<事故>第三部
三校時がきた。砂沙はニヤニヤと私を見ている。
だが授業を半分ほど過ぎたとき、信じられないことが起きた。
「ポロロン……ポロロン」
ピアノがひとりでに鳴り出したのだ。
教室中が騒がしくなり、先生が注意した。
それでもなかなか静まらないので、次の瞬間、先生がピアノに向かってチョークを勢い良く投げつけた。
チョークは音を立てて砕け散り、ピアノの音は止まった。
「何だ? 今の……」
クラス中がまだざわめいている。
「静かに! 故障だ故障! 授業に戻るぞ!」
先生が大声で言った。
私は砂沙を見た。さっきまでニヤけていた顔が、驚きと恐怖で無表情になっていた。口だけが、かすかに開いていた。
「ジュース一本!」
授業が終わって、私が砂沙に言った。
「ねえ? どういうしかけ?」
「しかけなんかないって。私もびっくりしてるんだから」
「……事故?」
「というか偶然というか……」
「正夢というか?」
「……正夢…そうかもしれない。全部夢の通りだもん」
「…………」
二人は黙りこくった。
やがて砂沙が口を開いた。
「まあそうなんども続かないよ」
「うんそうだね、続いちゃったら私の家がジュースの缶で溢れかえっちゃうもんね」
私はいたずらに言った。
「帰り道が楽しみだなー」