春の香り
第三話です。
宜しくお願いします。
ある日――
夏実から
こんな質問をされたことがある。
「ねぇ和也ぁ。
子供が産まれたらどんな名前がいい?」
と。
俺はこの時一瞬ドキッとしてしまった
記憶がある。
“もしかして結婚……?”
なんて思ったからだ。
今回だけじゃない。
前にも
「子供は何人欲しい?」
とか
「女の子と男の子ならどっち?」
とか
「もし子供が産まれたら、
和也に似ると思う~?
あたしに似ると思う~?」
とか――
たまにそういう話をしてくるもんだから
此方も意識はしてしまう。
それで今回は名前を聞いてきたのだ。
いつもは
「え~。わかんねぇよ~。」
なんか言って誤魔化していたが、
この時は何故か
とっさに答えてしまった。
「春に産まれたら春香かな~。」
それを聞いた夏実は最初こそ
「単純だねぇ~。」
なんか言って笑っていたが
その内真剣な顔になり、
「でもいいかも。
春の香りってなんかあたし好きっ。」
と、言い出した。
「春の香りってどんなんだよ。」
そう、俺が返すと彼女は
「ん~っとねぇ~……。
優しくて~
フワフワして~
ん~……冬じゃない香りかなっ。」
と、言う。
また俺が
「暖かい香り~?」
と、訪ねると、
優しい笑顔で
「うんっ。」
と、言って
首を縦にコクッと動かした。
――そうだ。
俺は夏実のこういうところが好きなんだ。
そう、再確認させられたのを覚えている。
そして
夏実のこの質問の意味を
俺はもうすぐ知ることとなるのだ。