端くれの騎士
王国で、貴族あるいは準貴族の者は人口比で百人に一人程度である。
例えば男爵家が存在し、男性が当主を務めているとしよう。
当主以外では、基本的にその夫人達と子女が貴族を名乗れる。
ただし子女が成人してしまえばその限りではなくなる。
従属爵位がこの男爵家に存在せず、子女に与えられなかった場合、
そこからは単なる「男爵家の者」という扱いとなる。
家を出てしまえば平民と変わりない。
それを避ける為に、嫡子以外の彼ら彼女らは身を立てようとするか、
都合のいい婿入り先、嫁入り先を懸命になって探すことになる。
ここでひとつ抜け道がある。
領地持ちの貴族は領地防衛の為に一代騎士を独自に任命できる。
これは大公から男爵まで王国で保証された権利となっている。
もっとも貴族年金は任命者が保証しなければならないが。
本家が余裕ある場合は、使われる手段である。
領地持ちの次男以降、あるいは女児でも一代騎士に任命されれば、
貴族、準貴族の特権を失う事がないのだ。
こうした「親族騎士」は王国内でかなりの人数に上る。
質が保証されないので、良いかどうかはさておき。
◆
彼女、ラバノも「親族騎士」と揶揄される存在の一人である。
王立中央学院は卒業出来たものの、制式騎士団にも入団出来ず、
かと言って文官にもなれず、結果実家の男爵家に戻って来た。
今は家族に雇ってもらう形である。引け目があるので給金は低い。
家を継ぐのは兄の予定だ。優秀なので誰からも文句は出ていない。
剣術も書類仕事もそれなりにはこなせるが、それなりでしかない。
同じ「親族騎士」の叔父、実父の弟一家と実家の手伝いにあたる。
傍らで何とか独り立ちしようと、非番の際は冒険者組合へ向かい、
ちまちま依頼を受けていた。
本日は周辺の畑を荒らす害獣駆除である。おそらくは鹿の群れだ。
一人で近くの森へ入り、鹿の足跡や糞の痕跡を辿っている。
叔父達家族は実家の護衛、とは言うが、まあ気楽なものである。
叔父はともかくその息子二人、剣術の腕前はラバノよりも劣り、
形だけは冒険者として登録しているものの、下級の一つ星。
冒険者資格の失効期限ギリギリに少し依頼をこなす程度だ。
かと言って他に何か秀でたものがある訳でもなく燻っている。
彼らだって王立中央学院へ通っていたはずなのだが。
実のところ、ラバノも依頼を受ける余裕がなくて一つ星である。
それでも前を向こうとしていた。挫折なんてもう慣れっこだ。
女は嫁に行けばいいから楽だよな、と従兄達は言っているが、
それが出来ていたならここにいるはずがない。
だいたい、嫁のあてもない彼らに言われたくはない。
目ぼしい相手など、もう学院入学時点で存在していなかったのだ。
父親世代の第二婦人なんて、十五歳の自分は遠慮したい。
問題アリ貴族の後妻もイヤだ。残っている物件はその程度だけ。
だったらここで剣を振り回す方がまだ健全だろう。
多少嫁にいき遅れようとも。
◆
ようやく鹿を見つける。成獣四頭。一度に駆除するのは難しい。
四頭がまとまっている所へ弱体魔術の《麻痺の雲》をかける。
動きが鈍ったところで接近し、小剣で一頭の首を斬りつけた。
慌てて逃げようとする一頭、向かってくる残りの二頭。
《障壁》を使って一頭を躱し、向かってきた一頭に小剣を刺す。
逃げようとした一頭へは絡み紐を投げつけて足止めする。
思い切り《障壁》にぶつかってふらつく一頭へとどめを刺した。
絡み紐を振りほどこうともがいている最後の一頭も仕留め、
ようやく息を吐く。
王立中央学院では対人戦闘実技は行ったが、害獣はなかった。
正確には、王都近郊の迷宮で魔獣との実践訓練は行った事がある。
まああまり強い相手ではないし、一対一の戦闘だったが。
対集団戦はまだなかなか慣れない。座学だけだ。
同期だった庶子の男爵令嬢は制式騎士団に入団出来たらしい。
彼女は成績優秀者三十名に入っていたから、当然の結果だろう。
戦闘の要領などを彼女にも教わったが、やはり難しいものだ。
《障壁》を地面と平行に作って、鹿四頭を町へと運ぶ。
◆
町へ戻ってくると、何やら騒動が起きていた。
武器を持った大柄な男達五人が従兄二人と争っている。
どちらの腕前も大したことはないが、人数の差で従兄達が劣勢だ。
仮にも「親族騎士」の従兄達だ、問題があるのは男達だろう。
そう判断してラバノは小剣を抜き、従兄達へ加勢する。
戦闘はあっさり終わった。学院の学生とは比べようもない弱さだ。
食堂で真昼間から酒盛りしていた男達が言いがかりを付けて、
食い逃げしようとしたところに従兄達が駆け付けたらしい。
倍の人数とは言え、酔っぱらいを制圧出来ないなんて頼りない。
従兄達は正直鍛え直した方がいい。正義感だけは買うけれど。
叔父も駆け付け、叩き伏せられた男達は立たされ縄を打たれる。
叔父に付いてきた兵士達が連行していった。
ラバノは当面、この町の騎士を辞める訳にはいかなそうだ。
たとえ「親族騎士」と揶揄されようとも。
ラバノの言う同期は「それでは魔術を教えます」のシルエラ。




