黎明
艦これとかr-typeとかの敵が好きです。
――記憶ヲ掘り起コそう。
――これはかツテ私だッた者ガ経験した記オク。
――私トイウ存ザイノ記録。
――ワタシノナカ残サレタもノ。
――キおク、ノ残シヲ、SAぐ露ウ。
眼を覚ますと言いようのない不快感が襲った。
朝一番からの謎の気持ち悪さに気分は一気に下降する。このまま二度寝を決め込んでもいいくらいだ。
だが、そうは出来ないのが悲しいところだ。
「ん、んんー」
伸び一つ、欠伸一つで気分を切り替える。そうすることで不快感は一気に無くなった。
しかし、あの気持ちの悪さはなんだったのだろうか?
夢見が悪かったのだろうか?暑いわけでもないのに寝汗をびっしょりとかいていたのを不快に感じていただけかもしれない。
「ま、理由なんてどうでもいいか」
そう、理由なんてどうでもいいのだ。今日も今日とて仕事を頑張らないといけない。
寝汗を流し、思考をクリアにするためにも暖かいシャワーを浴びる。
リフレッシュした気分にすっきりした頭で気分は壮快だ。寝起きの不快感は嘘のように消えていた。
寝間着から仕事着に着替える。鏡を見てタイは曲がっていないか、帽子はずれてないかをしっかりと確認する。よし、今日もばっちりだ。
「いってきます」
誰もいない部屋に向けて告げる。
…あれ?
一瞬脳裏を何かが過る。違和感を感じる。
私は誰かと暮らしていなかったか?
「…なんかすっきりしないなあ」
だが、そんなことを気にしていたら遅刻してしまう。時計を見れば時間ギリギリとなっていた。
「やば!あわわ!」
違和感は焦燥感に変わる。そのせいで頭に引っ掛かっていた何かは霧散してしまった。
遅刻をしてはいけない。私は平和を守る者だから。規律も守らないと示しがつかない。
必死に走ることで遅刻は免れた。
荒い息を整えていると同僚が声をかけてきた。名前は、ええとなんだっけ?
「ギリギリじゃん!どうした?珍しく寝坊?」
「いや、ちゃんと起きたんだけどね?なんか気になることがあってねー」
「うん?まさか―――と何かあったのー?」
「え?なに?」
ノイズが同僚の言葉をかき消した。
「ほら、噂をすればなんとやら」
扉が開く。
そこにはなにもいない。
「遅かったじゃん~、あんたの御姫様も朝から暗いし何かあったのカナ~?」
虚空に話しかける同僚。何かがおかしい。
まるでチャンネルがあっていないノイズばかりを映し出すテレビのようだ。
「えー、そうなの?朝からあんな感じ?」
心配そうな顔をする同僚。私を心配するよりも自分の心配をしたらどうだろうか?
何かに苛立つ。なんだろう。
とにかく苛立つのだ。
だから同僚に向かって私は―――を突き刺した。
場面が変わる。
私は海岸にいた。
何が起きたのかが分からない。
なぜ一人でこんなところに?
とりあえずここでじっとしていても始まらない。動かなくては。
歩き出してから少しして気付いた。
どうして足跡は二人分あるのだろうか?
気持ち悪さが、吐き気が、苛立ちがぐるぐると私を掻き回す。
帰らないと。その想いが胸に湧き上がる。
でも何処に?
いや、帰る場所は決まっているだろう。―――の場所へ。
ん?
思い出せない。
いや、朧に何かを覚えている。
『これを持っていてくれ』
これは一体誰との記憶だろうか?
『ここでまた会おう』
ここってドコ?
『その時に君に伝えるよ』
ナニヲ?
ああ、思い出さないといけない。
思い出せない。
でも、体は覚えている。
だから、行かないと。
ああ、鬱陶しい。
煩わしい。
体に纏わりつく苛立ちが鬱陶しい。
腕を振るう。
それだけで鬱陶しさは消える。
体に暖かいものがあたるが雨?良く分からない。
ああ、帰らないと。何処に行くかは分からないけど。そこが何処かは知らないけど。
見つかるまで探せばいいんだ。
場面が切り替わる。
ここはどこだろうか?
なにか見覚えがある。
でもどこだろう?思い出せない。
でも懐かしい。
ここにずっといたい。
そんな想いが胸を占める。
きっと戻って来れたんだ。
そんな感情が到来する。
その時だ。何か足元にあるのに気付いた。
「なんだろう?」
歪んで変色して最早原型がどんなものか分からない金属の塊だった。
「ああ…」
これは大事なものだった。
これは大事なもののはずだった。
金属の塊には石がついていた。
それだけは煌めきを失わず、形も失わず、存在を主張していた。
「私は帰ってきました…」
その時だ。暖かい日差しが私を照らした。
太陽が顔を出したのだ。
その眩しさに、その暖かさに、しばし佇む。
太陽は私の帰還を祝福しているように感じ取れた。
――アア、ヤットオモイダセタ。
「目標、沈黙しました」
オペレーターの声が響いた。
「どういうことだ?」
「わかりません。この座標に到着してからというものの不審な行動を行っていましたがつい先ほど活動を停止しました」
モニターに映し出される異形の化物は完全に動きを止めている。太陽の光を浴びてどこか神々しさを感じてしまうのはなぜだろうか?
「おい、あれはなんだ?」
怪物の腕に相当する部分が光を反射していた。
「画像、拡大します」
ウィンドウが複数開かれ、腕の部分を拡大、そして補正することで画像を明瞭にしていく。
「なんだこれは?」
怪物の指には金属が埋め込まれていた。なぜかそれはまるで結婚指輪のように見えた。
馬鹿らしいと自分の考えを否定する。
「なぜ、やつはここを目指したんだ?」
あそこには何もない。それは画像を見て明らかだ。
「さあ、私にはわかりかねます。ん?」
オペレーターが何かを見つけたようだ。
「お墓?」
「化物が墓を目指してきたと言うのか?馬鹿らしい。化物が墓参りをする為に来たとでもいいたいのかね君は」
「いえ…」
オペレーターは否定の言葉を言おうとした。だが、画像の怪物の眼は何処か嬉しそうだった。まるで好きな人と寄り添う少女のような。
そんなまさかと首を振る。
もし想像が当たっていたとすると私たちは何と戦っているのか。
もし想像の通りだったとしたら、あの化物は、彼女は帰ってきただけなのかもしれない。
異形へと変貌し。誰にも歓迎されず、ただ好きな人のもとへ帰る為だけにあそこに来たのだとしたら。
その答えは出ない。
朝日だけが彼女の帰還を祝福していた。




