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正夢  作者: 路傍の紳士
14/14

<覆った夢>

目を覚ますと母の顔があった。轟音も震動も止まっている。私は徐に体を起こすと、そこはあの避難所だった。大勢の人が歓喜の声をあげている。一方で、当然のごとく、泣いている人もいた。私はその歓喜の声から、「誰も死んではいないのだ」ということを悟った。


「赤ちゃんは!?」

私は我に返って、助けると約束した女性の子どものことを思い出した。


「大丈夫よ。あなた、ずっと抱きしめていたわ」

母が優しく答えた。


「本当に、何とお礼を言ったらいいか……ありがとう……ありがとう……」

側にいたあの女性が泣きながら私に言った。私は口元を少し微笑を含んで、無言で首を振った。それが一番良いと思った。


「……でもどうして私は助かったの? 波に呑まれて……」

私は母に曖昧に尋ねた。すると母は、いやそればかりか周りにいた大勢の人たちが目に涙を浮かべた。それが悲しみの涙ではないことは、私にもわかった。


「砂沙ちゃんよ」

ようやく母が言った。

「えっ……?」


「あなた奇跡的に抜け道の入り口に流れ着いたのよ。砂沙ちゃんの墓石につかまってね」


「墓石に?」


「そうよ。津波で流されたと思うけど、砂沙ちゃんの墓石があなたのところに流れ着いて、あなたを岸まで運んでくれたのよ」

私は信じられない気持ちでいた。そして心の中で何度も何度も大きな声で、砂沙の名前を叫んだ。それから泣いた。それでもそれは、悲しみとは違う何かだという感覚があった。


それからしばらくして、私は涙を拭い、「私の話を聞いて」と言った。

実に多くの人が集まってきた。


「私、本当はね、夢では死んでたの」

母もその周りの人たちも、驚いた様子でざわつき始めた。


「っていうより波に呑まれたところで途切れて……その先はずっと真っ暗。だから今日で最後って思ってた」

ざわめきはいつしか止み、皆真剣に聞き入っていた。

「つまり夢が外れたんです。もう、見ることはありません」

私はできるだけ笑顔をつくって言った。


「良かった……」

まず母が泣き崩れた。

「ああ、良かった、良かった」

次々と喜びの声が湧き上がった。拍手をする人も出てきた。そしてそれは途切れることなく続いた。一日中終わらないだろうとも思うほどだった。

その、なんとも言えない暖かいものに包み込まれながら、私は心の中で言った。


「砂沙、ありがとう!」





---完

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