恵太を男として見てしまってから…… 際限なく加速し続けてるこの気持ち。


今までの恵太への信頼とか、今までの恵太との思い出とか、これまでの恵太の優しさとかが……


そのすべてが「好き」っていう気持ちに飲み込まれて混ざり合って…… 僕の中で膨張し続けている。


大きくなりすぎて……  もう、張り裂けてしまいそうだ。


会いたい……


恵太といると、申し訳なくて苦しくなるけど。


でも…… それ以上に恵太と一緒にいたくて仕方が無いのだ。


体が、心が、恵太を焦がれているのだ。


恵太と一緒にいる苦しさよりも、恵太と一緒に入れない苦しさの方が遥かに大きいのだ。


胸が…… 切なくなってしまうのだ……


本当に僕は…… なんて自分本位な人間なんだろう。




僕は本当に変わってしまった…… 




もう今までの自分とは違ってしまったのだ。
















「あ…………」


恵太だぁ……
























ああ……


ダメだ、やっぱり恵太を見ただけで……


恵太が帰ってきてくれてるだけで、僕の心は全て恵太のことで埋め尽くされてしまう。


散々自己嫌悪してても…… 恵太が帰って来ただけでそれが吹き飛んでしまう。


僕はもう…… 本当にどうしようも無い。










「はぁ……… とりあえずお鍋に火をかけなくちゃ……」


恵太の晩御飯を…………………ん?


「誰か……… 一緒にいる……?」


遠くに見える恵太は…… もう一人違う人を連れていた。


しかも…… 多分……


「女の…… 人?」


なんだこれ…… 胸がざわざわして…… むかむかする。


胸が……


苦しい。


――――


「シノ、紹介しておくよ…… 最近良く一緒に仕事しているシャリアさんだ」


「初めまして、シャリアです」


「はじめまして…… し、しのです」


今、僕達の家のリビングで、僕と恵太とシャリアさんが腰掛けている。


シャリアさんがテーブルの向かいに座り、僕と恵太がこちら側に座っている。


いったいこの人は…… 誰なのだろう?


「えっと…… それで… どうしたの?」


僕は隣に座っている恵太をチラッと見る。


本当に何なんだろうか?


も……


もし…… この人と付き合うんだとか言われたら……


僕…… ど、どうしよう!?


「ああ…… 実はだな…… 明日家に帰ってこれないかもしれないんだ」


「え…… ど、どういうこと、えぇ…… デ、デートとかするの? こ、この人と付き合うの!?」


僕は全身からサーっと血が引くのを感じる。


なんだか体が…… 震えてきた。


「お、おい? どうした? 顔色悪いぞ」


「え? い、いや… 大丈夫だよ…… それよりどうなの? や、やっぱりデートなの?」


「デート? いや違うよ、何言ってんだお前は…… シャリアさんに失礼だろう」


「ふふ…… かまいませんよ?」


「え? デ、デートじゃ…… ないの?」


「ああ、違う」


そ、そうなんだ…………………… はぁ。


よ、よかったぁ。


「実はな…… ライナーさんっていただろ?」


「え? あ、ああ…… 僕たちが駆け出しの頃にお世話になった人だよね?」


「そうだ、実はそのライナーさんの息子がさ…… 病気になったんだって」


「そうなの!?」


「ああ、それで、その治療に必要な薬草が生えるアカツキの森まで行かないといけないんだってさ」


「アカツキの森って…… あのA級ダンジョンの!? あんな危険なところに行くの!?」


「そうだよ、でもまぁ、うちのギルドきっての精鋭で行くから問題はなさそうなんだけどな」


「そ、そうなんだ……」


「だけど、どうしても日帰りじゃ無理そうでさ、明日出発して、明後日の夜までかかりそうなんだ」


「う、うん…… わかった…………… えっと、つまり明日は帰ってこれないんだね?」


「ああ、そうなんだ…… どうだ? 大丈夫そうか?」


恵太が少し不安そうな顔をして僕に尋ねる。


僕はそんな不安そうな恵太を安心させるために、笑顔で「大丈夫だよ、心配しないで行ってきて」と言おうとした……


「えっと……」


しかし、僕の体は勝手に恵太から目線をそらし不安そうな表情を浮かべてしまう。


何をやっているんだ僕は……


ライナーさんには僕もお世話になってるし、それにどんな理由があろうとも僕が恵太を引き止める原因になんかなっちゃいけない。


僕が恵太の自由を奪ってはいけない。


恵太の足かせに、恵太の迷惑になんかなっちゃいけない。


恵太はやさしい…… だからきっと僕に対して迷惑だなんて言わないだろう。


だから…… だから僕から恵太を気持ちよく送り出していかなきゃならないのに……


なのに…… 分かってるのに…… なんで…… なんでこんなに不安なんだ。


なんでこんなにも、たがが一日恵太が帰らないだけなのに…… こんなに嫌なんだろう……


「シノさん?」


「は、はいッ!!」


僕がそんな風なことを考えながら押し黙っていると、不意にシャリアさんが僕に声をかけてきた。


「そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫ですよ? 恵太さんは必ず私が守りますので、そんな不安そうな顔をせずとも大丈夫ですよ?」


「え…… あ、はい」


「必ず恵太さんを無事に連れて帰りますからね?」


「いやいや、シャリアさん…… 別にそんな守る必要とか無いですからね?」


「ふふ、分かっていますよ…… 恵太さんはお強いですものね?」


そう言って笑いあう二人。



なんだこれ……


なんで…… 恵太……


うわ…… なんか、やだ…… そんな顔…… 他の人にしないでよ……



「シノ…… それで、その…… 大丈夫そうか?」


恵太がまた不安そうな顔で僕に聞き返す。


うん…… 分かってるよ。


ごめん…… 僕が恵太と離れたくないだけなんだよ。


ごめん……


人の命がかかってるんだもん。


行かないわけには行かないよね?


当然だよ… わかっては… いるんだ。


「うん、大丈夫だよ一日くらい! 気をつけて行ってきてね?」


ただ…… 恵太がどこかに行ってしまいそうで…… 僕のところに帰ってきてくれないかもと思うと……


怖いんだよぉ。


「…………………………っ」


恵太に微笑んでそう言う僕と、そんな僕を不安そうに見つめる恵太。


その時……


そんな僕ことを冷たい視線で見つめているシャリアさんに…… 


僕は気付いていないのだった。


――――


「これ…… いったい何なんだろう?」


僕は一枚の手紙を広げ考えこんでいた。


今、僕はリビングのテーブルに座り、手紙を広げている。


恵太は今風呂に入っていて、リビングには僕一人だ。


この手紙は、シャリアさんがこっそり僕に渡したもの。


先程、帰宅したシャリアさんが僕の手に握らせて「後で一人で見てくださいね?」と言って渡してきたものだ。


シャリアさんは今日、どうやら明日の仕事の打ち合わせを恵太としに来たみたいで、それが終わると直ぐに帰宅をしたのだ。


恵太と二人でパーティーの後方支援を勤めることになっているシャリアさん。


今の恵太の相棒は…… シャリアさんなんだな。


「にゃぅ……」


僕は何となく湧き上がってきた切ない気持ちを押さえ込んで、とりあえず手紙を開く。


シャリアさんはいったい僕に何を伝えたいんだろう?


「にゃ?」


しかし…… 開いた手紙の中には何の文字も無かった。


白紙だったのだ。


おかしいなと思い、その手紙を眺めていると…… 不意に手紙が輝いた。


「にゃ!?」


そして、その光と共に、頭の中に声が入り込んでくる。


その声は…… シャリアさんの声だった。


「こんばんは、シノさん


まず手紙を開いてくれてありがとう


この手紙は、開いた特定の対象の脳内に秘匿メッセージを送る魔法書類です


そして…… 今回この手紙であなたに伝えたいことはただ一つ


あなた…… 恵太さんの下から離れてください」


頭の中に響く、怒りを孕んだ冷静な声。


僕は…… 


その声がつむぎだす言葉の意味を反芻して……


「……………ぇ?」


絶句をした。


「あなたが恵太さんの下に来てから、恵太さんが簡単な依頼しか受けてないのをご存知ですか?


恐慌のバットステータスだかなんだかは知りませんが、恵太さんはあなたを心配して、日帰りでこなせる仕事しか請けなくなってしまったのです


本当は今回のように、高難易度の依頼を受けてしかるべき実力を持った方なのに……


わかりますか? あなたのせいで恵太さんはその素晴らしい才能をいたずらに浪費し、そして恵太さんの助けを望み欲している人々の手を跳ね除けているのです


この意味がわかりますか? つまり、あなたは……


恵太さんにとって、そいて多くの助けを求める人にとって害悪でしかないのです


恐慌のバットステータスなんて、ご自分の問題でしょう? ご自分でなんとかしなさい


もしくは恵太さん以外の誰かを頼りなさい


あなた、可愛らしい顔をしているのだからそのくらいできるでしょう?


誰かが言わねばならないことなので、私がいいます


これを機会に、少しずつでいいから恵太さんから自立なさい


それが、あなたの為であり恵太さんのためでもあるのです


甘ったれるのはおやめなさい


恵太さんの…… 天才魔道師である恵太さんの邪魔をしないで


それでは…… よろしくお願いしますね?


では………」







































紙は光を失い、はらりと地面へと落ち、ただの紙となった。


シャリアさんの言葉は僕の胸を何度も突き刺し、そして鈍器で叩き潰すかのように僕の心をぐしゃぐしゃにした。


正論過ぎて…… なにも言えない。


返す言葉が無いというのが、これほど適合する瞬間は生涯ないだろう。


悲しさも…… 悔しさも…… 何も湧かない。


僕は……


「ふぅ… いいお湯だった…… ん? どうしたんだシノ?」














「ん? 何でもないよ? それより、明日に備えて今日は早く寝たほうがいいね、明日は絶対怪我とかしないようにね?」


「ああ、そうだな、明日は朝が早いから、シノは寝てていいからな?」


僕はニコリと微笑んで恵太に見やる。


「ううん、明日はちゃんとお見送りするよ」


「そうか……? まぁ、無理はしなくていいからな?」


「うん………… ありがと」


僕は……


恵太から…… 離れないといけないんだ……


いけないん………だ。





もう直ぐだぞ野郎共!


次の話が終わったら、その次はノクターンだ!!


そしてその次あたりに終わるかもしれない!!


いずれにせよもう直ぐ終わるんだぜ!


しばしのお付き合いを。

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