【世界名作闇鍋劇場】母をたずねてマッチ売りの醜いピーたん
むかしむかし岐阜県の山奥に、とても醜い容貌の少年がいました。
少年はピーター・パンという名前でしたが、
せめて名前だけでも可愛らしくと『ピーたん』と呼ばれていました。
そんな醜いピーたんは今日も町でマッチ売りの仕事に精を出していました。
ですが、ピーたんに近づこうとする者はいません。醜いからです。
ピーたんは売る場所を変えようと思い、町を、村を、森を徘徊しました。
そんなある日、ピーたんは森の中で可愛らしい家を見つけました。
お菓子で出来ているようです。
世の中には奇特な人がいるものだなとピーたんは思いました。
ピーたんはおなかが空いていたのでそのお菓子の家を食べることにしました。
むしゃむしゃむしゃ。
「こりゃ、何をしておる!」
ピーたんがお菓子の家をむしゃむしゃしていると、家の中から七人の小人が出てきました。
小さくて愛らしいですね。
ピーたんは小人たちの家を勝手に食べたことを咎められました。
小人たちは家事手伝いをするなら許してやると言ったので、ピーたんはそれに従うことにしました。
ピーたんは小人たちの役に立とうと思い、持っていたマッチでとりあえず暖炉に火を点け、そこに大なべを置きました。
お湯でも沸かそうと思ったのです。
すると突然、暖炉の煙突から煙突掃除をしていたオオカミが降ってきました。
オオカミは大なべの中に落ちたのでピーたんは蓋をすることにしました。
しばらくして、あぶく立って、煮え立ったので煮えたかどうか食べてみます。
ついでにカエルとカタツムリを追加しました。
これでオオカミ汁の完成です。
小人たちは久しぶりの御馳走だと大喜びです。
ピーたんはお菓子の家を食べたことを許してもらえたので、釈放されました。
良かったですね。
お菓子の家を出たピーたんは森の中で赤い頭巾をかぶった女の子と出会いました。
「こんにちは。あなたは誰ですか?」
「こんにちは。私は赤ずきんと言います。あなたは誰ですか?」
「僕はピーたんと言います」
ピーたんは赤ずきんという変な名前の女の子に自己紹介をしました。
紳士たるもの当然の行いです。
「赤ずきんさんは何をしているのですか」
「私はこれからおばあさんに会いに行くところです。ピーたんさんはどちらまで?」
「僕はこれから母に会いに行くところです」
「そうですか。ではお気をつけて」
「そちらこそ」
会話終了です。
ピーたんに母をたずねる予定はありませんでしたが、彼は女の子の手前、カッコつけてそう答えたのです。
マッチ売りをしていると答えるよりマシだろうとピーたんは思ったわけです。
しかし、ピーたんにはマッチ売り以外にすることもないので、ついでに母をたずねようとも思うようになりました。
まあ、母親がどこにいるのか、ピーたんは知る由もありませんでしたが。
暇なので良いだろうというわけです。
赤ずきんという変な名前の女の子と別れ、しばらく森の中を歩いていると、ピーたんは罠にかかった鶴を見つけました。
ピーたんはかわいそうに思ったので鶴を助けてやることにしました。
「ありがとうございました。何かお礼がしたいです。ついて来てください」
鶴がそう言うのでピーたんはその鶴について行くことにしました。
鶴についてしばらく歩くと鶴の里につきました。
そこにはイラクサを着た鶴がたくさん生息していました。
奇妙な場所ですね。
ピーたんは鶴たちにおもてなしを受け、楽しい時間を過ごしました。
それからしばらくして、鶴たちはお礼の品として、銀のつづらと金のつづら、どちらが欲しいかと尋ねてきました。
ピーたんは荷物になるのが嫌だったので全て断りました。
それでも鶴たちは何か力になりたいと言います。
「僕は自分の母を探しているので手助けは無用です」
ピーたんは断りました。
鶴たちは顔を見合わせ、お供としてツバメを一羽差し上げると申し出ました。
このツバメはとても親不孝者なので捕虜として鶴の里に収監されていたそうです。
ピーたんは何かあった時の非常食に良いだろうと思ったので、ツバメが同行することを許しました。
こうしてピーたんはツバメを一羽仲間にし、鶴の里を後にすることになりました。
◇
しばらく旅を続けたピーたんはご機嫌でした。
何故なら仲間にしたツバメが定期的に宝石を咥えて戻って来るからです。
こうして路銀を蓄えたピーたんは海を目指して旅を続けていました。
なぜ海か、それは海を見たことが無かったからです。
そしてしばらく歩いたピーたんは愛知県犬山市にやってきました。
「こんにちは。僕の母を知りませんか」
ピーたんは立ち寄った村で母親を知らないか尋ねました。
村人たちは知らないと口をそろえます。
それはそうでしょう。
ピーたんは母親の外見的特徴を説明しないのですから他人に分かるはずがありません。
「そんなことより、悪さをしている鬼がいるので退治してくれませんか?」
村人の一人がそうピーたんに持ち掛けたのでピーたんはそれに応じることにしました。
鬼たちは可児川の中州にある鬼ヶ島という島に住んでいるそうです。
ピーたんは泥で船を作ると鬼たちにプレゼントしました。
喜んだ鬼たちは泥船に乗り、どんぶらこ、どんぶらこ、とどこかへ沈んで行きました。
これにて一件落着です。
ピーたんは村人たちからお礼の品として光る竹を貰いました。
これで夜道もばっちりです。
ピーたんの旅はまだまだ続きます。
◇
次にピーたんは子供たちにいじめられているのに、ニタニタとたくさんの歯を見せながら笑う長靴を履いた猫に出会いました。
ピーたんが子供たちに近づくとその醜い容貌に驚いた子供たちが散り散りに逃げて行きました。
こうして猫は助かったというわけです。
「こんにちは。僕はピーたんといいます。母を探しています。あなたは誰ですか?」
「こんにちは。吾輩は猫である。名前はまだない。
ですが、あなたのお母さんの場所を知っています」
「では案内してください」
「はい、ではこちらへどうぞ」
こうして助けた猫に騙されたピーたんは檻に入れられ、名古屋港から海外へ出荷されることになりました。
一緒に捕まったツバメは檻の隙間からどこかへ飛んでいきました。
ピーたんは悔しい気持ちでいっぱいです。
そういうわけで船の上にいるピーたんですが、突然大きなクジラが現れ船を飲み込んでしまいました。
その衝撃で檻が壊れたので、ピーたんは脱出することに成功しました。
他の檻には人魚と髪の長い女と犬がいます。
人魚は歌ったり蝋燭を赤く塗ったりするのが得意だと言い、
女は自分の長い髪はプラチナの鎖と交換できるほどの価値があると言い、
犬はフラダンスを踊ることが得意と言いました。
みなさん、素晴らしい長所をお持ちですね。
ピーたんは犬が一番役に立つと思ったので犬を助けることにしました。
しかしここはクジラのお腹の中です。
ピーたんが困ったなと思っていると、逃げたはずのツバメがオリーブの葉を咥え戻ってきました。
戻って来たということはどこかに出入り口があるということです。
どこにあるのかピーたんはツバメに尋ねましたが、ピーたんは鳥語が分かりませんでした。
「ここ掘れ、わんわん」
犬がそう言うので、ピーたんは船の残骸の山を掘り進めました。
そしてガラスの靴を見つけたピーたんはそれを履くことにしました。
ぴったりです。
嬉しくなったピーたんは犬と手を取りながら踊り、
靴のかかとをトントントンと鳴らしました。
すると突然視界がゆがみ、周囲の風景が変わりました。
なんとピーたんは不思議な靴の力でいつのまにかベルギーにいたのです。
◇
なぜか踊ることを止められないピーたんは、
せっかくベルギーに来たのでルーベンスの絵を見に行くことにしました。
ガラスの靴は脱ぎました。
アントワープの聖母大聖堂に到着したピーたんは、犬を外に待たせ、中へ入ることにしました。
そしてピーたんはルーベンスの「マリア被昇天」という絵画を眺め、とても感動しました。
もしかするとこれが探していた母かもしれないなと思ったわけです。
絵画を見ているうちに眠くなってきたピーたんは持っていた光る竹を枕にして眠ることにしました。
すると何ということでしょう。
突然大聖堂の天井が左右にパカッと割れ、月から色とりどりの服を着た兎が竹笛を吹きながら歩いてきました。
「何するだ!」
ピーたんは抵抗しましたが、笛の音に抗うこともできず、そのまま月へ連行されていきました。
こうして月の民となったピーたんは永遠に子供の姿のまま末永く幸せに暮らしました。
一方、ピーたんを待ち続けたフラダンスの犬は、人々から焼き鳥を与えられ可愛がられ、すくすくと育ちました。
そして、犬は忠犬としてそこに銅像が作られることになったのです。
ツバメは親不孝者だったので冬を越すことができずに死にました。
めでたしめでたし。
※鬼ヶ島の所在地は愛知県犬山市ではなく岐阜県可児市です。来訪の際はご注意ください。




