表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正夢  作者: 路傍の紳士
13/14

<最後の夢>第二部

私は、抜け道を通って逃げてくる反対者達に向かって唯「逃げてください!」と叫びながら、彼らとすれ違っていった。

途中、「済まなかった」と涙をためて言う人もあれば、泣きながら走る人もいた。


私はもうこれ以上人がいないことを確認し、引き返そうとした。だが次の瞬間、「助けて!」という声と共に、女性が建物の下敷きになっているのを見た。

轟音はいっそう大きくなり、揺れも尋常ではなくなり、立っているのがやっとである。私の位置からはまだ遠いが、津波も段々と押し寄せてくるのが一目瞭然だった。


「大丈夫ですか!?」

私はそう言いながら女性に近づいていき、女性にのしかかった建物の破片を一心にどけ始めた。幸いのしかかっていたのは足だけで、私でも充分にどけることができた。


「良かった……。さあ逃げましょう!」

私はこう促した。


「待って……待って! 子どもがいるの! 家のどこかに! まだ歩けもしないのよ!」

女性が言った。


「そんな……。……私が捜します。今ならまだ間に合う。早く逃げて!」


「そんなことできるわけないでしょ! 私も捜すわ!」


「あなたは足を怪我しています。私の方が素早く動けるし、確実に逃げられます。だから私を信じて! 今度はちゃんと、信じてください!」


女性は一瞬呆然とした顔で私を見てから、何も言わずにクルリと後ろを向き、痛む足を引きづりながら抜け道を走っていった。

津波はもう、すぐ近くまできていた。だが私は諦めなかった。とても大きな不安と恐怖が襲ってきて、視界が何度か霞み始める。それなのに何故か私は、「全員逃げ切れただろうか?」ということばかり考えていた。その度に砂沙の笑顔が浮かんでは消えた。自然に、溢れてくるものがあった。私は今、砂沙のために、自分のためにこんなことをしている。その一念が私の目の奥の涙腺を刺激したのであろう。私はよりいっそう気を引き締めた。


だが必死の努力も虚しく、それから約十分後、大きな波が私を呑み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ