<事故>第二部
「夏乃! 大丈夫? 事故に遭ったって聞いて心配したんだよ」
次の日の朝、親友の砂沙が挨拶代わりに言った。
「大丈夫、大丈夫! ちょっと頭ぶつけただけだから」
私は目で「ありがとう」の気持ちを表しながら言った。
私と砂沙は親友だ。何でも話を聞いてくれるし、一緒にいて心が落ち着く。
チャームポイントのツインテールが今日も乱れているのを見ると、少なくとも「しっかり者」ではないことがわかる。
「なおさらバカになっちゃったんじゃない?」
ニヤニヤしながら砂沙が言った。
「砂沙と同じくらいになっちゃったってこと? それ相当ショック……」
私もニヤけて言った。
私と砂沙は一緒に笑った。他に友達がいない私達は、周りから何と言われようとお互いが好きだし、分かり合っていた。
「でもね、本当にバカみたいな夢なら見たよ。確か三校時あたりだったかな? ピアノがひとりでに鳴り出すの……そしてなぜか先生がチョークを投げつけて、鳴り止むっていう……」
「アハハ! 変なの! じゃあもしそれが本当に起きたらジュース一本おごったげる。起きなかったおごってね」
「なにそれ!? ありえないからっ!」
「う~ん、帰り道で良いよー」
無邪気にふざけている砂沙を見て、私は呆れてしまった。そして
「チャイム鳴るよ」とそっけなく言った。
「え? ピアノ?」
しつこくからかう砂沙を無視して私は席に座った。
砂沙は不安げな顔でずっと私を見ていた。
私は砂沙に振り返って、静かに笑ってみせた。