アイテムを使ってみた。
「おーい! けいたぁ!! 宝箱だよ、宝箱!!」
僕は、隠し部屋に入るなり、目の前にあった宝箱に飛びついて叫ぶ。
「おいおい! 入るなり宝箱に飛びつく奴があるか!! トラップがあったらどうするつもりだったんだよ!!」
恵太が俺に向かって怒ってくる。
相変わらず小うるさい奴だ。
「恵太は慎重すぎなんだよ! 人生はもうちょっとワイルドに行った方が楽しいって」
僕は恵太に笑いながらそう言う。
「はぁ… シノは考え足りなさすぎだ… いつか痛い目見たってしらんからな」
恵太はそんな僕に呆れながら、ため息を付くのだった。
「あはは、恵太はどこに行ってもかわらないなぁ、ため息ついてばっかりだよ」
「あのなぁ… 誰のせいでため息ついてると…… はぁ、俺、異世界に来もシノに振り回されっぱなしだよなぁ」
僕は恵太の背中をバンバンとたたきながら笑い、けいたはやれやれと言いながら、またため息をつくのだった。
「なにしけたこと言ってんだよけいたぁ! 僕に振り回されるのは楽しいだろ?」
「………………………そういうことにしておくよ」
僕は笑い、恵太も苦笑いをする。
そんな、いつものくだらないけど親しんだやり取り。
元の世界だろうと、この世界だろと変わらない。
僕と恵太の、お決まりの掛け合いだ。
僕と恵太の関係はどこに居たって変わらない。
ずっと、幼馴染で、対等な、家族みたいな仲間。
こいつとつるんでるのがいつだって一番たのしい。
口に出すのは恥ずかしいから、言わないけど、本当に親友で心友だって思ってる。
それは… 異世界に来たって変わらないって。
そう… 僕は思ってたんだ。
この時は……
――――
僕の名前は神野山しの。
ごくごく一般的な16歳の高校生…… だった。
だったってのは、当然それが過去であったってのを示してるわけで、実際それはもう遠い昔の話になってしまった。
それはなんでか。
それは……
僕が、ひょんなことからこの剣と魔法の世界。
つまりは異世界にトリップしてしまったからなのだ。
ちなみにトリップをしてしまったきっかけは単純。
いや、単純といえるのかどうか…… まぁ、一言で言えば迷い込んだのだ。
神隠しと言っても良いかもしれない。
それは、夏休みのことだった。
僕と、恵太はちょっとした旅行に出かけていた……
あ、ちなみに恵太ってのは僕が物心付く前から一緒にいる幼馴染で、家も隣の僕の親友だ。
フルネームで三条恵太。
ちょっと地味目なのが玉に傷だけど、いざって時は頼りになる、僕の自慢の親友だ。
まあ、とにかくそんな感じで、僕と恵太は夏休みに旅行にでかけたのだ。
ちなみに旅行のテーマは「徒歩で行く秘湯めぐりの旅」で、新幹線で遠くにまで足を運んで、ハイキングがてら山を歩き、隠れた名湯をめぐると言った趣旨の旅だ。
そんな旅路の中のある日の夕暮れ。
今にして思えばあれは「逢魔時」って奴だったのかも知れない。
山の中を歩いていた僕達は、不意に濃霧に包まれた。
夕日を淡く溶かし込んだ、オレンジ色の濃霧。
正直、夕方に霧なんて見たことないから、アレが本当に霧だったのかさえ今となっては怪しい。
とにかく。
僕と恵太は不思議な気配のする霧に巻き込まれた。
そして霧の中を進み続け、やがて霧が晴れると……
もう、そこは異世界だったのだ。
そう…… 異世界だったのだ。
――――
「いやぁ~ ほんと大変だったよなぁ、この半年間」
僕は、酒場でエールを飲みながら恵太と話す。
「ほんとだよなぁ…… どれだけ俺がお前に振り回されたと」
恵太もまた、僕と一緒にエールを飲みながらそんな事を言う。
「あはは、そんな振り回したりなんてしてないだろ?」
「ほう… 無理やりダンジョンに突入したり、ギルドの高難易度の依頼を勝手にうけたり、考え無しに魔物に向かっていったりしておいて振り回してないと?」
恵太がエールを一気に飲み下しながら僕を睨む。
「あはは、いい飲みっぷりだね、さぁ今日はもっとのもうぜぇ!!」
「はぁ…… 今日も… だろ?」
そんな掛け合いをしながら、僕と恵太はいつもの様に酒を飲むのであった。
――――
僕達がこの世界にまぎれてから、はや半年がたった。
初めの方は、剣やら魔法やら奴隷やら王国やらギルドやらで、元いた世界とは違うファンタジーな異世界ッぷりに戸惑っていた僕達。
でも、そんな中で僕達は助けあいながら、今日まで生き抜いてきた。
その日々は、とても大変な日々だった。
最初の頃は、城壁の修理のバイトから始まったっけ。
それから、装備をそろえてギルドに登録して、依頼を受けて、金を稼いで、ダンジョンに言って、お宝をゲットして……
そんな感じで何とか日々を乗り越えてきた。
今じゃ、ちょっとは名の知れた冒険者として活躍しているくらいだ。
帰れなくなってしまった故郷や、家族のこと、今まで生きてきた世界とのギャップ。
正直なところ辛いことは沢山あった。
とても大変な日々だった。
でも……
同時に楽しくもあった。
前の世界では希薄だった、「生きている」と言う感覚。
恵太とこうして毎日を冒険して生きるのは…… 楽しい。
こう思えるのは、やっぱり恵太がいるからなのだろう。
本当に…… 正直な話…… 恵太には本当に感謝してる。
お前がいるから、今僕はこんなに楽しく笑ってられるんだと思う。
お前にはそんなそぶりは見せたことないけど、僕は結構びびりなんだぜ?
ありがとな…… 恵太。
お前は本当に… 僕の親友だよ。
な… 恵太。
――――
「これがぁ、きょうのぉ!! せんりひんらぁ!!」
「おい!! シノ!! お前飲みすぎだ!!」
「あははははは!! けいたがぁ、さんにんいりゅ!!」
「こいつ… 完全に酔っ払ってやがる…」
「あははははははははは!!」
「はぁ…… あぁ、もうっ!! とにかくそのアイテム離せよ!! 隠し部屋にあったアイテムなんだからどんな効果かわからんだろうが!!」
「あははははは、使ってみればわかるじゃーん!!」
「おい!! ばか!! どんな効果か分からんアイテムを使うなよ!! 呪われたアイテムだったらどうするんだ!! ちゃんと鑑定をしてから……ってああ!!」
「あははははは!! 細かいことはきにしゅるなぁーい!!」
「馬鹿!! 本当に使う奴があるかあああああ!!」
ピキィィィィィィィイイイインンンッッ!!!!!!!!!!!!!!
――――
むぅあ?
にゃんか、あいてむつかったら、めっちゃひかったよ?
なははははは、ぴかぴかひかっておもしろいにゃあ。
ん?
けいたぁ?
なんで僕のことそんな面白い顔でみつめてんの?
ぷくく、はとが豆鉄砲くらったみたいな顔してるぅ!
あはははは!!
おもしろいぃ!
えへへへ。
んぅ?
あれぇ?
けいた…… でっかくない?
せ… のびたぁ?
んふふふふぅ、せいちょうきやなぁ!
あははははは!!
んっしょっと… えへへ、けいたの膝の上座ってやったぜぇ!!
なはははは、こいつほんとにでかいにゃあ。
くふふふふ、おー、背もたれに最高ですなぁ。
へへへぇ… あー… なんか眠くなってきたやぁ。
んしょ… えへ… このままねちゃぉ。
にゅふ…… にゅ……ぅ…
おやすみぃ… けいたぁ…