表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

引きこもってみた。

「にゃー……」


僕は今、恵太の帰りを待っている。


ここは…… 僕達のアジト。


こっちに来て、頑張って働いて、二人で買った小さな家。


城下町の、東の大城門近くにある小さな一戸建て。


パン屋と花屋に挟まれた、少し古くてレンガ造りの小さな家だ。


「うにゅ……」


僕は居間の窓辺の下で、日にあたりながらゆっくりと伸びをする。


嬉しいことに、この家は意外と日当たりがいいのだ。


「ひまだ…… にゃぁ」


僕が白猫になってから、早一週間が過ぎた。


そして、この一週間で僕の生活は今までと大きく変わり…… そして、それに慣れつつある。


僕の生活… それは朝から晩まで、この家にいて恵太の帰りを待つだけの生活。


そう…


僕は今…… いわゆるひきこもりなのだ。


「はぁ……」


だって…… しょうがないじゃないか。


僕だって、冒険者を続けられないにしても、せめて自分の食費くらいはバイトで稼ぎたいと思ってる。


でも…… だめなのだ。


前に、頑張って家から出て、買い物に出かけようとしたことがあるんだけど…… その結果は酷いものだった。


僕は、この家から一人で足を踏み出そうとした瞬間…… その足すら踏み出すことが出来ずに…… 


えっと… その…… 


な、泣いてうずくまってしまったのだ。


も、もちろんガチ泣きじゃないぞ!


わんわん叫ぶような泣きかたはしてない!


でも……


なんか一人で、恵太がそばにいない状態でこの町をであるかなきゃいけないんだって思ったら… 急に心細くなっちゃって…


自分が余りにも頼りなくて、外が余りにも怖く感じて…… そしてたかが外に出歩くだけでこんなに怖がってしまう…… 自分が情けなくて。


情けなくて… なんだか涙が出てきちゃっただけなのだ。


「ぐすっ…… にゃぁ… なさけなぃ」


それからも僕は何度か外出を試みようとはした。


でも…


やっぱり、何度試そうとしてみても、外に足を踏み出そうとした瞬間に… 足が震えて、喉が渇いて、みみと尻尾がふにゃってなって、涙が滲んできちゃうのだ。


そして… それを何度か繰り返すうちに、僕は心が折れてしまった。


あまりにもびびり過ぎるこの体に…… 絶望してしまったのだ。


本当に…… いったい僕は何をそんなに恐れているのだろうって程に怯えてしまう。


男だったときの経験で、別に昼間に出歩くくらいでは危険が無いってこと位は分かってるのに…… でも、ダメなのだ。


体が… 勝手に怖がって、いう事を聞いてくれないのだ。


ユキさん曰く「恐慌」のバッドステータスに陥り易いという事は、つまり普通の人より遥かに情緒不安定で、遥かに度胸がなく、遥かに臆病になってしまうという事らしい。


まさに今の僕だ…… なんてどうしようもない…… はぁ。


僕が怯えずにいれる場所は、今や恵太のそばかこの家しかないのだ。


二人で買って、楽しい思い出が色々詰まってて、安心して落ち着けるこの家と…… 恵太のそばしか無いのだ。


そんな訳で僕はずっと家に引きこもるという生活を続けている。


もちろん、家事は全部僕がしてるんだけど、それ以外にすることが無いのだ。


だから僕は……


恵太がいないと何も出来ないのだ。


恵太がいないと暇なのだ。


恵太がいないと楽しくないのだ。


恵太がいないと……… 


寂しい… のだ。


「にゃぅ… また、あれやろうかなぁ…」


僕は小さくそう呟いて、立ち上がる。


そして、ゆっくりと恵太の部屋へ向かって恐る恐る部屋を空ける。


この家は1LDKバストイレ着きの小さな家だ。


もともとはただの2LDKだったんだけど、その一部屋を恵太が土魔法で造り変えて風呂を作ったのだ。


そんで、余った部屋をじゃんけんで争った結果、残された個室は恵太のものになったという訳だ。


とにかく…… 恵太には個室があるのだ。


そして… 恵太の個室には……


「にゃ… あった」


恵太が昨日着ていた服が置いてあるのだ。


僕はそれを大事にもって、さっきまでひなたぼっこをしていたリビングの窓辺に戻る。


洗濯物は恵太がまとめて水と風を併用した魔法で洗うから、基本恵太の部屋にまとめてあるのだ。


だから、こうして僕は恵太の匂いがついた服を持ってくることが出来るのだ。


「にゃう、恵太のいおいだぁ……」


僕はひなたを浴びながら、恵太の服に顔を埋める。


……………………もちろん自分が相当に気持ち悪いことをしていると言う自覚はある。


でも…… こうして恵太のにおいをかいでいると、落ち着くのだ。


恵太がそばにいるみたいで… 寂しさがまぎれるのだ。


とっても安心するのだ。


精神安定剤なのだ。


だから…… しょうがないのだ。


「けいたぁ…… はやく帰ってきてよぉ」


僕は、恵太の服に鼻をすりすりしてみる。


にゃぁ… いいにおいだなぁ。


とろんとするにおいだにゃぁ……


ふにゃぁ~ってなっちゃうよぉ。


たぶんまたたびってこんな匂いなんじゃないだろうか?


「はぁ…… 僕って傍からみたら相当気持ち悪いんだろうなぁ… 変態だよ」


「何が変態だって?」


「…………………………にゃ?」


!?


僕は恐る恐る、顔を上げる。


すると窓の外から、恵太が僕の方を覗き込んでいるのが…… 見えたのだった。


「おう、ただいま、いわれた通り買い物もしてきたぞ!」


にこっと微笑んで、ひらひらと手を振る恵太。


「にゃッ!?」


瞬間。


みみと尻尾がピンと立ち、目がカッってなって…… 顔が真っ赤に熱くなる。


「にゃああああああああああああああああああああああ!!!!」


僕は超ダッシュで恵太の部屋へと逃げ込んだのだった。


――――


「もう!! 全くもぅ!! は、早く帰るなら通信魔法で知らせてくれればいいのに!!」



僕は今、帰ってきた恵太をダイニングキッチンのテーブルに座らせ、今日の晩御飯を並べる。


今日は、恵太の大好きなシチューにシーザーサラダ、それとお隣さんで売ってるパンだ。


「いや… 朝ちゃんと言ったぞ? 今日は封印の仕事だけだから早く帰るって」


「え!? い……ってた?」


ぬぅ… ぼ、僕… この姿になってから、やけに朝弱いからなぁ…… 多分寝ぼけてたんだ。


「それよりさっき何してたんだ? 変態がどうのこうのって……」


「うにゃあああああ!! それはもういいんだよぉ!! 忘れてよぉ!!」


ぅう!! は、はずかしぃよぉ!!


「お、おう… まぁいいけど」


「にゅぅ……!!」


うぁぁ… くっそ… 顔が熱い。


「しかし、相変わらずお前の作る飯はうまそうだなぁ… このシチューとか超いいにおいするぞ」


「ぇ…… そ、そう? にゃはははは……」


にゅぅ… なんか恵太に褒められるとむずむずするよ。


「いつもありがとな」


「そ、そんな! こっちこそいつもありがとうだよ!」


まぁ…………すごく嬉しいけど。


「さ、さぁ! さめないうちに食べてよ!」


「おう、頂くよ」


ご飯を早速食べ始める恵太。


僕は、そんな恵太を見ながらテーブルに頬杖をついて見つめる。


「おいしい?」


「おう、うまいぞ」


恵太が嬉しそうにして、僕に微笑んでくれる。


「にゃぅ……」


この笑顔は本当に美味しい時の恵太の表情だ。


ぬふふ…… えへ… うれしぃな。


「シノは食べないのか?」


「ん? 僕はまだお腹へってないんだ、後で食べるよ」


「そうか」


「ん」


別に食べれないことはないけど…… 今は恵太の笑顔を見ていたいんだ。


えへへ…… やっぱ恵太がいるだけで楽しいなぁ。


うん。


――――


「どう? 気持ちいい?」


「あぁ~ すっげーいい」


僕は食後の恵太にお茶をだし、食器をかたづけると、いつもの様に、恵太の肩をもんであげる。


「えへへ~ 良かった」


「しかし… 別に毎日こんなことしてくれなくてもいいんだぞ?」


恵太は首だけ振り向いて、僕にそう言う。


僕はそんな恵太を見つめて微笑む。


「恵太は… 毎日こうされるの迷惑?」


「いや、そんな事はねぇよ」


「なら、やらせてよ…… すこしでも恵太の役に立ちたいんだ」


「………………なぁ、シノ、別に気にしなくていいんだぜ?」


「………なにが?」


「俺がお前を養ってることだよ……… えっと…… この際だから言って置くけど、俺はお前がいなくなると困るんだ

俺だって、この異世界でお前って言う存在に助けられてるんだ、だからお前を養ってるのは、誇りではあっても負担では絶対にない、だから、気兼ねする必要なんてないんだぜ?」


「にゃ……ぁ」


恵太が、真剣な顔をして僕にそう言ってくる。


な、なんでこいつはそんな…… はずかしくて… 嬉しいことを… 真面目な顔でいってくれるのだろう。


ぅぅ……


顔が… 熱くなっちゃうじゃないか。


「ば、ばかぁ!!」


「なっ! いって! なんでぶつんだよ!」


僕は思わず恵太の頭に全力で猫パンチをお見舞いしてしまう。


そして…… 


「ばか……… あ、ありがと」


思わず、後ろから恵太の首に抱き着いてしまう。


「お? お、おぉ……」


ぎゅっと恵太の頭を抱えて、恵太の匂いを吸い込む。


「にゃぅぅ」


安心するにおい、温かい恵太の体温。


それがどこか心地よくて…… なんだか恥ずかしい。


何をしているんだ僕は…


なんで、親友を後ろから抱きしめてるんだ…… 僕は。


だけど……


「僕も恵太に色々してあげたくて…… してるんだよ… 恵太と同じで、誇りではあっても負担じゃない」


体が勝手に動いてしまったんだ。


しょうがなかったんだ。


「そう……か、ならいいんだ」


恵太が…… 


そんな嬉しいことを言ってくれるのが…… いけないんだ。


「にゃぅ…… けいた」


「ん?」


「いつも… ありがとぉ」


「…………うん」


――――


「最近… 僕… おかしいなぁ」

 

夜、僕は暗い部屋で天井を見ながら一人呟く。


何だか、今日は眠れない。


「ふぅ…」


僕はリビングにおいてある僕様の小さなベッドから起きると、冷蔵庫(恵太が作った冷凍の魔法陣が彫られた箪笥)から牛乳を取り出して、いつもの窓に向かう。


昼間は日当たりが良くて気持ちいいこの窓だけど、夜は夜で月が綺麗に見える素敵な窓だ。


「にゃぅ」


僕は月を見ながら、ミルクを舐める。


そして…… 自分のことを考えた。


最近の僕は…… いったいどうしたというのか。


なんというか…… 今日、恵太に抱きついちゃったのもそだけど…… 


その、お… 乙女過ぎる。


確かにもう体は女の子なんだけど…… まだ一週間だぞ?


見も心もってのには… いくら何でも早すぎないかな?


まぁ……


確かに、今の僕は正真正銘女の子だし、それに恵太しか頼れないし、ましてや元々恵太とは親友で思い入れが深いわけだから……


こんなに…… その… 恵太に入れ込んでるのは仕方が無いことだとは…… 思う。


でも……


正直なところ…… 恵太に入れ込んでるとかどうこうの話じゃないんだ。


問題なのは…… 本当に問題なのは……


僕が、恵太に尽くすこの生活が…… 


意外と楽しくて、そして幸せだと感じてしまってる事なんだ。



僕は…… 


もしかして……



































いや… やめよう。


なんか… それを考えるのは…


なんだか…


怖ぃ。


「にゃぁ……」


あぁ、月が綺麗だなぁ。


ミルクが甘くておいしい。


うん…… 考えるのはやめよう。


恵太が優しくしてくれてるんだ……


それで…… いいじゃないか。



ああ、かわいい、かわいいよシノ。


いったい、汚れた俺のどこからこんな甘甘が出てくるというのか……


不思議でしょうがない。


マジで。


大体のラストまでの道筋が脳内で完成。


多分あと6話くらいで終わる予定。


エロは多分あと4話アップしてから。


しばし待たれよ!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ